10場 男同士のタンゴ
タンゴ、『ジェラシー』の旋律が、 激しく会場を満たしていく。
シオンと悠輝は、 観客の視線を一身に集めながら、 鋭くステップを刻んでいた。
その合間——。
シオンがすれ違いざま、 低く囁く。
「瑠奈と合流しろ」
次のターン。
「安全な場所へ誘導するんだ」
悠輝の視線が揺れる。
「……先輩は?」
シオンは表情を変えない。
ターン。
ステップ。
流れるような動きの中、 静かに答えた。
「俺は最後まで残る」
悠輝の眉が僅かに寄る。
「……また、 そうやって一人で格好つける」
その言葉に、 シオンがわずかに笑った。
ほんの一瞬だけ、 柔らかい表情になる。
「悠輝」
低い声。
「……はい」
シオンの瞳が真っ直ぐ悠輝を捉える。
「必ず守れ」
その瞬間——。
悠輝の表情が揺らいだ。
憧れ。
悔しさ。
追いつけない焦燥。
そして、 言葉にできない感情。
全てが胸を締め付ける。
悠輝はシオンを強く引き寄せた。
「……命令ですか?」
二人の距離が一気に縮まる。
観客が息を呑む。
シオンは悠輝を見据えたまま、 静かに答えた。
「……願いだ」
次の瞬間——。
悠輝はシオンを抱き込むように回転した。
悲鳴が上がる。
床を滑る鋭いステップ。
限界ぎりぎりの体勢。
まるで落下する寸前のような、 危険なタンゴ。
会場がざわめく。
誰も目を逸らせない。
シオンは微動だにせず、 悠輝のリードを受け流す。
二人の黒燕尾が、 激しく翻った。
拍手。
歓声。
音楽が最高潮へ達する。
その一瞬の熱狂の中——
悠輝はそっとシオンの手を離した。
視線だけを残して、 静かに人混みへ紛れていく。
シオンは一人、 舞台の中央に立っていた——。




