###冒険者パーティー『天薙の払い』 経緯
足が6本ある山椒魚のような魔物が突進してくる。
地響きを立てる巨体、レグランが前に出る。
斜めに走り、自分の体を投げ出すように盾を斜めに当て、モンスターとの位置を替える。
僅かだが魔物の勢いが落ちた。
間髪を入れずに放ったオランドの一撃が弾かれ、続いてレグランの重い一撃の音が響く。
別の場所から別々に響く音、仲間達の攻撃も続く。
こんななりでも さすが竜種、強い。
竜種の鱗の特徴は、物理的に硬いこともあるが、魔法への耐性が高いのが厄介だ。
生半可な腕では傷も付かないし、生半な魔法では効きもしない。
だが、生半可ではない剣の腕があれば切れるし、高位の魔法なら通る。
仲間の攻撃がそれぞれ激しくなり、引きつけられた竜が仲間達を襲う。
この瞬間。
スッ、と、浅くスライドするように入ったオランドの剣が、竜の鱗を削ぎ落とし、後方のキャスベルの精霊魔法が炸裂する。
3時間以上 竜と対峙し、ようやく訪れた機会、有効打となる魔法が鱗の剝がれた皮膚に直撃した。
腹を抉られ暴れまわる竜の、その抉られた傷痕に、一斉に攻撃を加える。
一時間は、外から引き付け、一点を狙う攻撃を続けたと思う。
ようやくおとなしくなった巨大山椒竜を前に、仲間皆で歓声を上げる。
竜退治の依頼、引き受ける冒険者はいなかったが、誰かがやらなければならないことだ。
冒険者ギルドの指名依頼ではあるが、使命感だけで受けた依頼では無い。
ドラゴンバスター・竜殺し、冒険者ならば誰もが一度は憧れる偉業だ。
だから、仲間達が喜び合うのは当然だ。
ガッシャン、音に振り向くと何か割れている。
地面のシミ、直後に炎の魔法が襲いくる。
冒険者なら、いつ いかなる時も油断するな。
昔 先輩に言われた言葉だが、この時、気を抜いていたのは仕方がないことだと言えよう。
近くに魔物はいない。事前に確認していた。大物を倒した。讃え合う仲間。
そんな中の突然の凶行。
「だから、いい気になってんじゃねえって言ったじゃねえか。」
得意げに、そんなセリフを投げてきたのは、『暴竜の顎』という同じ街の冒険者パーティーだ。
「その獲物は俺達が貰うぜ。」
「お前達には此処で死んでもらう。まあ、殺す前に女たちは楽しませてもらうけどな。」
いつものメンバーに、ごろつき程度の冒険者パーティーが2つほど加わっているか、実力はそんなにだが、数が多い。
普段ならともかく、今は気力も体力も、何より魔力が残って無い。
先ほどの戦闘で消耗したポーションの類いも痛い。
「お前達、恥ずかしくないのか。」と声を放つが、『暴竜の顎』もその仲間も、笑っているだけだ。
恥ずかしいようなら、こんな事はしないか。
「女を侍らせてハーレム気取りか。」
以前 絡まれて、難癖つけられたセリフがオランドの脳裏をよぎる。
暴竜の顎の男達は、特別 キャスベルに気があったわけではない。
良い女に声を掛けただけだ。
他の女にしているのと同じように・・・俗にいうナンパである。
ただ、彼らは、『天薙の払い』のパーティーメンバーの女性3人に、それぞれ別々に声を掛け、3人共に同じ名前を出されて断られた。
彼らは、それなりに実力がある強いパーティーであったし、金遣いは荒いものの、そこそこ金も稼いでいた。
本来ならモテてもおかしくないのだが、ただ、彼らは粗野で、ファッションのセンスも独特だったので、女性が寄ってこず、モテなかった。
また、彼らのパーティーには、メンバーに女性が居なかった。
同じ6人のパーティーなのに、半分が女性のパーティーと全員が男性のパーティー・・・・・・。
