###ある冒険者の受難 『天の息吹』(後)
両手で頭の無い兎を持ったまま、肘を左右に振り迫り来る骸骨。
まるで走り方を忘れたような、奇妙な足の動きで近づいて来る不浄人。
はっきり言って、怖かった。
スケルトンは、ある人物がその走りを見れば、後ろ脚だけで走る時のエリマキトカゲがこんな感じだよな、とか言ったであろう動きで追ってくる。
速くない・・・速くは無いが・・・。
平常心・・いつも通りアンデッドを天に返すだけ、これは神が私に与えし使命、怖いことはない・・・・・・ことはなくない・・・怖いものは怖い。
セグリスは必死に足を動かし、精神を集中する。
光りの神エリナスよ 汝の子に祝福を 神の試練を受ける者達に【光りの加護】を・・・・
セグリスが仲間の武器に祝福の魔法を掛ける。
シュレッツとガトンの盾役2人が後ろを向き、加護を受けた盾を前面に出す。
剣士のセテムが剣を振るい、セグリスもメイスをぶちかます。
逃げる足を止めず、距離を取った狩人のホグトと、同じく聖職者のカナリアが、遅れて足を止めて呪文を唱え始める。
呪文を唱えるカナリアを守るべく、ホグトが鉈剣を構える。
・・・・邪悪なる魂 聖なる光で貫きたまえ 【聖なる槍】
大きな光りの槍がスケルトンを貫く。
骸骨の動きが止まる。
アンデッドは、何故か 攻撃をしたこちらではなく、宙を見つめている。
これは、効いているのか?。
さっきから反応が鈍いし、こう・・・動きが緩慢な感じだ。
アンデッドらしいと言えばらしいが・・・。
神聖魔法を受けて嫌がる素振りも見えないし・・・。
ビクン、急にスケルトンの顔が上がる。
頭蓋骨が横に動いて・・目が合った。
暗い色の光・・・動きが変わる。
ホーリーランスがまったく効いていない!?。
ボトッ・・。
与えた影響と言えば、持っていた兎の死体を手放させた事ぐらいだ。
仲間全員で、バッと走り出し、また、止まって魔法を放つ。
それを3回・4回と繰り返す。
同じ呪文を唱え、同じ魔法を放ち、走る。
魔法が当たれば反応するが、攻撃を受けたというより、戸惑っているように感じる。
やっぱりダメージが通った様子が無い。
一見すると意味がない行動を繰り返し、逃げる。
ただ逃げているのではない。
『天の息吹』のパーティーが狙っているのは、敵の観察と強い魔法を放つ時間を稼ぐこと。
高度な魔法である分、掛かる集中力は桁違い、呪文も長くなる。
カナリアの、その呪文を唱える時間を稼ぐ為に、仲間は前に出て戦っている。
ホグトが仲間を誘導する。
前線に立つ4人も、攻撃しては退がり、逃げながらも攻撃を繰り返す。
この上位のスケルトンは負の魔力が強く、直接触れると危険だ。
穢れや呪いをもらってもおかしくない。
怖い・・・ことは怖いが・・・・・・・・
極度の緊張感の中、焦りと恐怖の感情が落ち着き、不思議と冷静になってくる。
それは、いつものように戦えているという自信と、仲間への信頼があるからだ。
皆で連携して下がり敵を誘導する。
ガッ・・。
スケルトンがこける。
「よしっ。」
草を結んだだけの簡単な罠。
単純だが、アンデッドはこうした罠に掛かりやすい。
罠を避けるようなことが無く、そんな頭も無い。
・・・・・・・・・光りを纏う偉大なる御身、その意を示したまえ 【聖なる光球】
セグリスが使った付与の魔法とは比べものにならない強力な神聖魔法。
四つん這いから起き上がった骸骨の化け物に、光の玉が降り注ぐ。
骸骨の化け物は、降り注いだ光りに消され・・・・・・
・・・ない。
『聖なる光球』の魔法を、両手を広げて受け止めて・・・呼吸するように光りを吸い込む。
「えっ!。」(・・・・・食べた??。)
カナリナの気の抜けた声。
