某国からのメッセージ
ひかるは『カグヤ』として今日の配信目的を告げる。
「今日は、私のリスナーである一人が、行方不明になった件です」
コメント欄から混乱が見て取れる。
なぜ、リスナーのことを取り上げるのか。
どうしてそのことを知ったのか。『カグヤ』とどういった関係なのか。
疑問から、想像、推測、コメントが入り乱れている。
「行方不明と言いましたが、連れ去られたと思われます。なぜ彼が連れ去られねばならないのでしょうか」
さらに混乱したコメントで溢れた。
「様々な監視カメラ映像を見てもらいましたが、映っていません。視聴者さんの協力を得たいと思っています」
ひかるは、画面の隅から拡大するように『桐谷』の静止画を配信画面に映した。
「彼は『桐谷俊』と言います。もしかしたら、国外に連れ出されたかも」
更にコメント欄の混乱が加速した。
『何故国外に連れ去られるの?』
『その彼って、スパイ?』
『中東情勢と関連が?』
『一視聴者の話が、何故、今!?』
行方不明になった日付を画面に展開すると、不思議な情報がコメントされる。
『その日だと外交官ナンバーの車がスピード違反してて』
『その車の行き先の基地から、緊急で戦闘機が発進したのは知ってる』
コメントを見ていた『竹』からのメッセージが、ひかるに入る。
「いただいた情報の中に、基地から戦闘機が発進したと言う情報をいただきました。確かに、アラスカ基地を経由してネバダ州に入った戦闘機があるようです」
コメントに驚きのコメントが広がる。
『国内の情報網ならSNSとかで集まるかもだけど、アラスカとかネバダ州の情報ってどこから入手したんだろう』
『ネバダ州って、例のエリア51とかあるとこでしょ!?』
『ただの空想話じゃないの???』
ひかるはコメントを眺めながら、言う。
「もし本当なら、私もネバダ州の基地まで追いかけて行こうと考えています」
改めて、行方不明の視聴者と『カグヤ』の関係について質問するコメントが流れる。
ひかるは読みながらも、そこには触れない。
「一つ間違えれば、皆さんも巻き込まれていたのではないかと思うと、某国の行為は許されないと思っています」
『今更某国って…… さっきアラスカ州とかネバダ州とか言ったんだから、完全に名指しているよね』
『アメリカに行ったって軍事基地に入れてもらえる訳ないじゃん。小国の配信者だぜ』
ひかるがメッセージを見ていると、一つ、変わった内容のものが流れてきた。
『支援が必要か?』
ひかるはメッセージ発信者を確認する。
それは星野誠と言う者だった。
すぐさま『竹』がパーソナルデータを検索し、ひかるの手元に送られてくる。
星野誠。
政府関係者のようだ。メッセージの通り、力を貸せるとしたらこの男は適任だろう。
「ちょっと気になるDMが入っています。配信中断します」
ひかるは『カグヤ』としてそう言うと、画面を静止画像に切り替えた。
ひかるはメッセージを入れる。
『支援してくれる対価は何?』
『君のスマホ、そのスマホの先にいる者の正体…… と言ったら?』
『話にならない』
ひかるがそう書き込むと、すぐに返信が返ってきた。
『いや、すまん。こちらからの要求はない。一方的に関わらせてくれ。ただ、関わる上で、知り得た情報は国と共有される。それだけだ』
『このやりとりが筒抜けということは?』
こっちのPCは普通の回線だ。
ひかると『竹』のように秘密の通信ではないから、傍受されていると考えるべきだ。
『この情報が抜かれたとて問題なかろう?』
この通信でひかるの秘密を話したわけじゃない。
星野が協力すると言っただけだ。
『けど、この通信で何が出来るの』
『完全合意なら、なんとかする』
某国は『竹』の諜報機能を使わせ逆探知しようとしている。
協力を仰いだ方がいい。ひかるは合意した。
『タイミングを待て』
全く意味がわからなかったが、星野のメッセージはそれで終わった。
星野のメッセージが終わったことを確認する時間分、ずっと配信を中断していたひかるは、これで終わりと判断するや、再開した。
「ご心配をおかけしていますが、某国からの脅しとかではないので」
コメントが流れる。