世は無常・・・持てる者はモテ、持手ざる者はモテない。
世は無常である。
・・・大事なことじゃないが、二度言う。
そんな理屈に納得がいかなかった彼らは、同じパーティーの女性3人共に振られて怒り心頭、どこがどうなってそういう理屈になったか分からないが、
「一人くらい靡いてくれたって。」 と拗ねた。
好みの女性3人の口から出た、同じ名前の男に恨みが向かった。
いろいろ嫌がらせを受けた。
まごうことなき嫉妬・逆恨み、・・・オランドにはいい迷惑だ。
その問題は未だに解決していなかった。
とはいえ・・・それがまさか、ここまでするとは。
先ほどの激戦の影響か足にくる。
目にも違和感が、仲間も調子が悪そう・・・
そこまで考えてオランドは気付く、仲間もすでに気付くか、違和感を感じているようだ。
これは毒か。
さっきの割れた容器、中味は毒の水だと気付く。
さっきの炎の魔法で、毒水を蒸発させて毒の霧を発生させた・・・そういう手法があるとは聞いたことがあるが。
魔法による毒の霧は、世界干渉魔法【毒霧制限】で制限が課されている。
魔法で霧は出せるが、毒の霧は出せないようになっている。
また、魔術ギルドや国の法律でも禁呪に指定され、使うことが禁止されている。
だが、抜け道が無いわけではない。
先ほどのように、まかれた毒の水が炎で気化、勝手に毒の霧が出る分には【魔法の制限】に引っ掛からない。
向こうは立て続けに攻撃してくる。
今度は水の魔法、出した魔法の水に、先ほどと同じものと思われる瓶から出した液体を掛ける。
水を操る魔法、毒を含んだ水の攻撃が、水の塊から鞭のように伸びて襲ってくる。
あいつらのメンバーに水の魔法を使える奴はいなかった。
多分 雇ったのだろう。
本当にこちらを殺すつもりで来ている。
灯かりが目の端に、体を前に投げ、腕を伸ばして剣を突き出す。
相手には当たらなかったが、炎の魔法の呪文を中断する程度の事は出来たようだ。
だが、無理な攻撃をした結果、体勢を崩した自分に迫る剣は防げない。
幸い、オランドがそんな行動を取ると思っていなかったのか、相手が動揺した。
敵の剣に鋭さは無い。
致命傷は避けられた。
それでも、「あ痛っ。」 焼けるような痛みが走る。
革鎧が裂かれ、脇腹を浅く切られた。
少し体がふらつくし、変幻自在に形を変える毒の水の存在が厄介だ。
オランドは目線を送る。
ジェスパーが軽戦士らしい動きで急に方向転換、森の中へ走る。
「あっ、クソッ、この野郎!。」
これで、奴らの仲間を何人か連れるだろう。
一人でも生かして帰ったら、縛り首になるのは彼らの方だ。
釣られざるを得ない。
離れて行く仲間とは逆に、自分は地面を低く転がり仲間達の方へ、また呪文の声がして、大きな火の玉がオランドの頭があった場所を通り過ぎる。
ラグルイの森の聖霊よ 清らかなる水の御子よ 私の声に応えて
いつになく緊迫したキャスベルの声で、シールドの魔法が発動する。
仲間達に向かった炎の魔法は防げたが、同時に水の攻撃も迫って来ている。
素早く起き上がり魔法使いの動きを牽制していたオランドは、刹那 逡巡する。
このままでは、じり貧だ。
「おい、このままじゃ・・・。」
「いいからもっと毒を使え。何の為にお前を雇っていると・・・。」
焦れているのはあちらも同じのようだ。
仲間と目が合うと、オランドは静かに頷いた。
操る毒の水に、一瓶 また一瓶と毒が投入されていく。
水の色が、毒々しくなっていく。
あれはヤバイな。
剣で切れないし、触れるだけでダメージを受けるから、迂闊に防げない。
それに魔法使い2人を相手するのは困難だ。
