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残響 - 02

 灰谷さんが来たのは、その次の日だった。

 瀬崎さんと二人で、午前中は例のレコードの前の持ち主に話を聞きに行っていたらしい。


「葛原ちゃん、昨日気絶したんだって? 大丈夫だった?」


 会うなりへらへらと言ってきたけど、顔を見るかぎり本気で心配してくれているようだ。その横で、瀬崎さんが苦い野菜を無理やり口に突っ込まれたみたいな顔をしている。

 気絶するのはこれで二度目だ。意識を取り戻した私に瀬崎さんは何度も謝った末、その場で灰谷さんに連絡をしてくれた。あの女の人は、常連さんと一緒に気絶した私の介抱をしているうちに消えていたらしい。


「それで、俺たちが聞いてきた話なんだが……」


 灰谷さんの話では、前の持ち主は大学生くらいの男性だったそうだ。


「彼も、例の『噂』のレコードは中古で買ったんだと。バイトでためたお金で、レコードを買い漁っているみたいだねえ」


 先日、チェックしたレコードのラインナップを思い出す。渋いラインナップだからてっきり年配の方のコレクションだと思っていたけど、まさか自分より年下だったなんて。同年代で音楽の趣味が合う子なんてあまりいないし、状況が違えば友達になりたいくらいだ。


「ただ、あのレコードを買ってから妙なことが起き始めた」


 灰谷さんが人差し指を立てると、意味ありげににやりとした。


「アパートの周りで妙な女を目にするようになったんだ。黒い長髪で、いつも同じ格好で……ピンクのスカートに、白い上着を着た女。初めは薄気味悪い女だな、くらいにしか思っていなかったが……あるとき気づいた。その女が、徐々に自分の家に近づいてきていると」


 男性は、直感的に最近買った『噂』のレコードが原因だと気がついた。きっと、彼もジャケットに挟まっていたメモを見ていたんだろう。すぐに売ることを決意したらしい。

 そこで、ちょうど家にたまっていた他のレコードとあわせて黎音堂に売ることにしたんだそうだ。

 レコードをうちの店に宅配する直前には、女はアパートの廊下にまで上がってきて、じっと男性の部屋を見ていたという。あのまま行けばいつか自分の部屋に来ていただろう、と男性は青い顔をして語ったとのことだ。


「どうも、レコードを所持することが引き金になるらしい」灰谷さんがふと真面目な顔になって腕を組む。

「いまそのレコードは売られずこの店にあるわけだから、瀬崎さんが持ち主と認識されたんでしょうね。で、女はレコードの持ち主がいる場所を見つけて少しずつ近づいてくる。女が持ち主の前に辿り着いたとき、どうなるかはわからんが……」


「その……アパートの廊下に女性が現れたのは、レコードを買ってから何日目だったんですか?」

「六日目だ」

 瀬崎さんがぶっきらぼうに呟いた。灰谷さんが頷いて、続きを引き取る。

「おそらく、レコードを所持してから七日目に……女は持ち主のところに辿り着くと思われるね。つまり黎音堂の場合は、今日だ」

「そんな……どうにか、ならないんですか」

「ま、手っ取り早いのはレコードを破壊することでしょうな」

 と、灰谷さんが顎を掻く。

「ただ、お二人よりはオカルトに詳しい立場から言わせてもらうと、それってわりと諸刃の剣なんですよねえ。そりゃ、呪いを断とうとしたら、その原因になっている媒体を壊すのが一番論理的な解決だ。でも、そんなことで簡単に呪いを断てるなら苦労しません。大体、そういった媒体を破壊しようとすれば、実行者にとんでもない不幸がふりかかるか……あるいは、呪いとの距離が一気に縮まるか。レコードを破壊しようとした瞬間に、女がすぐ目の前にやってくるなんてことも考えられる」


 私は絶望して瀬崎さんを見た。瀬崎さんはちらっとこちらを見て、少しだけ頷く。泣きそうになっている私に、灰谷さんが「一つ、試してみてもいいかもしれない」とまた指を立てた。


「女がこの店に入ってきた瞬間に、レコードを壊すんですよ」

「なるほど」と瀬崎さんが腕を組む。

「怪異が近づいてくる前に媒体を壊そうとすると、一気に距離が縮まるなら……逆に限界まで引き付けておけば、壊そうとしたときの影響が少ないってわけか」

「そういうことです。しかも、我々の場合は一人じゃない。三人もいるんです。仮に瀬崎さんが襲われても……私と葛原ちゃんがいれば、どちらかはレコードの破壊に成功するかもしれない」

