4場 電話
瑠奈の行方は依然として不明だった。
シオンと悠輝は地道に捜査を続けていたが
まるで忽然と消えてしまったかのように足取りが掴めない。
集めた情報を、地図に書き込みながら
シオンは考え込んでいる。
その横顔を見ながら、悠輝はふと視線を落とした。
北条コンツェルン…。
俺がしている事をこの人が知ったらどう思うだろう。
だけど、俺は…。
握った拳にわずかに力が入る。
その時だった。
事務所の電話がなった。
シオンが受話器を取る。
「…はい。朝霧探偵事務所。」
しばらく話を聞いていたシオンの顔色が変わる。
「えぇ、わかりました。」
「今すぐ向かいます。」
緊張した空気に、悠輝が顔をあげた。
シオンと視線が合う。
「見つかった。」
一方、病室では。
「調子はどう?」老婦人が優しく尋ねる。
「杉本さん。いつもありがとうございます。
まだ頭はぼんやりしているけど、大丈夫です。」
「ねぇ、あなたの事…はなちゃんって呼んでもいいかしら?」
「お、おい」
奥にいた杉本が慌てる。
「はなちゃん…?」
瑠奈は首を傾けた。
「名前がないと、呼ぶ時困るでしょう?」
老婦人は少し照れた様に笑う。
「うちの娘の名前なの。」
「娘さん?」
「小さい頃に亡くなってね。」
懐かしそうな目になる。
「生きていたら、あなたぐらいの年頃かもしれない。」
静かな沈黙
「ごめんなさいね。」
「いいえ。」
瑠奈は首を振った。
「そんな大切な名前で呼んで頂けるなんて、むしろ嬉しいです。」
杉本婦人の目が潤む。
「ありがとう。はなちゃん。」
「それでご家族からは連絡はないの?」
「先生からはその様に聞いています。家族がいるのでしょうか?何も思い出さないし。」
「あせらないで。」
杉本婦人が優しく手を握る。
「…生きているだけでいいのよ。」
その言葉に胸が熱くなる。
どうしてだろう。
会ったばかりなのに。
涙が出そうになった。
瑠奈は慌てて立ち上がる。
「…少し外の空気を吸ってきます。」
病院についたシオンと悠輝は医者から説明を受けていた。
「あの事件の夜、老夫婦が娘を一人連れて来たんです。私は夫婦のかかりつけ医なんですが、『雨の中急に車の前に倒れ込んできた。車と当たってはないけど、熱もあってここに連れてきた』と。」
「電話でお聞きしていた容貌に似ていたので、ご連絡致しました。骨折などのケガはありません。
ただ…」一瞬、言葉を選ぶ様に間を置く。
「…記憶を失っています。」
空気が止まった。
「…記憶喪失?」
悠輝が思わず聞き返す。
シオンは黙ったままうつむく。
雨の夜。銃声。逃げ惑う少女。
脳裏に浮かぶ。
「…会えますか?」
低い声でシオンは聞いた。