これで浄化できると思ってないが、さすがに、無傷だとは思わなかった。
アンデッドは、腰を落とした姿勢で首を傾げている。
数秒の後、スケルトンは起き上がり襲ってくる。
右手を大きく振り、ガトンの盾を骨の指で切り裂く。
さらに襲い掛かってきたスケルトンに、セテムが剣を振り下ろす。
ガッ。
骸骨の右手で剣の中ほどを掴まれる。
メキィ・・バキィ。
セテムの剣が、骨の指に握られた所から折れて真っ二つになる。
「なっ!・・・。」
シュレッツが前に出て、盾を投げ出すようにスケルトンにぶつける。
これには、さすがにふらつき体勢を崩す。
その隙に、3人はそれぞれ駄目になった武器を手放し、距離を取る。
「何だあれは・・・ただのスケルトンじゃないぞ。」
皆が目で頷く。
一目散に逃げ出した。
スケルトンの足は、兎の死骸を手放した為か、さっきまでより全然速い。
あっと言う間に近づかれる。
追いつかれる・・・・どころか、追い抜いて行ってしまう。
そのまま先に行ってくれたら良かったのだが、急に止まったかと思うと、動きを止める。
スケルトンは姿勢を低くし、変なポーズ(短距離走のスタートのようなポーズ)になったかと思うと、一瞬のうちに こちらに肉薄していた。
何か知らんが、これはヤバイ。
受けずに避ける。
止まることなく木にぶつかって、木の方を押し倒した化け物は、首をグルンと後ろに向け、こっちを見る。
倒れた木が朽ちていく。
本当にヤバイ。 寒気しかしない。
息が荒い・・・軽装のホグトが息が上がっているのだ。
重い武器を持つ前衛や体力の無いカナリアはきついはずだ。
冒険者として普段から体を鍛えているが、体が付いていかない。
しれも、相手は疲れを知らないアンデッド。 分が悪過ぎる。
急にスケルトンが視界から消える。
こけた・・・地面に伏している。
(あそこには何も仕掛けて無いぞ?。)
ホグトは、キツネにつままれたような表情でそれを見る。
スケルトンの足元が光っている。
魔法陣が浮き出て、地面から出てきた光る鎖がスケルトンの体を縛り付ける。
魔法陣・・誰かが設置した、魔物に反応するタイプの魔法の罠のようだ。
周りを見れば、他にも設置されたものと思われる魔法陣が地面に複数。
セグリスが、カナリアを見る。
カナリアは首を横に振っている。
エリナス教で教えている神聖魔法とは別の系統のもののようだが、同じく浄化魔法を学んだ身としては、これが高度な魔法知識と高い魔力が無いと使えない魔法であることは分かる。
「あれは・・・。」
その、まだ発動していない複数の魔方陣の中に、1つだけ剣が刺さった魔方陣があることに気付く。
シャラ・・・シャラ・・・、場にそぐわない妙なる金属音。
ハッ、と魔法の鎖に縛られてもまだ起き上がろうと・・・結界から出て来ようとしているスケルトンに恐怖する。
セグリスは、この魔方陣を設置した者には悪いと思いながらも、その剣を抜いてセテムに渡す。
縛り付けられたスケルトンの体の、鎖が巻きついていない箇所を剣で切りつける。
ガシッ。
少しだが骸骨の体に傷が付いた。
セテムは手元の剣を見る。
先ほど自分の剣で切った時は、傷の一つも付かなかったのに・・・。
勢いづいたセテムは何度も剣を振る。
途中、切るのに鎖が邪魔なのと、スケルトンには打撃の方が有効かも、と思い立ち、剣の腹でスケルトンの頭蓋骨を叩く。
滅多打ちにする。
ようやくスケルトンが伏せた状態に戻り、鎖の魔法がしっかり機能していることを確認する。
地面に押し付けられ藻掻くスケルトン。
やっと息が吐けた。
そんなセテムの様子を見ながら、改めてセグリスは、その手元の剣に目をやる。
剣から感じる強い神聖魔法の力、剣身が薄っすらと光っている。