ここは勝負に出る。
フェネルを見る。
正義と裁きを司るルグネト神よ 光りの加護を・・・・・・
神聖魔法の結界が周囲を覆う。
結界発動と同時に動いたオランドが、目の前の敵を足で攪乱、動きが乱れたところで、一気に抜けて相手の後方に詰め寄る。
慌てて出してきた炎を突っ切り、剣で魔法使いの動きを牽制、勢いそのまま、敵の喉を突く。
暴竜の顎の魔法使いが倒れたが、倒した相手に構っている余裕は無い。
次だ。
敵の中に分け入る。
完全に勝った気でいた暴竜の顎の連中は慌てたが、オランドの突進を防ぐ。
嫌な奴らだが、実力が無いわけではない。
少なくとも、それなりの才能はあったはずだ。
もっと努力していれば、もっと強くなれるだろうに。
そうでなくては、素行が悪くランクはCだが、過去にBランクへの昇級の話しが出たりするはずがない。
また、攻撃が防がれ、オランドは移動する・・手強い。
毒の所為もあり足がふらつくが、わざと脱力させた足に力を入れ方向転換、横から迫る。
相手に一撃が入り、倒れた敵の脳天に、さらに一撃を入れる。
ただし、敵は1人では無いし、放っておかれた水の魔法使いは、別の敵と戦っているオランドの隙を見逃すわけがない。
迫りくる毒の水の斬撃。
だが、オランドは、それを無視して後ろの敵を切る。
横手から雄叫びがして、レグランが左から右へ、横やりを入れようとしていた敵の大剣使いに、盾でぶつかって行く。
エスメルが多くの敵を引き付け、攪乱している。
転倒した敵は味方に踏まれ、さらに、辺りにばらまかれたマキビシを踏む。
えげつない。
そして、フェネルの防御魔法が水の魔法を防いだ。
仲間は、怪我こそしているものの、命に関わるものではなさそうだ。
・・誇らしい気持ちになる。
冒険者として培われた連携、次に仲間がどう動くかが分かる。
笑う。・・・オランドは敵を睨みつける。
後ろから発せられる歌うような声。
風が起こる。
毒の水の鞭が叩き潰され、周囲に風撃が巻き上がる。
水使いの魔法使いも、暴竜の顎の戦士も、その仲間も吹き飛ばされ、叩きつけられる。
ここぞとばかりに、パーティーメンバーも動いた。
全て終わり、笑顔でオランドは振り向く。
振り向くと、キャスベルが倒れていた。
魔力が枯渇しているが、次の魔法がもう来る。
精霊よ応えて。・・・力を振り絞る。
お願い、私の力を全部持っていって良いから。
元々、竜との戦いで魔力は使い切っていた。
だが、そうも言っていられない。
冒険者をやっていれば、仲間の裏切り、素材を巡っての諍い、冒険者を狙って稼ぐ冒険者の噂を聞くことがある。
そんなことで この仲間を失わせたりしない。
こんなところで 仲間を死なせない。
これからだというのに。
昇格を果たし、今日 また竜を討伐した。
仲間と語らい合った未来、まだまだ行っていない場所もあるし、してみたいこともある。
仲間を想い、意識を後ろ姿のあの人にやる。
あの人を死なせたくない。
その為なら、まだまだ力を出せる。
精霊よ・・・手を伸ばした。
風の精霊が応え、風の嵐が巻き起こる。
思った以上の威力の魔法。
発動しない可能性も考えていただけに、安堵したのも束の間。
(どうしよう・・・魔力が止まらない。)
どんどん魔力を吸われていく。
もう魔力は残っていないのに・・それなのに魔法が消えない。
それは、無酸素で走り続けるようなもの。
意識が薄れ、身体の感覚を失っていく。
気付かずに体は傾いていた。
「キャスベル!。」 自分を呼ぶ声が小さくなっていく。
その声。
もう大丈夫・・・そのまま意識を手放した。




