###ある冒険者の受難 夜の森の夢(?)
「セネカ・・・あれは大丈夫なのか?。
とんでもない化け物になっているが・・・。」
「デュークさん。仲間のことを化け物と言うのは感心しませんね。
確かに、すごい力ですが、あんなのはまだ序の口です。
それに・・・今のところ『力』はイシュカさんの方が上です。
あの程度で尻込みするようでは、イシュカさんのことを守るなんて出来ませんよ。
守るのでしょう?。 今度こそ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉の無いデューク。
セネカとしては、仲間を化物扱いして欲しくない。ので発した言葉だ。
そのセネカが、アヤトよりもイシュカよりも・・・デュークの方が化物だと思っているのだが。
アヤトが地面に俯けになり のたうち回っている。
その理由は骸骨の背骨を貫いているデュークの剣だ。
上から地面に、腹部に刺さる刀がスケルトンを大地に縫い付けている。
何重にも鎖で縛りつけられた骸骨の姿、それが鎖を引き千切らんばかりに暴れる。
刀が悲鳴を上げ、負の魔力が周囲を吹き荒れる。
急速に朽ちていく周りの木々。
「セネカ!、早くしろ!。」
デュークの切羽詰まった声。
朗々としたセネカの声が響き、神聖魔法で編まれた光りの鎖が骸骨の姿へと溶けていく。
次第にアヤトの手足の動きは鈍くなる。
それを確認すると、セネカに目線を送り最終確認、デュークは一気に骸骨の体から刀を抜く。
「これ、本当に大丈夫か?。」 完全に背骨を貫いたんだが・・・と見るデュークの眼前で、アヤトの背骨が修復されていく。
(良かった。)
此処にイシュカは居ない。 こんな場面見せられない。
イシュカ・アルセンテ・フィオーラの女性3人はテントだ。
なので今この場に居るのは、アヤトを除けばセネカ・デューク・シャロの3人だ。
セネカは、この凄惨な場面を想定していたからこそ、イシュカを置いて来たのであろうが、それにしてもひどい扱いだと思う。
治るとは聞いていても、普段のアヤトを知っているだけに、その身を剣で刺すことに罪悪感がある。
そして、同じく(?)心配そうにアヤトをのぞき込む姿が・・・。
大きい。
巨人と見まがうばかりの・・・というか、骨の巨人だ。
俺の10倍くらいありそうだ。
セネカは【 ガシャドクロ 】と呼んでいた。
アヤトに、たくさんの部品からなる白い鎧を着せつつ、セネカが語るところによると、アヤト専用に作られたゴーレム・依り代・形代といった類のものだそうだ。
何故か、このガシャドクロが、
「パパ?。」と、聞いてきて、
「この人があなたのお父さんですよ。」 とセネカが、眠る(?)アヤトを紹介している。
その声に反応したのではないだろうが、アヤトの目が赤黒く、妖しい光が灯る。
デュークが目の前まで近づき手を左右に振ってみるが、アヤトはまったく反応を示さない。
眼下の光りがゆっくりと明滅しているだけで意識は無いようだ。
生き倒れて、そのまま野ざらしになったしゃれこうべのような様。
上から気配が下ってくる。
「パパ・・・。」
心配そうな声で、それでいて、ガシャドクロと呼ばれた骸骨はその大きな口を、大きく開ける。
「・・・おい!。」
デュークの声をかき消す、顎の骨の大きく鳴る音と共に、アヤトの体がガシャドクロの口の中に入っていく。
ガシャドクロは立ち上がり、
「アアアァアァァァァアアァァ・・・」
天に大きく雄叫びを上げたかと思うと、その身体がどんどん縮んでいく。
やがてデュークの知るアヤトの姿になる。
再び前のめりに倒れたアヤトを、仰向きに寝かせる。
(どうなってるんだ?。)
デュークは肩をすくめた。
ハッ・・。
アヤトは飛び起きる・・・・夢か。
あまりに慌てていたので、ウルトラマンが光線を出す仕草と空手の型を合わせたような、変なポーズをとってしまった。
周りを警戒する。
パーティーがいつも使っているテント、少し大きめのものだが、中にパーティーメンバーは居ない。
俺だけ寝かされていたようだ。
それにしても・・・変な夢を見た。
見ず知らずの冒険者に、化物と間違われて追いかけられる夢だ。
必死に走ったりした後、剣でボコられ、最後に骨の化け物(俺のことじゃないぞ)に喰われる夢?・・だ。
おまけに、セネカに、「あなたのお父さんですよ。」 と巨大な骸骨のオバケに紹介される・・・最低な悪夢。
何か薬草採取を始めた後の記憶が無いんだが・・・・・・夢だよな?。
その後、テントの外に出る。
何かを確認するようにパーティーメンバー達を見るが、誰とも目が合わない。
集めていたはずの薬草も無くなっている。
・・・というか、いつの間にか背負っていた籠自体が無い。
何処いった?。
辺りを見回す。
失くした覚えはないのだが・・・アヤトは戸惑う。
眠れなくなったのに、悪夢だけは見るなんて・・・まったく、何の因果だ。
再び薬草を集めに行こうとしたら、
「今日はもう戻ります。アヤトさんも疲れたでしょう。ゆっくり休みましょう。」 と妙に優しい口調でセネカに言われた。
アヤトはジト目で仲間を見る。