『それフラグ』
『裏で脅されてるんじゃ』
『確定フラグだよ』
『カグヤちゃん! 気をつけて!』
ひかるはコメントを読みながら、笑顔をつくる。
「みんな心配してくれてありがとう。みんなの情報を元にして、必ず巻き込まれたリスナーを取り返してくるね」
再び、コメントが溢れ返っていた。
が、突然、同じメッセージに支配される。
すると、ひかる=カグヤの表情が曇った。
『全視聴者の情報は把握した。同じ目にあいたくなくば、接続を切れ』
接続数が激減していく。
だが、ゼロにはならなかった。
ごく少数だったが、繋ぎ続けている者には、次のメッセージを見ただろう。
『カグヤに告ぐ。君の全力を見せたまえ』
露骨な表現だ、とひかるは思った。
彼を助けようと『竹』を動かすことから竹の能力や、規模を確認しようとしている。
情報探査能力だけではない『竹』のスペック全体を把握したいのだろう。
ひかるは、カメラに向かって言う。
「助ける。絶対に助けるから」
いつも通り配信終了の音楽の流す。
「行って…… きます」
それだけ言って、配信画面を切った。
ひかるはスマホを使って『竹』とやりとりする。
思考でやり取りするため、部屋を盗撮、盗聴されていても某国にはバレない。
地球の技術では、そもそも『竹』とやり取りしているかどうかも分からないはずだ。
だが、一度地球の通信に干渉しようとすれば、その入り口を掴み、罠をかけてくるだろう。
某国の目的は『竹』あるいは、ひかる=リスア本人を捕獲することだろう。
ひかるは考える。
私の目的はただ一つ。
桐谷を取り戻す。ただそれだけ。
彼に対する恋愛感情や、しあわせな結婚などはひとまず置いておく。
某国は損得勘定一つで軍事力を行使する国なのだ。
そんな国には断固抵抗するし、情報を渡す気もない。
配信用機材を片付けていると、家の電話がなった。
ひかるは少し躊躇った。
父の康二も母の美月も家にいない。
掛かってきた電話に対応することができないからだ。
けれどひかるは、緊急のことを考えて廊下に出ると壁掛けしてある家電の受話器を取った。
「!」
ひかるの目に、異物が見えた。
それは近接センサーだった。
今、何かがトリガーされて、起爆される。
竹からの判断も、ひかると同じ。爆発物の認識だ。
避け切るのは難しい。
急所を守るように素早く畳んだ左腕で頭部を守った。
小さく軽い爆発音。
壁付の多機能電話が吹き飛んで、小さく煙を上げている。
左腕に刺さる複数のブラスチックや金属片。
傷も深くなく、頭部への直撃は避けることができた。
気付かなければ至近距離なので、爆弾に気付かなければ十分目的が達せられただろう。
扉の外でチャイムを押す音だけが聞こえる。
チャイムの機能が、この多機能電話機と一体になっているため、スイッチを押すだけの音しか聞こえない。
扉の外に立っているのは、某国が送り込んだ者か、それともさっきのメッセージを入れた同邦の協力者、あるいは全く関係ない一般の配達員……
扉に近づきドアスコープを覗こうとして躊躇する。
ひかるのスマホを通じ『竹』が警告してくる。
『そこレーザー照射されてます!』
そのまま背後に下がると、外が見える窓に近づく。
握りしめたスマホの向こうで『竹』が周囲の監視カメラや直近の録画内容をスキャンする。
同盟国である某国のスナイパーなら、銃を持ち込ませることなど容易いだろう。
ここは五階。
窓から飛び降りてもひかるの身体能力を持ってすれば問題ない。
どちらかというと、超人的な能力を目撃される方が問題になる。
星野は本当になんとかしてくれるのだろうか。
家にも仕掛けがあり、周囲に刺客が送り込まれているとなれば、両親が心配だ。
なぜこんなことになっているか、説明することもできない。
家の仕掛けだけならスマホを通じ『竹』を使えばなんとかなる。
だが、ここでスマホ、つまり『竹』を使い過ぎれば某国の思うツボだろう。
この事を両親に説明できない点も問題だ。
なんと説明すればいいのか。
核心に触れてしまえば、某国が確かめたがっている事を自ら吐露することになる。
ひかるは前にも後ろにも進めない状況になっていた。




