###アヤト、薬草を一緒に探す
その日は、薬草を採りに入った森の その奥に進んだ先で、テントを張って泊まった。
翌日は更に山の方に進む。
そこでも薬草を採りながら進んで、また泊まって更に奥に行く。
アヤトには、もう此処がどの辺りなのか 見当もつかないが、まだ奥に進む。
今は山を下って森の奥に入っているようだ。
何で、こんな所まで・・・。
ここまで長かったし、帰るのも大変そうだ。
「此処まで空船で来たら駄目なのか。」と、セネカに愚痴る。
「駄目に決まっています。
あんなものを簡単に飛ばすわけにはいきません。
アヤトさんの所ならどうです。
日本で、何の報告も無しにあれを飛ばしたら・・・多分、パニックになると思いますよ?。
こっちの国でもそれは同じです。
あれは、便利で強力なモノですが、その分、使いどころに困るものなのですよ。
おいそれとあれを動かせば、とんでもない騒ぎになります。
まあ、使うとしたらデュークさんの時のように、どうしても修行に必要な時ですね。」
そう言って、茂みを搔き分け、先頭のセネカは進む。
バハムート討伐の後も、学園の手前で空船から降りて、歩いて帰った。
あんなすごいものをこっちの世界で飛ばすのは、確かに影響がでかいか。
「デュークの時の修行はどんなだった?。」
「知らない方がいい。」 固い声だった。
そうだな・・・影響がでかそうなので、止めておいた方が良いと思った。
やっと目的地に着いたのか?・・ようやく、セネカが立ち止まった
紫っぽい樹皮の木に、不自然に立てかけてあった棒を取り、セネカが大きな木の幹をリズムよく叩く。
その後も、木の近くにあった切り株にドングリを置いたり、色々と訳の分からないことを繰り返している。
まるで子供の遊びのようなことをしていたが、しばらくすると、木の影から用心深い仕草で小さな生き物が出て来た。
( ゴブリン!。)
アヤトは咄嗟に杖を構えるが、セネカが止める。
「怖がらせないでください。
私達の方が彼らの領域に入っているのですから、礼儀は守ってください。
彼らはとても臆病です。
ゴブリンのせいで、人間に見つかると問答無用で狩られますから。」
「あれはゴブリンではないのか?。」
「あの人達は森人です。」
それが、アヤトと森人の初めての出会いだった。
見た目は殆どゴブリンと変わらない。
後でそれを言ったら怒られた。
セネカにも注意された。
森人から見ると、ゴブリンは醜く見えるらしい。
あんなのと一緒にしないで欲しい。みたいなことを言われた。
セネカによると、森人とゴブリンでは、肉体があった時のアヤトとセネカの身体的特徴くらい、見た目に違いがあるらしい。
ん?・・・・・・・これは俺の方が怒っていいのでは?。
俺 ヒドイ悪口 言われた?。
トオクカラノキャクジンヨ ヨクキタ
セネカ アエテウレシイ
オンジン モテナス
森人が、セネカに歓待の言葉(?)を述べる。
セネカがそれを受け、勧められた席に着く。
長の女性が食事に口をつけ、続いてセネカが食事を口にする。
それが終わると、アヤトや他のパーティメンバーが宴の食事を食べ、次いで、戦士階級の森人が宴のご馳走を食べる。
戦士階級の森人は、他の森人より少し体のサイズが大きく、鉄の穂先の槍や鉄の剣を腰に佩いているのが特徴だ。
最後に、森人達が食事を始める。
食事は女性と戦士が優先的に食べる。
戦士階級の森人が、他の個体より少し体格がでかいのはその為だという。
彼等の戦いにおける基本戦略は索敵、見張り、逃げる。だそうだ。
草食動物のような生き方だと思った。
それでも、戦わなければならない場合に、前に出て戦うのが戦士階級の森人とのこと。
彼等は、仲間を守る為なら強敵を前にしても逃げずに戦う。
