9場 パーティ会場
豪華なシャンデリアが輝く会場。
華やかな音楽と笑い声が響く中、 燕尾服姿のシオンと悠輝が、 鋭い視線で周囲を警戒していた。
「ちょっと」
悠輝が小声で呟く。
「なんでチャリティパーティに ドレスコードがあるんですか?」
口を尖らせる。
「しかも、 目立ちすぎでしょ」
シオンは呆れたようにため息をついた。
「……タイ、曲がってる」
「え?」
悠輝が顔を上げる前に、 シオンが手を伸ばし、 ネクタイを整える。
その姿に、 遠巻きで見ていた婦人たちから 小さな悲鳴が上がった。
「きゃあ……素敵……」
悠輝が引きつった顔をする。
「ほら来た」
シオンは平然としている。
「俺たちは今日、 “某有名ダンス教室の講師” って設定だからな」
「はあっ?」
悠輝が目を丸くする。
「聞いてないんですけど!?」
「今聞いただろ」
さらりと返すシオン。
悠輝は頭を抱えた。
「小林さん、 一人で大丈夫っすか?」
視線の先では、 瑠奈と小林が会社関係者たちに囲まれている。
シオンは静かに答えた。
「彼を侮るな」
「学生時代、 空手の黒帯だ」
悠輝が目を瞬かせる。
「へえ?」
「しかも全日本チャンプ」
「……マジで?」
悠輝は遠くの小林を見る。
「神経質そうなのに…… 意外すぎる」
その時、 会場の空気が変わった。
「——お出ましだ」
悠輝が低く呟く。
壇上へ、 北条二郎が姿を現した。
グラスを手に、 穏やかな笑みを浮かべる。
「皆様、 本日はお集まりいただきありがとうございます」
会場が静まり返る。
「社長が暴漢に襲われ、 現在も意識不明という状況ではありますが——」
悲しげに目を伏せる。
「このチャリティパーティは、 兄の強い希望でもありました」
顔を上げる。
「だからこそ、 予定通り開催させていただく決断を致しました」
拍手が起こる。
「どうか皆様、 福祉事業への温かいご支援をお願い致します」
グラスを掲げた。
「開催の成功を祝して——乾杯」
「乾杯!」
会場中に声が響く。
悠輝が吐き捨てるように呟いた。
「何が福祉事業への寄附だ……どれだけの人が犠牲になったと…」
その目には、 強い憎しみが宿っている。
その時、 二郎が瑠奈たちの方へ歩き出した。
シオンの表情が引き締まる。
「……頼むぞ、瑠奈」
視線を向けすぎないよう注意しながら、 近づいてきた婦人たちの相手をする。
「まあ、お二人とも素敵ですこと」
「どちらのダンス教室なんですの?」
悠輝が引きつった笑顔を浮かべる。
その頃——。
瑠奈は、 近づいてくる二郎を真っ直ぐ見つめていた。
「……お久しぶりです、 叔父様」
二郎が立ち止まる。
「瑠奈」
探るような目。
「ショックで倒れていたと聞いたが…… もう大丈夫なのか?」
「ええ。 ご心配をおかけしました」
微笑む瑠奈。
「叔父様」
二郎はなおも探るように続けた。
「そういえば…… 猫を飼っていただろう」
「名前は…… 何だったかな。さみしがってるのでは?」
瑠奈の表情が一瞬止まる。
その時、 小林が自然に口を挟んだ。
「最近、 瑠奈様は猫アレルギーになられまして」
穏やかな笑み。
「マロンとは別に過ごされております」
瑠奈もすぐに頷く。
「ええ。 寂しいのは、 むしろ私の方ですわ」
二郎の目が鋭く光る。
(……記憶は戻っていないな)
その空気を断ち切るように、 瑠奈が静かに口を開いた。
「叔父様」
二郎が視線を向ける。
「私、 熱で混乱していたんですけど——」
瑠奈は二郎を真っ直ぐ見つめた。
「あの日、 お父様が撃たれた時のことを、 思い出したんです」
小林が目を見開く。
「犯人と、 その犯人に指示していた人物の会話を」
二郎の指先がぴくりと止まる。
「……一言一句、 全部」
会場の音楽が遠くなる。
「このパーティが終わったら、 警察へ行くつもりです」
小林は驚きの表情で瑠奈を見る。
——予定にない話だった。
二郎は笑みを浮かべたまま、 グラスを握り締める。
「……それは吉報だ」
声が僅かに硬い。グラスを持つ手が震えている。
「兄さんのためにも、 犯人逮捕に協力してくれ」
そう言い残し、 足早にその場を離れる。
遠くから見ていたシオンが低く呟いた。
「……動揺してるな」
悠輝も目を細める。
「部下に指示出してます」
シオンの瞳が鋭くなる。
「……動くか」
その瞬間——。
ボーイ姿の男が、 瑠奈と小林の前へ立ちはだかった。
「お嬢様。 こちらへ」
男が瑠奈の腕を掴もうとする。
その時。
「悪いな」
低い声が割って入った。ボーイ姿の男の手をはらいのける。
シオンだった。
「今日の主役は——こっちだ」
男の前へ立ち塞がり、 小林へ視線を送る。
小林は即座に瑠奈の手を引いた。
シオンは悠輝を引き寄せる。
「踊れ」
鋭い視線。
「——魅惑的にな」
次の瞬間、 タンゴの音楽が響き渡った——。




