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「明聖、か。聖騎士が出てくる時点で、君が並の魔法使いじゃないのは理解できた」
どうやらレクスも警戒はしていたらしい。
その言葉には今日まで積み上げた警戒の色が濃く滲み出ていた。
「お前ら「魔王」の天敵。言い換えるなら、魔法使いにとっての必殺の刃。それがここ、王都に常駐しているんだ。その気苦労は察して余りある」
「…………」
「話を少し戻すが。恋愛の師匠になる件については、部分的に受け入れる、という形で答えたい」
「部分的?」
意図が分からない、といった様子のレクスに対し。
オレは渋々といった態度で説明する。
「全面的となれば、簡単な受け答えだけでなく私生活まで見直す場合がある。実際に必要かは関係なく、あくまで可能性の話だがな」
仮にそうなったら人格から矯正したいが、今はどうでもいいので話を進める。
「だがそれは、オレという新米の弟子にとっては都合が悪すぎる。贔屓にされすぎるってのは、女社会にとっては嬉しくない待遇なんだよ」
ざっと一週間ほど過ごして分かったこと。
それは弟子たちの中でも、ある程度のヒエラルキーが存在していること。
そしてそれを逸脱、ないし無視しようものなら、レクスの弟子という社会から排除される危険があるということ。
(こういうのは魔法使いとか関係ねぇが、事を荒立てるのは歓迎すべきじゃない)
オレだけならまだしも、リリのことを想うのなら無駄に敵を増やすのは得策ではない。
あくまでレクスをモテさせたいのはオレの願いであって、リリの人生においては一ミリも関係ないこと。
少なくともこの件で、リリアという人間の評価を下げ過ぎる必要はない。
「だから、どうしても解決できない時にのみ、オレから簡単な助言をする。そういう関係であれば、オレにとっても悪い話じゃない」
理想形は、ゲームにありがちな助っ人キャラ。
困った時に姿を見せ、的確な助言で課題を解決に導き、音もなく姿を消す。
これであれば、自然な流れでレクスの傍をうろうろしたとて、事が大きくなる可能性は低い。
(重要なのは距離感。特にレクスの場合、下手に近づきすぎるとオレに矢印を向けかねないし)
オレがレクスを好きになるのは絶対ないが、逆がないとは言い切れない。
なにしろ今のオレはリリアという、そんじょそこらではお目にかかれないほどの美人。
既に婚姻の話が遠方からも来るぐらいには、リリアという少女は美人で気立てもよい。
「そして、必ずオレから対価を求める。今回に関しては明聖ミカエラに関する情報だな。それと引き換えに、オレからお前に恋愛のアドバイスを授ける」
名づけるなら、羊飼い作戦。
哀れな童貞男を上手く誘導し、異性からの関心を獲得する。
流石にそれだけで付き合えるとは思えないが、まずは視界に入れても不快にならないところから。
随分とレベルが低いが、ここに関してはリリからの賛同も得られたので問題ないだろう。
「どうだ?互いの立場を考えるのなら、これが最善策だと思うが?」
満足したオレは大きく体の力を抜き、沈み込むほど柔らかなソファに体を委ねた。
このソファはいつぞやに買ったものだったはずだが、久々に座ると存外に心地がいい。
我ながら物を見るセンスはあるな、と一人で自画自賛していると。
「明聖ミカエラ、さんは、その。弟子たちの宿舎に定期的に来ていてな」
思ってたよりも小さく、そして早い口調だった。
なんなら口元に掌を当てたままだったので、オレはその殆どを聞き逃していた。
「なに?今なにか言ったか?」
「…………いや、だが、しかしこれは」
「あぁもうモゴモゴ喋るんじゃねぇよ!目ぇ見てシャキシャキ話せ!!」
オレに怒鳴りつけられ、レクスはピシッと姿勢を正すと。
「聖騎士さんは、よく来るんだ」
「来るって、どこに?」
「ここに」
「ここ?」
「君が寝泊まりしている建物。どうやらあそこは本来、聖騎士さんが一人で使うはずの場所だったらしく」
なにそれ知らないんだけど。
思わず反射的にそう尋ね返しそうになり、オレは咄嗟に片手で口を抑えた。
(いやまて。確かにそういうことなら、あそこに教会の人間が頻繁に来ていることにも説明がつく。じゃあなんだ?あそこは元々は聖騎士のための場所で、オレはそれを知らないで勝手に強奪したってことか?)
一回目のオレは見事なまでに嫌われていて、理由が分からないまま転生魔法で人生を終わらせた。
結局そこが治ることはなく、延々と悩み続けた末に今ここにいるのだが。
(そりゃ、目の敵にされるわな。むしろよくオレを倒そうとしなかったくらいだ)
施しの精神なのか、あるいはそういったものに関心がないのか。
いやそれなら定期的に様子を見に来ることもないだろうから、いわゆる騎士道的なアレがナニかもしれない。
「その様子だと、なんか言われたんだろ」
「言われはしてない。ただその、それを知らず勝手に使ってるからか、協会の人間からは凄く嫌われているみたいで…………」
「…………まさかと思うが、「魔王」が使うんだから光栄に思え、とか言ってないよな?」
「…………」
「なんなら、女性だから聖騎士には言えていない、ってこともないよな?」
まさかの図星である。
いや、実際にオレがそう思ってたことが数回あったのだから、それがレクスにも当てはまって当然ではあるのだが。
(…………これ、思ってたよりも重症かもしれん。オレに自覚がないって点が特に)
オレは十分に反省した。
何が悪かったのかも理解し、改善すべきこともきちんと把握している。
だが、それはオレが自覚している範疇での話だ。
今回の事例みたいなのが仮に、物凄い数あったとすれば。
(余罪まみれの可能性あるぞこれ。むしろよく天命を全うできたな、オレ)
初日のインパクトと、セクハラ紛いのプロポーズをしてない事実に安堵しすぎたか。
いやそもそも、相手がオレという事実を軽く見過ぎたか。
オレは内心でそう反省すると、おもむろに立ち上がりレクスにこう告げる。
「ひとまず、今日は帰る。色々と整理しないといけない事実が分かったんでな」
オレとレクスの関係に、聖騎士の動向。
ここまで分かっただけでも、今日は大収穫とするべきだろう。
「とりあえず、なんとなく想像できるから釘を刺しておくが」
「っ、なんだ?」
「間違っても、今から謝罪しに行くなよ?単なる挑発行為だと思われるだけだ」
どうやら図星だったらしく、レクスは浮かした腰を再び下ろした。
そこから俯いて動かなくなったので、オレは放置して部屋を後にする。
慰める必要はない。
生憎と、負ったダメージは同じくらいなのだから。




