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かくや姫は今夜も配信中  作者: ゆずさくら


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侵入

 砂漠にある詰所にいた兵士が一人、ひかるに駆け寄る。

 バギーから飛ばされた時に落ちたと思われる身分証には『ソフィア・マルシロ』とある。

 後ろから声がかかる。

「人道的に何も手出ししないのはまずい」

 だが、救急車を呼べば相当な高額になる。

 身分証には金融会社の名前があるから、払えなくはないだろうが、呼んだとてここは砂漠の真ん中。相当な時間がかかる。健康な体でも何もせずにこの砂漠に放置されたら、危険な状態になってしまう。

「詰所に運ぼう」

「いや、詰所とはいえ基地内に入れることは……」

「緊急的、人道的にやむを得ないのでは!?」

 兵士二人は上官に連絡を入れた。

「……」

 連絡を取っている兵士の目の色が変わった。

「どうした?」

「基地に連れて行く」

「何だって!?」

 突然の言動に動揺した兵士が、遠くの山に飛行体を見つけた。

「ドローン?」

「急ぐぞ!」

 ドローンは、翼をもつ低空を飛ぶドローンだ。

 二人は装甲車にひかるを運び入れると、急いで基地へと出発する。

 車両を走らせながら、二人は会話する。

「どこからの攻撃だ?」

「見た感じ、ドローンは西側の機種だ」

「アリゾナに西側のドローンが入る!?」

 二人は顔を見合わせる。

 航行距離が持たないし、距離が持つとしてもアリゾナに来る前に迎撃されているはずだ。

 理性ではあり得ない、と感じているが、見てしまったものは受け入れるしかない。

「この人は?」

「ファンドマネージャーとなっているが、我が国の諜報員らしい。シンガポールで重要情報を掴んだのだが、勘づかれたらしい」

「基地で保護しろと?」

 兵士は頷いた。



 兵士はストレッチャーを使い、ひかるを医務室に運ぶ。

 しかし、中には軍医がいない。

「呼んでこよう」

 二人はストレッチャーにひかるを乗せたまま、医務室を出ていく。

 一人の兵士が呼び止められる。

「おい、何で持ち場を離れている。詰所に誰もいないと騒ぎになっているぞ」

「西側のドローンで攻撃されたんです」

「そんなバカな」

 詰所の兵士を呼び止めた上官は、基地の管制に問いかける。

「東の2K地区にドローンによる攻撃があったというのは確かか?」

『詰所の映像を見ても、そのようなことはありません』

「今から確認しに行く、映像を用意してくれ」

 上官は、兵士を連れて管制室へ連れて行く。

「これをみろ」

 兵士は自分が映っている映像を見ながら、唖然とする。

 映像の中の兵士が、爆風を避けるために装甲車に隠れるが、実際に爆撃はない。

「……」

 上官は二人の兵士が同じタイミングで同じ方向からの攻撃を避けるような仕草をしていることを指摘する。

「何か声や音を誤認していたのでは?」

「……確かに飛んでくるドローンと、爆風を」

 上官は詰所の兵士を落ち着かせるように肩に手を置いた。

「冷静になれ。映像とどっちを信じる?」

「何のためにこんなことを……」

「その女というのはどこだ」

 詰所の兵士は動きながら答える。

「医務室です」

「もしその女の仕業なら、もう医務室にはいまい」

 上官と詰所の兵士は医務室につくと、慎重に扉を開けた。

「……やはりな」

 医務室には、彼らが運びこんだストレッチャーがあるだけで、女性の姿はなかった。

「スタントというにはあまりに悲惨な事故だった」

「打撃を受けても大丈夫な装備を身に付けていたかもしれないし、着地した場所側に細工があったのかもしれん」

「探します」

 上官は頷くと共に、基地全体に指示を流した。



 ひかるは『竹』に基地内の監視カメラシステムをハッキングさせていた。

 そして監視カメラを逆利用して基地内にいる所員と会わないように移動を続けていた。

 目的は地下七十メートルにある基地の中核にあたる施設。

 強化コンクリートで覆われた施設は、最新のバンカーバスターでも抉ることはできない。

 桐谷はそこに監禁されている。

 まるでひかるがやってくることを想定しているかのようにその桐谷の情報だけ、ばら撒かれていた。

「けれど、どうやって侵入してくるかまでは想定してないのね」

 全ては『竹』の能力を知るためだろう。

 ひかるはまんまと某国の罠にかかっていることになる。

 中核の強度を保つため、最下層への直通エレベーターはなく、複数の乗り換えが必要だ。

 中核に下りられる人間は限られている。

 その権限設定が、ひかるを捕まえにくくしていた。

 ひかるは順調に地下に下りていく。

 最後のエレベーターに乗り込む。

 この深い地中の中に、『竹』は通信をしてくる。

『リスア様。エレベーターの外で敵が待ち構えています』

 ひかるの目的はその先にあるのだから、当然のことだった。

 こんな地中深くいるのに、ひかるは月の力を感じていた。

「うん。大丈夫」

 そう自分に言い聞かせるように言った。

 やがてエレベーターは減速し、ゆっくりと止まった。

 片開きの扉の端に身を隠す。

 開いていく扉。

 構えた銃の気配がする。

 身を隠したまま、ひかるはその場の一人一人、心に触れていく。

『撃てない。あなたは撃てない。ここにいるのは、あなたの一番大切な人』

 ひかるは、周囲の人間の心を制圧した。

 確信して、エレベーターの影から表に出る。

 ひかるは大きく手を上げ、下ろす。

 銃が床に落ちる音がホールに響く。

 そして一人一人、床に膝をついたかと思うと意識を失ってしまう。

 倒れた所員たちの間を抜けて、ひかるはフロアの奥へと侵入していく。

 薄暗く、奥まったところに扉が見えた。

 複数のカンヌキが多方向に伸びる強固な扉が立ちはだかっていた。

 暗証番号を入力して解錠するのだろう。

 扉には入力装置が付いている。

 ひかるの心に『竹』の言葉が届く。

『ここは、侵入されないように通気設備などもない。そもそも人を監禁する部屋ではないのだ。宇宙船のように内部の酸素が尽きれば中の人の生命は維持出来ない。そして残された時間は少ない』

「早く開けて」

 ひかるが『竹』にそう呼びかけたのだが、返事が来ない。

 しばらく待ってようやく『竹』が返してきた。

『このロックには量子耐性暗号が使われている』

「あなたがもったいぶってそんなことを言うってことは…… 解けないってこと?」

 竹が沈黙する。

『いつかは解けるだろうが…… 間に合わないかも』

 ひかるは扉の向こうに『桐谷』の存在を感じると同時に絶望した。





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