デュークは目を逸らすが、セネカは笑顔を向けるだけだった。
(おかしい。)
セネカが、修行を途中で切り上げるなんて・・・あいつは絶対そんなことはしない。
過去、修行と称して崖から突き落とされた。 泣き言を言っても駄目だった。
そんなあいつが、修行の途中で優しく声を掛けるはずがない。
それに、何故か分からないが、心の中でセネカに対する不信感がすごい。
・・・あと、デュークが怖い。 何でだろう?。
俺にも優しい好青年で、セネカいわく、俺の修行より過酷だという苦行に耐えた勇者、時々セネカの行動を止めてくれる優者、それを何故。
アヤトは、猜疑心に満ちた目でセネカを睨み続けた。
アヤトはひどく疲れていたので、帰ることについては異存はなかった。
町に着いたのは朝の中途半端な時間、朝食の時間には遅く、昼食の時間には早い。
そんな人々の働く時間帯、アヤトは今日一日休みになったので、宿で横になる。
朝から休むのも乙なもので、ぼーっと、いろいろ考えると、何故か薬草の味が頭に浮かぶ。
それを振り払い、昨日・・・今日の夜(?)のことを考えるが、分からないものは考えても分からなかった。
次の日、仲間と共に冒険者ギルドに向かう。
セネカが受付で取れた素材の換金している間、アヤトは依頼の掲示板を確認しに行く。
そうそう新しい情報など出ないが・・今回はあった。
この前なかった紙が貼ってある。
それには、【森の奥で強力なアンデッドの目撃例、行動範囲不明、詳細不明、森周辺の街の冒険者は注意されたし。情報求む。有益な情報には謝礼が支払われます。】 とあった。
「強力なアンデッドだって・・怖いな。」
アヤトの言葉にセネカは応える。
「ええ、本当に。」
「この情報自体は、冒険者の間で数日前から出回っていました。」 とセネカが教えてくれた。
いわく、
森に異変がある。
普段いない魔物がうろついていた。
という噂程度のもの。
「そうなのか。」
「まあ、私も森の様子を調べて欲しいとギルドマスターから相談を受けていますし、昨日の夜の森の様子について報告してきます。
アヤトさんは此処で待っていてください。」
セネカは、職員に案内され階段を上がっていく。
1時間もしないうちに降りてきて、セネカの口から今後の方針が語られた。
ギルドマスターの要請で、森の様子を見る為、しばらくこの町に滞在することになったらしい。
その間、町で薬種問屋を回ったり、ポーションを売る店を回って、話しを聞くことになった。
薬種問屋は、薬草を取り扱っているが、薬師ギルドや魔術士ギルドが、直接 冒険者ギルドから買ったりする。
その際の細かい取り決めがあったり、貴族に売る場合は薬種問屋を通すことになっているなど、色々あるようだ。
セネカの紹介で、業界の事情を語ってくれた薬種問屋の主は、この町では新興で、古株の大店から嫌がらせを受けたりするので、護衛の他に魔法使いの新人が用心棒についていたり、胸の大きなトロそうなお姉さんが案内に付いてくれた。この商会の一番の出世株・・・ではなく、一番使えないので案内に回されたのだろう。というのが本人が語ったこと。
薬草の知識が豊富で充分すごいと思ったが、テキパキ働く他の従業員を見ているとフォローし難かった。コケて薬草を散らかしてたし・・・。
ポーションを売る店も、薬師ギルドや錬金術士ギルドから卸されるが、魔法使いが修行や日銭を稼ぐ為店に売ったりしている。その場合、お小遣い稼ぎレベルぐらいならいいが、大量に作って売るのは駄目だったり、いろいろ煩い事情を教えられた。
他に、昼に薬草採取に行ったりもした。
「嫌だ行きたくない。」と言う善良な青年の主張は、ベッドから引き剥がされ、「このまま運ばれるのと、自分の足で歩くのと、どっちがいいですか。」 という悪良な暴言に叩き潰された。
実際、行ってみると、薬種問屋のお姉さ・・・従業員が一緒に行動してくれたし、普通に 何でもない薬草採取でびっくりした。
夜の薬草採取から7日後、強力な2体のアンデッドが討伐されたとの情報が掲示板に張り出され、ギルドマスターの名前で、問題が解決されたと発表された。
アヤトが、その掲示板を見た時は、発表から1日以上時間が経っていたが、冒険者ギルド内はまだ活気に包まれていた。
さっそく森に向かう冒険者も多い。
生活や命が係わるので、皆 異変には敏感で、俺が思っていたより大きな問題だったらしい。
「どんな奴等だったんだろうな。」
「ええ、何でもかなり大きな個体だったとか。
あと、珍しく食事するタイプのアンデッドだったとか。」
「そうなのか・・・羨ましいことだ。
俺も滅多に食べられないのに。」
「ええ、本当に。」
セネカは微笑み相槌を打つ。
「私達も帰りましょう。」
「ああ。
でも、いいのか?。何かギルドで頼まれていたみたいだけど。」
「それはもう解決したので大丈夫です。」
もうこれから学園に帰るのだから。
「そうなのか?。」 何か納得がいかない様子。
そんなアヤトを安心させるようにセネカの口調は穏やかだ。
「ええ。 もうトゥリィーの森から居なくなったので。」