基本 自分より体が大きい相手と戦うのだから、勇敢な者でなければ務まらない。
当然、戦えば高い確率で死ぬことになるらしい。
普段は木の実や野草、肉は兎など小さめの動物を狩って食べているそうだ。
その肉の狩りは戦士階級の仕事となる。
他にも、森人は薬草にも詳しいらしい。
地球でも、像などの一部は積極的に薬草を食べ、体の健康を維持しているそうだが、彼等森人も、先祖代々、森の色々な植物を食べ、どれが体に良いか子孫に伝え、薬草の知識を蓄え、森の何処にどんな植物があるか把握しているらしい。
森では食べられる野草・薬草の他に、茸やイモ類、一部の虫なんかも食料になる。
(一部の食事については丁重に断った。いくら霊力を持ち、俺でも食べれてもアレは嫌だ。)
自然の中で、自然を相手にして暮らしている。
太古の昔には、良い森には森人がいると言われた時代もあったらしい。
今は、ゴブリンとしか見られていない。そうだ。
そんな彼等だからか、彼等の住処には薬草を干したものがいっぱいあった。
貴重な食べ物であると同時に、貴重な現金(?)収入原とのことだ。
セネカは森人の長の女性にナイフなどの鉄製品や陶器の壺、塩・肉・干した魚・穀物などを渡し、代わりに干した薬草や茸などを受け取っている。
こんな所とも取引があるのか。
何て広い交流関係だ・・・改めて、セネカの謎の人脈に驚嘆する。
「それにしても、ゴブリ・・・森人って、女性が長なんだな。」
森人や 魔物ではないゴブリンの男性(?)は、短命な為、女性が長になることが多いそうだ。
何故 男性が短命なのか聞くと、森人はゴブリンと違い、自分の体を子供の糧とする為、寿命が短いそうだ。
そうか・・・・親の体をねっ!。
うん、深く考えるのは止めよう。
まあ、彼らの種族は、自分の体を、子供の糧にすることを当たり前の事と思っているらしく、怖がったりはしないそうだが、・・・アヤトの価値観で考えさせてもらうと、何とも言えない気分にさせられる。
まあ、チョウチンアンコウのように、メスの体に噛みついてそのまま同化するような生き物もいるし、気にしないようにしよう。
それが一番だ。
ファンタジー、ファンタジー。
アヤトは精神を落ち着かせる魔法の呪文(?)を唱えて、思考を断ち切った。
突然だが、森人とはゴブリンと同じ姿をした種族である。
こっちの世界では、森ゴブリンとか呼ばれ、ゴブリンの一種として認識されている。
一般的に、この世界の住人にとって、ゴブリンと呼ばれている生物は、繁殖力が旺盛で、広く害獣として認識されている魔物である。
だが、魔石は無いし、死体の処理は面倒だし、駆除しないと増えて悪さするしで、最も迷惑な魔物として知られている。
また、弱い魔物と認識されているが、ゴブリンロードやゴブリンクイーンなど上位個体・強い個体に率いられると、数が増して厄介になると言われている。
ホブゴブリンやハイゴブリンと呼ばれている個体や二つ名持ちの強いゴブリンは、
害獣型だと特殊個体、
魔素型だと進化個体、
害獣型が魔素の影響で変異した魔族型のゴブリン、
のパターンが多いそうだ。
森人と呼ばれるゴブリンにも上位個体が現れることがあるそうだが、強さよりも賢い個体として現れる傾向があるそうだ。
森人は見つかると高確率で狩られるので、森の奥、人間から隠れて暮らしている種族、人の目に触れることはほとんど無いので、森人の上位個体を見ることも、まず無い。
一応、そういうのが居るということは学園で習ったが、この森人のことを意識している学生は少ない。
意識しているというか、有名なのが、偉大なる森の賢者と呼ばれるエルフである。
実際、学生に森人について聞くと「ああ、エルフのこと?。」みたいな人が多い。
