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【完結】惚れ薬で暴走する幼馴染  作者: 橘つかさ


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04.昼休み

 教室には昼休みの和気藹々とした空気が流れていた。

 特に一年生の教室は中学までの給食と違い、個々で昼食が違うというのが新鮮さを与えていた。

 そして、好きな仲間内で集まって談笑しながら昼食をとるというのも魅力だろう。


「やっほー!」


 突然、教室に響き渡った声。

 声の主はベランダに立つ二年男子生徒――遼介。

 部外者がテリトリーに現れたことによる緊張感が一年C組の教室を包む。

 そんな気配を微塵も感じていないのか遼介は一番前の窓際に陣取っていた三人の女子生徒の塊に歩み寄る。


「会いたかったよ、郁美! さすがに一時間も顔を見れないのは苦痛だね」

「あの、その……」


 思いっきり怯えた表情で女子生徒の一人――久保上(クボガミ)郁美(イクミ)は遼介を見つめる。


「いったい、先輩は何の用があるんですか!」

「そうですよ。一時間目の休み時間のときからいきなり押しかけて。郁美が怯えているじゃないですか」


 遼介のあまりの唐突さに呆気に取られていた残りの二人が、郁美の表情から我を取り戻して彼を睨む。

 視線にふんだんに含まれる敵意を遼介は笑顔で受け流す。


「ふっ、俺か? 俺は……愛の貴公子さ」


 どこから取り出したのか口に赤いバラを咥える遼介。

 そして、ふさっと前髪をかきあげる。

 その遼介の姿を見た生徒全員が呆気にとられて硬直する。

 もし、舞台で自慢の持ちネタを披露した芸人がこの冷たい視線にさらされたら引退を考えるかもしれない。

 それなのに遼介はどこかうっとりとした表情でプルプルと身悶えを始める。


「フフフッ……俺も罪な男だ。女性ばかりか野郎まで虜にしてしまうとは」

「いや、誰も虜になってないって」

「むしろキモいんですけど」


 郁美のそばに居た女子生徒が呆気に取られながら辛うじてそうこぼす。

 当然、遼介の耳には届かない。


「というわけで、郁美。一緒にランチタイムとしけこもうじゃないかぁ」

「先輩は……お弁当なんですか?」

「学食か購買が主なカロリー補給源だな」

「私たち、お弁当なんで……」

「先輩、早く行かないと学食も購買も売り切れちゃうんじゃないんですか?」

「そーですよ、さっさと行ってください。私たちは教室でお弁当なんで」

「はうぁ! そうか、肝心なことを忘れていると思ったら……。遼介ショーック!」


 頭を抱えて絶叫する遼介。

 誰も彼に関わり合いになりたくないという気配が教室に漂う。

 ちなみに学食も購買も十分な量を確保して販売していない。

 売れ残りが出るかで無いかギリギリの量しかない無いので出遅れたりすると昼食に有りつけないという事態も起こりうる。

 そのため弱肉強食の不文律が出来上がるほど激しい戦場と化す。


「遼介っ! やっと見つけたわよ! まったく世話を焼かせるんじゃないわよ。康司も待ってるんだからさっさと昼ごはんにするわよ」

「げぇ、葉月。いつのまに」

「いつの間にでもいいから、恥をばら撒くのはやめなさいって」

「ノォゥ! 襟首もって引っ張るのは止めて、絞まる、絞まるぅぅぅ」


 突然現れた長い黒髪の女子生徒――葉月が遼介の襟首を掴んで引きずる。

 彼がバンバンと彼女の腕をタップをするが完璧に無視して彼を引きづり、そのまま教室から出て行った。

 昼休みの喧騒を教室に居た全員が取り戻すには、ゆうに十分以上かかったのだった。


 ***


 ホームルームの開始直後から、そわそわと落ち着きの無かった遼介。

 彼はホームルームが終わると同時に教室を飛び出していく。

 キラキラとした瞳と笑顔のまま、廊下を全力疾走する遼介。

 廊下の角は三角跳びで曲がり、スピードを落とさない。

 その常人を逸脱する動きに、教師は注意する事を忘れてしまう.


「い~く~み~ちゅ~ぁ~ん」

「ちょ、遼介! 待ちなさい! あんた恥ずかしいことはやめなさいって!」


 遼介の後を凄まじい勢いで追いかけていく葉月。

 二人の声が校舎中に響き渡る。

 遠ざかる二人の後ろ姿を眺めながら康司はため息をこぼす。


「折谷は、も少し素直になればいいのによ。変に意地を張るから遼介が意識しないだけなのにさ。遼介が鈍いってのもあるかもしれないけどさ」


 康司は同意を求めて呟いたわけではないが、教室に居た一同が頷く。

 教室でそんなやり取りが行われている頃、遼介は一年C組の教室に辿り着く。

 ホームルームが終わった直後で、ぞろぞろと生徒が廊下に出てくる。

 遼介が目を見開いて、生徒の中から目標――郁美の姿を探す。

 が、彼女の姿は見当たらない。

 遼介は滑るような足取りで、躊躇なく教室に入る。

 すると、教室後方で帰り支度をしながら談笑する郁美の姿があった。


「いっくみーーー!」


 郁美の姿をロックオンした瞬間、遼介は瞬間移動を見間違うような速さで彼女のそばに駆け寄る。


「っ!」

「ちょ、でた! ヘンタイ先輩!」

「郁美、下がって!」


 恐怖に硬直している郁美を庇うように前に出る友だち二人。

 遼介は身を屈めると「トゥ!」という奇声と共に床を蹴って宙に舞う。


「俺の背中には愛という名の翼があるのさぁ! 阻む者は何も無い~」


 バラの花びらをばら撒きながら、遼介は空中でフィギュアスケートのジャンプのように――いや、独楽のように高速回転する。

 そして、音も無く軽やかに着地を決めて、呆然としていた郁美の背後に静かに立つ。


「いやぁー、待たせてしまったかい、郁美?」

「待ってません、待ってません……」


 ブルブルと必死になって首を振る郁美。

 我を取り戻した友だち二人が遼介と彼女の間に体を滑り込ませる。


「な、何者なんですか!」

「今の動きは人間離れしすぎでしょう!」

「ふふふ、俺と郁美の愛の前に不可能は無い」


 きっぱりと断言する遼介の姿に、二人は毒気を抜かれてしまう。

 それでも何とか気持ちを切らさない二人。


「何が愛ですか! 郁美、めちゃくちゃ怯えてるじゃないですか!」

「そーですよ! 何がやりたいのか意味がわからないんですけど! 郁美はあたしたちと帰るんでヘンタイ先輩はいりません」

「またまたーそんなこと言って。俺にサプライズでもあるのかなぁ」

「あるわけないでしょ! バカ遼介! 怯えられていることぐらいわかりなさいよ!」


 ようやく追いついた葉月は肩で荒々しく呼吸を繰り返す。

 彼女が汗で額に張り付いた前髪をかきあげる姿は妙に様になっており、教室に残っていた一年女子が黄色い声をこぼす。


「ホワイ? それはおかしくないか? いやいや、この話の流れはありえない」

「ありえるっての。あんたの今の行動がおかしすぎんのよ。ちょっとは冷静になりなさい!」


 昼休み同様、遼介の襟首を掴むとずるずると引きずっていく葉月。

 遼介は腕組みをすると何がおかしいのか必死に考えているようだった。

 しかし、襟が頸動脈をキッチリ締めているので、次第に顔が青くなり、バンバンと葉月の腕をタップをするのだった。


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