出逢い
初めて彼女に出逢ったのは6年前。
彼女が12歳、俺が14歳の時だった。
俺はヘリオス国のヘンリー国王の
末子として生まれたが、
上にいた2人の兄と3人の姉に
分け与えられるべき領地は
全て配分されていたため、
国王の子の中で唯一
自分の領地を持たない王子だった。
王子としての暮らしは何不自由なく、
何の不満もなかったが、
勉強をすればするほど
自分の知らない世界に対する興味が湧き、
いつしかこの目でいろいろな世界を
見たいと思うようになっていた。
国内に留まらなければならない理由もなく、
王座への執着もなかったので、
14歳の時飛び級で高校を卒業した後、
隣国ゼフィロス国の大学へ進学した。
大学へは年の為名前を”ルイ”と偽り入学した。
同級生は年上ばかりであったが、
一人だけ俺と同い年の男の子がいた。
それがセレネー国のノア王子だった。
ノアは物腰が柔らかく博識で、
人好きのする笑顔が印象的だった。
ノアがセレネー国の王子だと知ったのは
知り合って大分経った後であったが、
上品な立ち振る舞いや言葉遣いから、
ただの貴族ではないことは薄々感づいていた。
俺も身分を隠していたが、
仲良くなって身分を明かした際
ノアも予想はしていたのか、
あまり驚いていなかったことを覚えている。
とにかく、お互いの境遇が似ていたことも
助けになったのかは分からないが、
ノアとはすぐに意気投合して仲良くなった。
学部も同じだったのでノアとはよく一緒に勉強した。
同じ講義の時間はもちろん、講義が被っていなくても
休み時間や講義の間の空きゴマには必ず図書館で落ち合った。
休みの日には街を見て回ったり、長い休みには他国へ旅行したりした。
アンナとの出逢いはそんな日常の中のなんでもない一日に急に訪れた。
「お兄様!」
急に後ろから聞こえてきた声に驚き、
俺は振り返った。
誰のことを呼んでいるのか分からず、
周りにいる人々へと視線を彷徨わせた。
すると、俺の隣を歩いていたノアが声の主を確認し、息をつきながら答えた。
「やっぱり来たのか…」
呆れ顔のノアとは対照的に、
少女は白いワンピースの裾を翻しながら
満面の笑みで駆け寄ってきた。
「ふふ。剣でルイスを倒したら行っていいって約束をお父様と取り付けたの。」
「こうしてここにいるってことは、ルイスを倒してきたんだね…。」
「ええ。お父様は絶対無理だってタカをくくっていたみたいですが。ルイスを倒すなんて余裕です。
もう少し大きくなったらわからないけれど、
今はまだ私の方が背も高いし、
力もそんなに変わらないから。
身体能力が劣っても頭でカバーすればあと数年はルイスにだって引けは取らないわ。
私も見くびられたものですわね。」
ノアは額に手をあててため息をついている。
どうやら、男の子を倒した後兄を追いかけて他国まで一人でやってきたらしいこの勇ましいお転婆娘はノアの妹で、そんな妹を持つ兄には苦労が絶えないらしい。
来てしまってからには仕方がないと腹をくくったのか、ノアは俺に向き直り彼女を紹介してくれた。
「ルイ。この子は僕の妹だ。仲良くしてやってくれると嬉しい。」
ノアの妹は大きな目を俺に向け、上品にお辞儀をしながら自らの名を名乗った。
「初めまして。妹の”アン”です。どうぞお見知りおきください。」
まだ12歳だった彼女は少女と呼ぶには少し大人びた出で立ちだったが、男の子と張り合う実力を持っているとは想像もできない位上品な雰囲気を身に纏っていた。
これが彼女との出逢いだった。