この世界の人は、大概ゴブリンに興味が無いので、ゴブリン皆一緒、詳しく説明しても、「ふ~ん。」程度の関心しか持たないようなのだ。
俺も、今まで気にしたことが無かった。
なので、ここまでおとなしい生き物だと思っていなかった。
それにしても、まさか、ゴブ・・・森人の村に泊まることになるとは・・・静かな夜が落ち着かなかった。
その日は森人の村に泊まった。
泊まるといっても村の土地に、いつも使っているテントを張っただけなので、村に泊まったという感覚はない。
ただ、ゴブリンと一緒に過ごすなんてぞっとしないという話しだが、
「彼らは大丈夫ですよ。」と、セネカが太鼓判を押すし、デューク達も泊まるので、多分 大丈夫なのだろう。
これが、俺とセネカだけ「森人の村に泊まります。」とか言われていたら要注意だったろう。
それにセネカが念を押して太鼓判を押してくれた。
「もし襲われても、食べる所は無いのでアヤトさんに被害は出ませんよ。」
と。・・・さっそく俺の心に被害が出たけど!。
俺の心情とは対照的に、森人の村での夜は何事もなく、穏やかな朝を迎えた。
その日は森人の子供と遊んだりした。
セネカに、くれぐれもフードを外さないように言われたが、俺は絶対脱ぐ気はなかったし、幸い子供にローブを剝ぎ取られる事もなかった。
森人の子供達に俺がアンデッドだと気付かれていない。
そこまで注意する必要があるのか聞いたら、森人から見てもアンデッドは恐怖の対象らしく、これを脱ぐと子供どころか大人の森人にも逃げられる・・らしい。
「私が大事にしている村でパニックを起こさないでくださいよ。」と、窘められた。
「・・・・・・・・・・・。」
( これ 俺が悪いのか?。)
ゴブリンに逃げられる存在という自分の立場もどうかと思うが・・・遠くを見る。
空が青い。・・・のどかな風景、穏やかな村。
( 俺は、どうしてゴブリンのガキに避けられているのだろう?。)
アンデッドだとはバレて無いが、何か嫌なものは感じているらしい。
とても現実だとは思えない。
非現実なら良かったのに・・・この世界は魔法有だそうだけど・・・・・・。
次の日、アヤトは森人が縄張りとしている森に入る。
子供達と薬草を探すのだ。
他のパーティーメンバーは森人の村で休み。
俺もそっちが良かった。
森人の子供は、肌の皴とか少なくて、大人の個体と比べ、まだ醜くなかったが、固定観念による違和感が拭えない。
ゴブリンとさえ見なければ、かわいいと言えなくもない。
慣れ次第だが・・・。
さあ、昨日あまり採取できなかった分、今日はしっかりしなくては・・・。
セネカの冷たい笑みは怖い。
だが、この森に慣れていない為か、集まりが悪い。
森人の子供達は薬草をどんどん摘んでいく。
全て薬草ではなく、食べられる草も摘んでいるようだが、俺よりてきぱきと採取している。
彼らも生きる為に毎日採取に励み、身に付けた必須の技能とはいえ、
ゴブリンに劣るなんて・・・失礼な言い分だが、どうしても、視覚的な情報に惑わされる。
森人の子供達は、遠慮することなく、アヤトが採る前に、アヤトが採取しようと狙った薬草を採っていく。
こうなったら、こいつらを振り切って、もっと薬草が有りそうな場所を探すか?。
ふぅ~~、おとなげない、落ち着け。
アヤトは気持ちを落ち着ける。
俺は冷静な大人だ。
魔力を練り、目に力を入れる。
周囲が静かだ。
よし、集中できる。
魔力の高い草を見つけ、サッ、と、寄る。
根を傷付けないよう慎重に周囲の土にスコップを入れる。
いつの間にか、森人の子供達もおとなしくなり、順調に薬草も集まりだした。
ガサッ。