「すごい・・。これは、・・・浄化の魔法剣か。 誰がこんな物を・・・。」
カナリアも剣を確認して感心している。
セテムは剣を振り上げ、このまま止めをさすか?。と、仲間に視線をやる。
仲間が総意で頷こうとした刹那、悪寒と違和感に襲われる。
剣を振り上げた姿勢のまま、ふと、そちらを見ると、巨大な骸骨のオバケがこっちを見ていた。
いつの間にか、静かに自分達パーティーを見下ろす存在。
いつからそこに居たのか・・・。
骨の巨人が体育座りで、覗き込むように こちらを見ている。
ゾクッ。
心臓を圧迫するような死の気配。
まったく気付いていなかった。
身体を縮めた変な座り方でも大柄な自分の身長の倍以上・・・あんな大きなものが傍に居たのに!?。
気付いてしまうと、何で気付かなかったと思うくらい恐ろしい存在感、宿す魔力の恐ろしさ。
あれに立ち向かう?、想像すると、ゾクッ、また汗が止まらなくなる。
あれと戦う?・・無理無理・・・・自分が、あれに勝てる光景が思い浮かばない。
仲間が死ぬ姿が想像できてしまう。
あれは無理
仲間に視線を送ると、同じ意見のようだ。
巨大なスケルトンは動かない・・・じっとこちらを窺っている。
合いたくはないが、目が合うと、巨大スケルトンは、
「パパ?。」
(どうしてそう思った!。)
心の叫びを抑え込む。
スケルトン・・それも巨大な・・が、喋ったことより、その内容に衝撃を受けるが、逃げる。
幸い巨大な骸骨のお化けは追って来ない。
目線(?)はしっかりこっちを追いかけているのに、追って来ないのが不気味だが、とにかく逃げる。
あの小さい方のスケルトンも、魔方陣に捕まったままだ。
今のうちに逃げる。
あの神聖結界を張った魔法陣の主に感謝しつつ、全速力でその場から逃げた。
街に着いた『天の息吹』は、すぐに今回の件を冒険者ギルドに報告した。
それからすぐに冒険者ギルドから凶悪なアンデッド2体の討伐依頼が出されたが、冒険者パーティー『天の息吹』が、それに名乗りを上げることはなかった。
冒険者ギルドのギルドマスターに相談して、浄化の剣の持ち主を探したが持ち主は現れず、あのスケルトンを止めた結界の魔法陣の主も分からなかった。
それからすぐに、別の街から来た冒険者パーティーがあれを討伐したとの報せが入ったが、しばらくの間、『天の息吹』のパーティーがあの森に近づくことは無かった。
あれだけ受けていたアンデッドの討伐依頼も、受けることはしなくなった。
薬草は別の場所でも採取できるし、討伐の依頼は魔物でもいい。
神はアンデッドの存在も否定しているが、魔物の存在も否定している。
徳を積むのも、アンデッド退治が全てではないし・・・アンデッド怖い。
あの場で拾った剣であるが、今はセテムが使っている。
元々冒険者は、こういった場合、冒険で得た物を自分の物に出来るし、セテムが剣を気に入っている。
熱心なエリナス教の信者である彼は、あの剣は神が自分に与えたもうた物として、手離し難く思っているようだ。
私も、近くにあった方が心強い。
あれから、アンデッド討伐の依頼を受けていないので『必要が無い』 『もっと役立てられる人に・・・』という話しも出たが、この剣は魔物にも高い効力があるし、何よりお守りのような物だ。
手放すのは・・精神衛生上とても・・・良くない。
アンデッド怖い。
売ることはせず、そのまま使うことにした。
その後の冒険においても、その剣はパーティーの支えになった。
偶に焚き火を囲んで、皆であの出来事を語り合うことがある。
アンデッド怖い。
「これからは・・アンデッドとは戦わず、別のやり方で神の教えを体現していくことにしよう。」 と話し合った。




