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「転生、魔法…………?」
「だからそう言ってるだろ。一回目のオレ、つまりレクスが編み出した魔法を使って、この体に転生したんだよ。レクスにハーレムを作らせるためにな」
「…………にわかには信じ難いのだけど」
オレから事の顛末を聞いたフロストは、まるで胡散臭い健康商品を前にしたようにオレを見つめる。
「それが普通の反応なのは分かる。でもな、この期に及んでオレが嘘をつく理由があると思うか?というか、さっきした話だって、今の段階だとフロスト本人しか知らねぇことだろ?」
「…………それは」
「なら…………って、ちょっと待て」
いきなり全てを信じろというのは無理があるが、信じてもらえないと先に進めない。
そう勘案するオレは、おもむろに両目を閉じると。
「これで、少しは信じてもらえますか?」
「…………別人?いえこれは、リリア本人、ですか?」
「この体の本来の持ち主、という意味であれば」
雰囲気が変わる。
同じ姿、同じ声、同じ顔だというのに。
その全てが先ほどまでと異なっている。
それを目の当たりにしてようやく、フロストは深いため息をついた。
「ありえない、としか思えませんが。かの「魔王」であれば否定はできませんね」
「でしたら…………」
「ですが、一つ聞かせてください」
その問いがリリではなくリアだと理解し、リリは即座にオレへと主導権を渡す。
「貴女がもし本当にあのレクスなら、私がどうして「魔王」を狙うのかも知ってますよね?」
「唯一の肉親である母親を殺されたから、だろ?」
即答されると思っていなかったのだろう。
フロストにとって一番重たく、最も重要な意味を持つ要素。
軽く扱われたのなら激昂したかもしれないが、少なくともオレの言葉はそうではなかった。
「敢えて断言するが、一度目のオレはそっちに興味がなかった。弱者を虐めるとか、人を殺すとか、少なくとも敢えて他人に危害を加える趣味は絶対になかった」
まぁ結果的に大勢の気分を害してはいたので、ある意味でオレの言葉は嘘になるが。
「だから、『奇蹟』持ちを探し出したりなんてことは一度もしなかった。そもそも『奇蹟』そのものに興味もなかったしな。魔法の探求には興味があったが、大半は転生魔法の開発で手一杯だったのもある」
「…………」
「だから、お前の探している母親殺しの魔法使いがオレではないのは間違いない。そこだけは断言できる」
一度目のオレがフロストと会った記憶は、単なる刺客の一人としてだった。
紛いなりにも「魔王」と呼称される立場だったのもあって、命を狙われるのは日常茶飯事。
その中の一人にフロストがいたことを、つい先ほど思い出したくらいには多くあることだった。
だから、フロストがレクスの弟子になっている事実は、正直に言ってオレは凄く驚いている。
なにしろ、リリアという人間が関与したことでフロストの行動が変化するとは思えない。
つまりは、オレはフロストを弟子にしておきながら。
襲われた時まで全く認知していなかったことになる。
(…………レクスの性格を矯正するよか、こっちのほうが色々問題な気がしてきた)
思い返せば、フロストがオレの行動を予測できたのもこれが理由なのだろう。
あまりにも定期的に襲撃を受けていたせいで、されないほうが珍しい状態だったのも悪かったか。
「…………これは、私の個人的な興味で聞きますが」
とりあえずレクスに余罪の数々を吐かせたほうがいいかと考えていると、おもむろにフロストがこう尋ねた。
「リリアの体に転生したのは、貴様の趣味なのですか?」
「……………………は?」
なんかすごいこと聞いてきた。
余りにも突拍子の無い問いに、内側にいるリリですら完全に固まっている。
「話の通りなら、転生先は選べますよね?であれば、その体である必要はないと思いますが…………」
「だからそれは転生魔法のデメリットで」
「それでも、別に美少女である必要もないのでは?」
美少女、という単語の温度が違った。
下がるほうではなく、むしろ上がる方向で。
「…………お前、オレをどうしたいんだよ?」
「深い意図はありません」
「いやあるだろその感じは。もういいだろ変に隠し事するなって。オレだってそこそこ秘密を開示してるんだから、わざわざ他人に言いふらしたりしねぇって」
それでも何故か妙に誤魔化そうとするので、オレは催促の意を込めてフロストを睨む。
するとフロストは一度オレを見てから、改めて深いため息をつくと。
「リリアさんに変わってください」
「なんで?」
「いいから。すぐに終わります」
「…………分かった」
まだ展開の速さについていけていないのか、代わったリリはどこか気持ちが遠くにある様子だった。
「…………」
「…………えっと、なんでしょう、か?」
フロストはリリにそう問われると。
「…………」
「…………?」
そっと掌をリリの頭に置き。
「…………」
「…………あの」
無言のまま頭を、ゆっくりと撫で。
「…………ふぁの」
リリの頬を指で優しくひっぱり。
「…………えっと、フロストさま?」
パン生地でも捏ねるように、リリアの頬を掌でくるくると動かし続ける。
「…………お姉ちゃん」
「え?」
「…………お姉ちゃん、と呼んで、ほしい」
一心不乱にリリの頬を捏ね繰り回すフロスト。
もうこれだけでも意味不明なのに、出てきた要望はもっと意味不明だった。
『ねぇ、リア。これどうしたらいい?』
『オレに聞かれても知らん』
触れたら確実に面倒なのは分かったので、オレはリリに全てを押し付け不貞寝した。
どうせ悪いようにはされないだろう。
フロストの両目、バッキバキにガンギマってるけど。
「…………お、お姉ちゃん?」
「はい。お姉ちゃんです」
「フロスト、姉さま?」
「ぐっ…………そうです。私がお姉ちゃんです」
これは後で知ったことだが。
フロストは姉として弟子たちに慕われたいのに。
生来の口調のせいで誰も懐いてくれなかったそうで。
(なんでこう、オレの周りにはろくでもねぇ連中しかいねぇんだよ)
姉として慕えば敵対しないレクスの一番弟子。
味方としては心強いが、どう考えたって面倒極まりない。
そんな新たな選択肢に、オレは大きく肩を落とすのだった。