小さな音・・兎か何かか?、しかし兎も森人にとっては立派な肉、ぜひとも確保しなければ。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
音のした方を見ると、人間だった。
しかも冒険者だ。
アヤトは、フードの鍔際を深くする。
ゴブリンの子供と一緒に居るし、フードを被っていて怪しいし、言い逃れ出来ない。
絶対 ややこしくなるので、俺の正体はバレたくない。
俺と同じくらいの背丈で軽装の革鎧の冒険者。
装備は手に持つ短剣、他にも、もう一本 腰に短剣を挿している。
睨み合う
友好的な相手では無いだろう。
目を見れば分かる・・・俺を敵認定している目だ。
アヤトは焦る。汗は出ないが流れている。
敵ではないけど、敵だ。
攻撃するわけにはいかないが、話し合いは・・・・・通じないだろうな~。
認識阻害のローブには欠点がある。
相手にちゃんと姿が見えたうえで、意識しにくくなる。周囲から浮いて感じさせない。見えていても気に留めにくくなる。その程度の効果しかない。
アヤトがいつも身につけている人の顔そっくりの仮面も認識疎外の魔法の効果があり、重ね掛けで より人間であるかのように見せる効果はある。
ただ、ゴブリンと一緒にいると、それでもアヤトの事を周囲から違和感を感じさせないよう魔法の効果が働いてしまう。
通常は、それでもアヤトが人である事は伝わるが、アヤトの場合、とある特殊な事情があり、誤った認識で伝わってしまうことがある。
この場合、アヤトのことをゴブリンの仲間、同じ仲間の集団だと認識させる恐れがある。
近くに人間が1人でも居たら別なのだが・・・。
つまり、相手には俺がモンスターに見えている可能性がある。
相手の頬に汗が流れる。
お互い ゆっくり後ろに下がる。
戦う気がない?、斥候のようだから、下がるだけか。分からないが、とにかく戦闘は避けられそうだ。
彼の後ろからも人の気配もする。
視線も幾つか感じるから、複数・・パーティーのメンバーが居る可能性が高い。
まあ、気配や視線といっても曖昧なものだが・・・。
何も本当にそんなものを感じているわけではない。
匂いや緊張によって体から出る物質、人間が潜むことで周囲の虫や小動物が緊張、それが伝播することによる違和感、経験・観察による洞察力、人間の意志が無意識化で魔法因子に影響を与えることで起こる微妙な周囲の変化、魔力や気も 場に僅かではあるが影響を与えるらしいので、そういったものを総合的に捉えているものだと思う。
斥候の男は、視線を外さず、ゆっくりゆっくり下がっていく。
俺はクマか!。と思ったが、つっこみを我慢して待つ。
やがて後ろの気配も引いていく。
一応 気配が消えると、溜息をつきそうになって思わず堪える。
まだ油断するわけにはいかない。
気合を込めて前方を睨む。
5分・・10分・・・・。
後ろに子供達も居るし、出来ればこのまま帰って欲しい。
やがて、周囲を窺い、近くには居ないことを確認する。
もう大丈夫か。・・・居なくなってほっとする。
森人の子供達がはしゃぐ。
(おお。俺 大人気。)
「もう大丈夫だ。念の為、後ろに気を付けて帰ろう。」
そうアヤトが告げると、子供達が声を上げる。
森人の子供達のノリがいい。・・・テンションが高くなっているのか。
俺は・・まあ・・・・大人だし?。
落ち着き次第すぐ村に帰る。
一応 尾行に注意して、グルグル歩きながら、早足で知らない道を戻る。
村が見えたのは、ずいぶん遅くなったが、何とか無事戻れた。
森人の子供達と仲良く村に帰った。
ちなみに、その後 森人の村では、子供達の間でハイタッチが流行って困った・・・ことは無いが・・・・・少し戸惑ったそうだ。




