###ある冒険者の受難 夜間採取
あれから学園に、帰ることは出来なかった。
キャスベル達を見送ったクハナの街から近い別の町に向かって移動する。
途中 日が傾いてきたので野営の準備をする。
森というのはけっこう暗い。
木々は鬱蒼と言う言葉がふさわしく、密に茂った枝葉が日の光を奪い、森全体に影を落とす。
日が陰るだけで夜を連想させる暗所、それが森だ。
そんな所で、雑草にしか見えない草を区別するのは、慣れていない者にとっては困難を伴う。
いわんや、日が暮れた時間とあっては・・・この時間に薬草採取を行うのは現実的ではない。
ただ、そう思っていない人物もいるようで・・・。
「今夜は、夜の見張りをしなくていいですよ。」
優しく笑ったセネカは、アヤトに夜の薬草採取を推奨した。
推奨という名の強要、「嫌だよ。」 即座に断る。
何が嬉しくて、夜の森で、一人で薬草採取をやらなきゃならんのだ。
だが、セネカに人の話しを聞く気はないようだ。
「今日は魔素の影響を受けずに、普段通りの活動が出来るか見定める修行も兼ねて、これから 薬草の採取をしてもらいます。
白の鎧は脱いで探しに行ってくださいね。」
その内容も無い用だ。何故か、マネキンの鎧を脱いだ状態で、夜の森の中を彷徨え、と言う。
こんな外を、裸でうろつけるか。
もちろん、2人の間には大きな認識の齟齬がある。
セネカは、アヤトはリッチなのだから、スケルトンの姿で歩いても普通のことだと思っている。
一方のアヤトは、自分が人間であると思っているので、このマネキンの鎧を脱いで歩くことは、裸で森を彷徨うことと同じだ、と感じている。
この差は埋まらない・・・多分。
「何も、森で鎧を脱がなくてもいいだろう?。」
「此処だから脱ぐのです。
此処なら他人も少ないですし、人目の心配も、迷惑を掛ける恐れも少ないです。
それとも、アヤトさんは、学園で鎧を脱いで歩き回りたいのですか?。」
「もちろん、そんなことはない!。」
秒で否定、きっぱり言っておかないと後で大変なことになる。
「なら、今此処でやりましょう。」
若干 弱気になったアヤトに、セネカは言葉を乗せる。
「部屋の中で、気を研ぎ澄ます修行だけでは限界があります。
その白の鎧には、浄化の機能がありますが、アヤトさんの素の状態で魔素に対抗できるようにならないと、万が一の時に困ったことになります。
何かの拍子に骸骨の姿になって、そのまま魔素を取り込んでしまったら、下手すると魔物化しますよ?。
アヤトさんはそれで良いのですか。」
「良くはないが・・・・。」
それでも、夜の森・骸骨の姿で薬草採取をやるというのには、賛成しがたいものがある・・・・・・絵図らとかヤバイ。
「今なら、私の手厚い魔法のサポートもあります。」 セネカは訴える。
「・・いや、そうは言われても。」
今エアコンを買うと、取り付けサービスが無料で・・・、みたいに言われても困る。
「アヤトさん!。 この修行は、貴方自身の為に、いつか受けなければならない試練なのです。」
「いや、それは分かるが・・・。」
此処が押し時とばかりに、言葉が並べられた。
今日も今日とて薬草採取。
アヤトは、しぶしぶ夜の森の中を薬草採取に向かっていた。
仲間達に見送られて、トボトボ、と森の奥へ。
後ろを何度も振り返りながら歩くアヤト。
後にデュークは語る。
親に捨てろと言われ飼えなくなった小動物を森に捨てに行く子供か、その見捨てられた小動物、それを見送る気分だった、と。
絵面は、凶悪な魔物を外に放す、だとも言っていたが。
そんなアヤトは、森の中を薬草を探して彷徨う。
夜の闇の中、灯かりも持たずに薬草採取、骸骨の姿で・・・修行と称した、ただの苦行だと思う。
夜の森は静寂に満ちている。
息遣いさえ聞こえず、時折、カチャカチャ、と聞こえる高い音・・・多分気のせいだろう。
深呼吸だ。
人間 不安になると余計な事を考えてしまう。
それより此処は危険な夜の森、周囲を見回す。
微かな虫の音と獣の息遣いしかない。
他に気配はない。
まあ、それはいい。
この森の何処かにセネカ達パーティーの仲間は居る。
もしもの時は、さすがに助けに来てくれるはずだ。
それより、正直なところこの姿を他の誰にも見られたくない。
他人には会いたくない。
もちろん、一番 見られたくないと思っているのは日本の知り合いにだが・・・。
もし見られたら、羞恥で死ねる自信がある。
自身の身を見る・・・・・・不死人だ。
ただ、このアンデッドというやつは、良くないことばかりだが、夜の薬草採取に関して、一つだけ良いことがある。
アンデッドは命を見ると言われており、霊能力のように霊視、命を見ることが出来る。
なので、魔力を持つ霊草のような植物は見つけやすい。
そんな植物は、数自体は多くはないが、後ろに背負う籠の嵩が増すくらいには集まっている。
まずまずの成果だ。
それを1つ手に取る・・・・革の水筒から水を少し出して洗う。
薬草を口に入れると・・・春菊みたいな感じか。
少し苦味はあったが、なかなかの味だ。
そう考えると、この薬草採取にも楽しみが無いわけでもない。
以前、焚き火の前で火の番をしながら、自分が食べれる物を探しに行こうと考えていたことを思い出す。
もう少し、水の魔法の練習もした方が良いかもしれない。
いちいち水筒の水で洗うのも面倒だ。
取り留めのないことを考えながら、新しく見つけた茸に目をつける。
これはどうだろう?。
随分派手な色だ。
さっき口に入れた茸はまずかったが・・・。
紙に茸の特徴を書き込む。
取り敢えず、食べてみて駄目だったら吐き出せばいい。
少しずつでも、自分にとって美味しものを増やしていかなくては。
基本 セネカは、アンデッドであるアヤトの食事に興味が無い。
美味しいものが食べたかったら、自分で探して食べてください。というスタンスだ。
まあ、、他人の口に、平気で生きた蛇を入れるような人物だ。
あいつの味覚に期待してはいけない。
他人に頼らず自分で探さなくては・・・目を凝らして辺りを探す。
その時、フッ、と視界の端を何かが走り抜ける。
アヤトは、反射的に追いかける。
何故かは分からないが、追わなくてはならない気がしたのだ。
足を速める。
森の中、しばらくそれを追いかけると、それが何かが分かった。
兎だ。
薄い茶色の毛並みで、夜の闇の中では見分けにくいが、今の俺には関係ない。
走る。
(何で俺は兎を追いかけたんだ?。)
謎である。
それでも、やっと追いついた兎を、今さら追いかけないという選択肢は浮かんでこない。
さらに足を速めるべく筋力強化を強化する。
グンと速度が上がる。
いつものマネキンの鎧を脱いでいるせいか、筋力強化の調整がうまくいってないが、うまくいって良かった。
身体が軽いのも関係しているのかもしれない。
焦って方向転換した兎、更に逃げるべく後ろ脚に大きく力を入れ跳ぶ瞬間、その前に兎の首根っこを掴んで捕まえる。
兎は盛大に鳴くが、まあ、捕まったのならしょうがない。
この世は弱肉強食、諦めてもらおう。
何かがおかしいと思ったが、何が可笑しいのかは分からない。
なので、アヤトはにっこりと笑った。
「いただきます。」と。




