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夜。
レクスから与えられた個室のベットの上で、オレは精神世界でリリと話していた。
『それで、リア師匠の計画は?』
『…………次そう呼んだらオレの記憶二度と読ませねぇぞ』
『もしそうなったら、リアの奇行を夜な夜な一つずつ丁寧に話しちゃおうかな』
『ごめんなさい。それだけは勘弁してください』
このやりとりで分かることだが、オレは基本的にリリに頭が上がらない。
なにしろレクスをモテさせるという計画は、リリにとっては何も利益がないからだ。
そのうえで協力してくれているのは、ひとえにリリが寛容であること。
オレという存在を受け入れながら、オレのために将来を犠牲にしてくれている。
その負い目がこの上下関係を生み出している、と言えば少し聞こえは悪いが。
実際のところ、悪い関係でないのは確かだろう。
『それにしても、まさかリアに恋愛の指南役をお願いするなんて。聞いてたよりもずっと面白い人ね』
『頭がイカれてるだけだよ。もしくはフラれてショックだったか』
『でも、これってリアにとっては都合のいい展開でしょ?』
ある意味で最も近いところから、オレにはない視座で物事を思考できる。
絶対に裏切らないという意味でも、リリの味方は正直かなり有難い。
『…………だな。当初の目的だと、まずはレクスの視界に入ることが第一目標だったが』
『求婚までされたんだもの。ぞんざいに扱われることはないんじゃない?』
レクス、当時のオレは年齢を問わず様々な子供を引き取っていた。
表向きは魔法研究のためだったが、実際は単純に異性にモテたかったというだけ。
一応、奴隷を買うという選択肢もあるにはあったが、当時のオレはそれを選ばなかった。
合法的に、多数を囲っても文句が言われない理由を作るためだけに。
別に好きでもない子供を養い、独り立ちするまで衣食住を確保するという養護施設の真似事をやっていた。
その結果がオレという存在なのだから、成功か否かは語るまでもないだろう。
『そうなれば、次はレクスに真っ当な倫理観を覚えさせないといけないんだが…………』
『何か困ることがあるの?』
『ポッと出の弟子でしかないオレに物事を教わることで、反感を覚える連中が少なからずいることだな。もしくは、都合のいい弱みにされるか』
レクスの魔法研究所は、ダナリア王国から正式に認可を貰い、場所と金銭の提供を受けて運営されている。
魔法の研究は一人でもできるが、先に触れた通り食い扶持は腐るほどいる。
なので安全が保障された場所と、安定した収入はレクスにとっても有益なものだ。
だが、レクスは「魔王」と呼称される魔法使い。
まだ魔法が完全なる学問だと認められていない時代においては、忌避し嫌う者が一定数いる。
『とりあえず、聖騎士を味方につけるべきだな』
『あ、それリアの記憶にあった人だよね。確か「魔王」を倒す武器に選ばれた人だって』
『厳密に言うなら、対魔法使いに特化した騎士ってだけだ。教会所属だから聖、だなんて称号がついてるが、オレから言わせれば向こうのほうがよほど「魔王」に相応しい連中だよ」
聖騎士。
教会と呼ばれる組織から選別される、この時代における「魔王」の天敵。
その数は時代によって増減するが、この国の王都にはレクスを監視する目的で一人常駐していることを当時から把握していた。
『明聖ミカエラ。教会初の女性聖騎士にして、史上最年少のおまけまでついた天才だ。気になる点は、レクスだった時すら一度だって直接的な接触はなかったことだが』
『?そんな凄い人が、どうしてリアの監視だけしていたの?だってレクスって…………』
『「魔王」としてのオレは下から数えたほうが早いくらいに弱かったからだろ。だから脅威じゃねぇって判断で無視されてたはずだ』
聖騎士の戦闘力は並の人間を完全に辞めている。
純粋な身体能力もさることながら、根本的に道理の外側にいるのだ。
そういう意味でも、思いもしない方法で魔法を対処してくる可能性だってある。
(まだ別の「魔王」と戦うほうがマシだな。ま、今のオレじゃ瞬殺されるだろうが)
『とにかく、ミカエラに接触して友好的な関係を築く。そうすりゃ、全員敵って状況よりは多少はマシになんだろ』
『…………なんだか、モテるって大変だね』
『当然だ。なにしろ相手が相手だ。どんだけ捻くれてるかはオレが一番よく知ってる』
その割に、やけに聞き分けがよかったのは気になるが。
あれも恐らくは、リリアという人間に害意が全く感じないのが大きいだろう。
(異性への免疫の低さもあるが、とにかく対人関係スキルが壊滅してるのがなぁ。下手に叱りすぎると拗ねてボッチになりかねないが、かといってほめ過ぎると調子にのって大怪我しかねないし)
恋愛の師匠になってほしい。
その提案は時間をかけて考えたいと伝えることで保留にし、用意された部屋で寝支度を終えたのが思案に入る前までのこと。
予定通りではないが、それでも出だしは悪くない。
そう思うオレの意思とは裏腹に、リリアの肉体は慣れない行動の連続で大きく疲弊したらしく。
リリの声が聞こえなくなった途端、糸が切れたように意識が遠のいていくのだった。




