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一回目の人生。
オレがまだレクスという男だった頃、オレは転生魔法を編み出した。
きっかけは単純なもので。
当時のオレは、異性から好かれない理由が容姿にあると本気で思っていた。
二度目の人生が必要だ。
全てを綺麗さっぱり清算さえすれば、恋人どころか友人すらいない現状を変えられる。
いや、絶対に変わるに違いない。
だからオレは、レクスであることを捨て去ると決めた。
…………余りにも浅はかすぎる動機だ。
なにより、結果は今ここにリリアとして存在する時点で説明するまでもない。
九十九回の転生。
生まれ、過ごし、そして死ぬ間際に転生魔法でやり直す。
そうやって転生を繰り返したオレは、自らが編み出した転生魔法の欠点に気が付かなかった。
いや、気づかないフリをしていた。
なにしろそれは、魔法使いにとっては致命的すぎる欠陥。
転生魔法を使う度に、自分の体内魔力が減少しているという事実だったからだ。
(オレの転生魔法は魂の情報を別の時間軸に飛ばす魔法。だから必然、転生魔法を発動させる際に消費した魔力は減った状態で次の肉体に移動することになる)
難しい理屈はどうでもいい。
つまるところ、オレの転生魔法は自分の才能を削ることで発動していた。
なので当然、回数が増えるにつれて才能は徐々に失われていく。
他でもない、たった一つしかない長所。
それが情けないほど瘦せ細った頃にはもう、オレはとっくに現実を直視できなくなっていた。
(…………ま、元より専門外の分野の魔法だ。失敗するならまだしも、条件付きでも成立しているだけ喜ぶべきなんだろうが。生憎とオレにそこまでの甲斐性は持ち合わせていなかった)
最初の頃は造作もなくできたことが、次第に高度に、難度が上がり続ける。
焦り、慌て、動揺した頃には何もかもが遅すぎて。
天才ですらなくなったころになってやっと、しでかしたことの重大さに気が付き、悔やんだ。
(おまけに一ミリもモテなかったしなぁ。どれだけ容姿を整えても、結局は恋人の一人もできやしない。だから余計にといえば聞こえはいいが、巻き込まれた側は堪ったものじゃない)
疑心、不信、猜疑、偏見。
そういった視線を向けられながら、遂にそれに気づくことなく。
メリーゴーランドにでも乗るように、追いつかず追いつかれず人生だけを浪費し続け。
最終的には、自らが編み出した転生魔法すら使えないような。
三流が鼻で嗤うような魔法使い、リリア・モーント・シュトラーレへと転生した。
(オレの転生魔法は浪費する魔力量でより遠くにある世界の誰かに転生できる。その点でいえば、最初の自分が生存している時間に戻れたのは、幸運ではあるが必然だった)
百回目の転生によって生まれ変わった今、どう足掻いても次は存在しない。
どこにもいけず、何者にもなれず、ごくごく普通の人生を全うするしか選択肢はない。
それでも。
拾った幸運が自分の手元にあって。
目の前には、どうしようもないクソったれのオレがいる。
『だったら、せめてコイツをモテモテ男にしてやる。それがリアの目的だもんね』
脳内に響く声。
回想に浸っていたオレは、内心で嘆息しながらも意識を脳内へと傾ける。
『リリ。オレは記憶を覗き見るのは許可したが、思考を予測して台詞を先読みするのは驚くから辞めてくれって言ったよな?』
脳内にある精神世界。
本来なら想像上でしかないそこに、確かな実体をもって佇むリリアの姿をした誰かがいた。
『えー、でもリアだって、独りでペラペラ喋るの面白くないでしょ?』
宝石のような碧眼、高級な絹を連想させる金色の髪。
装いは現実世界と同じ制服姿だが、こちらのリリアはストッキングではなく素足のままだった。
『それにほら、いつまでも現実逃避してるわけにもいかないんじゃない?』
彼女こそがリリア・モーント・シュトラーレ。
この体の本来の持ち主であり、レクスであるオレを難なく受け入れた変人。
むしろ喜々として歓迎していたので、変人というより奇人だろうか。
『リアの記憶を観たから知ってたけど、聞いてた以上に情熱的な人だね』
『これを情熱的って言うのは確実に間違ってるから辞めろ。これは単に真っ当な人間関係を築けなかった哀れな屑。分析する価値もない』
『そうやって、自分で自分を貶めるのはよくないよ。そういうところはリアの悪い癖』
『事実を事実として告げて何か困るのか?大体、コイツはリリが肩を持つ価値もないゴミカスだ。記憶の無駄遣い、全て忘れろ』
実際に対面で話すように意思の疎通が取れる。
これまでの転生では一度もなかったことで戸惑いは大きいが、やたらレクスの肩を持つ以外は困っていないのは有難い話だ。
因みに、オレことレクスをリア、本来のリリアをリリと呼び合い区別している。
『とにかく、返事してあげないと可哀想だわ。この花束だってリアのために用意してくれたのに』
何故か冷たくあしらっている体にされているが、このままリリと話し続けるわけにもいかないのも確かだ。
実際問題、現実はオレが対処しないと何も解決しない。
『…………仕方ない。どのみちキチンと言うことになるんだ。早いに越したこともねぇだろ』
そしてオレは、片膝をつき頭を下げるレクスに向けて言った。
「お前、馬鹿か?」




