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「どうか、この俺と結婚してほしい」
目の前の男はそう言うと、片膝をつき恭しく頭を下げた。
男の名前を、レクス・パシレウス・エーグル。
魔法を極めた「魔王」にして、ダナリア王国から正式な認可を貰い雇われた魔法使いでもある。
容姿は端麗。
一言で表すならイケメンで、野心家のような瞳は他人が見れば魅力的に見えたはずだ。
「初めて会った時からずっと、この出会いは運命だと確信した。いや、もしかすれば君に出会うために俺は生まれてきたのかもしれない」
俯いた姿勢ではあるが、低く歪みの少ない声は明瞭に鼓膜を揺らす。
そのせいで、発する言葉が全て聞き間違っていないと確信できてしまう。
「これは君のために用意した君だけの花束だ。是非とも受け取り、そして俺の伴侶となってくれ」
ガサリと音が鳴り、差し出されたのは真紅の薔薇で作られた花束だ。
数は恐らくだが百本ちょうど。
この一瞬で数えたわけではないが、それでも確信できるだけの根拠があった。
(…………こうなることくらいは、想定はしていたが)
時刻は夕暮れ。
窓際から差し込む光は茜色に染まり、遠くからは少女たちの談笑が微かに聞こえてくる。
きっと、彼女らは長い一日を終え、ようやく訪れた自由の時間を満喫するのだろう。
王都の城下町の一角であっても、楽し気な声が廊下に響き渡るのは場所を選ばないらしい。
本当ならそこにいられたのにと、心の底から羨ましく思う。
(まさか、出会って一時間で求婚してくるとは思ってなかった)
だが。
どれだけ黄昏ようと、目の前の現実は変わらない。
レクスという男は未だ片膝をついたまま頭を下げ。
香しい薔薇の束をこちらに差し出し返答を待っている。
この状況で、本気で快い返答が貰えると確信している。
貰えないとすら思っていない。
そのあまりにも狭く偏った思想に、オレはすぅっと意識が遠ざかるのを感じた。
(いったい、どこでなにを間違えればこうなるんだろうな…………いや、それが分かるんなら、今ここにオレはいないんだが)
レクスからの求婚を受ける相手。
それはまだ十四の年齢に達したばかりの、華奢で幼い少女である。
名前をリリア・モーント・シュトラーレ。
モーント地方と呼ばれる片田舎で商いをするシュトラーレ家。
ここ王都にも影響力を持つ、由緒と格式のある名家だ。
その三女であるリリアは、年齢からは想像もつかないほどの博識さを評価され。
本人の強い希望も相まって、遠路はるばる王都へとやってきたばかり。
届いた荷物の整理も、これから生活する部屋の場所も、文字通り何も知らない。
(最悪の気分だ…………予め予行練習をしたってのに、それでもこれは余りにも耐え難すぎる)
天井を見上げ、部屋の左右に視線を遊ばせ、そして自分の体を一瞥する。
(これが転生魔法を使っていない、最初のオレ本人だなんて。この体に十分な魔力さえあれば、あまりにも醜悪すぎるオレを今すぐ殺してやれるというのに)
九十九回の転生を経た元レクスことオレ、リリアは確信する。
このどうしようもない俺は、やはり紛れもなくオレ本人であり。
どんな手段を使ったとしても、この男にモテさせる必要があると。




