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2025年4月11日7:00。
スマホのアラームで藤沼は目を覚ます。
昨日帰ってきたのは2時過ぎだったため、睡眠時間は5時間程度だろう。
眠い目を擦りながら布団から出る。
コンビニで買っておいたパンを食べながら、慌ただしく支度をしていた。
慌ただしいのは藤沼の性格からなのだが、日常になりつつあり、自分の中で気にする事は無くなっている。
準備ができ、車に乗りこみ瓦井を拾いに行く。
運転中に藤沼は今回の事件について考えていた。
被害者のうち2人は幻覚を見ていたという可能性があるかもしれないこと。
1人は麻薬。もう1人は酒によるもの。
麻薬で命を落とした可能性は否定しきれないのだが、酒は少し説得力が低いのではないか?
アル中になった訳でもなく、それに麻薬の人と同じような死に方をするなんて。
これから長野に向かい、麻薬を取引していた人に話を聞こうとしてはいるものの、何を聞くかを考えていなかった。
藤沼がよくやる見切り発車というやつだ。
こういう時、大抵は瓦井が考えてくれているのだが、待ち合わせの場所まではもう少しかかる。
その間に少しでも考えておくべきだろうと藤沼は思った。
とりあえず最重要事項としては被害者に与えた麻薬の中に他のものを入れていないかという点。
聞いたところで犯人が答えてくれるとも思えない内容だが…期待は薄い。
それ以外は特に思いつくことはなく、瓦井の元に着いてしまった。
挨拶をして助っ席に瓦井が乗ってくる。
「こんな無茶に付き合ってくれてありがとうね。
でも、本当にいいの?」
「何言ってんですか今更。
ついて行くって言ったんで、最後まで付き合いますよ。」
「ありがとう。
じゃあ、そのついでで、これから行く逮捕された人に対する質問考えてくれない?」
「え、考えてないんですか?」
「被害者に与えた麻薬に何か入れてなかったかって質問は考えたわよ?」
「いやいや、そんな簡単に答えてくれるわけが…」
「いいから考えて!そういうの得意でしょ?」
渋々、瓦井は考えることにした。
得意というか、藤沼の相手をしている間に経験が身についてしまっただけだと瓦井は感じている。
「そうですね、被害者の周りに怪しい人物がいなかったかってのは聞いておいた方が良さそうですね。」
「ナイスアイディア!」
「にしても、他のところはこの事件をどう捉えているんでしょうね。
あんまり動いている様子はないので、もしかしたら調べているのは自分たちだけだったりして。」
「もしかしてじゃなくて、そうだと思うわよ。
上の人たちはこんな面倒な事件を相手にしたくはないはずだし。
犯人がいたとしても、証拠が何一つない完全犯罪。
昔はね、そういう事件でも警察はやるもんだと思ってた。
でも、そうじゃなかった。
私のやる気は空回りしてるっぽいし。」
「そんな上司に育てられたのが自分なんで、ついて行きますよ。」
「おだてても何も出ないわよ。
ご飯ぐらいなら奢ってあげてもいいけど。
無理に連れてきた罪滅ぼし的な意味でね。」
「ありがとうございます。」
「遠慮ってものを知らないのね。
でもまぁいいわ。ちょっと気分がいいし。」
車の中は事件を追っているとは微塵も思えない空間だった。
気を引き締めていない訳では無いのだが、プライベートのような気がして2人とも少し気が緩んでしまうのだ。
「あと、少し思ったのは麻薬を取り扱っているなら何か注意事項を知ってるかもしれません。
だから、写真を見せて症状を見たことは無いかと聞いてみるのはどうかと思います。」
「いいと思う。
片っ端から聞けることは聞きましょう。」
そうして車は長野に向かう。
数時間後、目的の場所に到着。
この場所に、被害者に麻薬を分け与えていたという男が収監されているのだ。
少しでも手がかりがあれば…
そんな気持ちで藤沼は中に入るのだった。