 朗らかな笑みを浮かべる灰谷さんの横で、瀬崎さんは自分が襲われる前提になったことが気に食わなかったのか、また盛大に顔を顰めていた。


***

「きみはいなくてもいいって、言っただろ」

「そんなの嫌ですよ、私だってこの店のスタッフなんです。瀬崎さんと一緒に、この店を守る義務があります」


 閉店時間をとうに過ぎたバックヤード。ソファに腕を組んで座る私の前で、瀬崎さんは不満そうな顔をしている。灰谷さんは壁際に立って、どこか面白そうな顔で私たちを眺めている。


「そんなこと言ったってなあ……」

 

 もどかしそうに頭を掻く瀬崎さんに、灰谷さんが「まあまあ」と両手を挙げた。


「いい部下じゃないですか、瀬崎さん。葛原ちゃんが心配なのはわかりますけどねえ。なんせ」

 と私に向き直って、

「その女は葛原ちゃんのことが嫌いみたいだしねえ」


「でも、どうして……」


 さあ、と灰谷さんが肩を竦める。

「メモの内容からして、狙いは瀬崎さんだろうから。すぐそばにいる別の女が邪魔ってことじゃないかなあ。女の敵は女ってね」


 しわがれた女の声と生気のない唇を思い出し、私は全身を震わせた。頬にあたる冷たい水の感触が蘇る。深い底なし沼に引きずり込まれるような、息苦しい泡音。


 あの人は、男女関係が原因で自ら命を絶ったのかもしれない。

 何も見えない、暗く冷たい水の底で。

 そう思うと、凍るように冷たい水が肺に流れ込んできたような気持ちになって、私はギュッと胸の前で手を握った。


「……なんか、聴くか?」

 

 え?

 言われたことの意味がわからなくて顔を上げる。少し離れたところで、瀬崎さんが相変わらずきまり悪そうな顔のまま、しきりに首筋を撫でている。


「いや……どうあっても、葛原さんが帰る気なさそうだからな。なら、気晴らしに何か……と思っただけだ」


 こんなときに何を言ってるんだろう。一瞬そう思って、すぐに「いつもと逆だな」なんてクスッと笑ってしまう。一度笑みが漏れると、たしかに音楽を聴いてこの息苦しい気持ちから抜け出すのは、結構いい案な気がした。


「じゃあ……ピンク・フロイドの『おせっかい』を。B面がいいです」


 きょとんとしている灰谷さんの横を通り抜け、瀬崎さんが棚からレコードを持ってくる。ピンク・フロイドの“エコーズ”。アルバム『おせっかい』のB面を丸々占める、二十分超の大作だ。

 私が、ピンク・フロイドで一番好きな曲でもある。


 深い海の底から、徐々に光に向かって浮上していくような、幻想的で透き通った浮遊感のある曲。

 暗い水底に引きずり込まれるようなあの女の音に対抗するには、ぴったりな気がした。


「ほんと、きみはフロイドが好きだよな」瀬崎さんがレコードを取り出しながらこちらを見る。

「そういえば聞いたことなかったけど……きっかけとかあるの? その年でフロイド好きなんて、なかなか珍しいでしょ」


 出会ってからもう何ヶ月も経つのに、今更すぎる問いに思わず笑ってしまう。聞かれたら真っ先に答えようと思って、ずっと待っていたのに。


「私が初めて買ったレコードなんです。ピンク・フロイドの『おせっかい』。それも、このお店で」


 あのときの私は、なんかもうボロボロだった。人と関わるのが怖くて、無理して笑顔でいるのも疲れて。何もかも嫌になって、ああもう消えたいな、なんて。

 こんな能力があるかぎり、私の人生、この先何もいいことなんてない。

 そんなことを、毎日思っていた。


 それで、たまたまこの店の前を通ったとき。どうせろくな明日が来ないなら、好きなことに嫌ってほどお金を使って、それから人生を終わらせてもいいんじゃないか。ふと、そう思った。

 たまたま目についたレコードを手に取って、無愛想で怖い店員だな、なんて思いながらレジに持って行って。その足で、帰りにアンプとプレーヤーも買った。持って帰るのはめちゃくちゃ大変だった。我ながら本当にどうかしてたと思う。


 それから何の気なしに、買ったレコードを再生してみたら……衝撃でしばらく動くことができなかった。

 「生きたい」という欲望を、体の底から震わされているみたいだった。

 こんなに綺麗で、優しくて、気持ちのいい曲があったなんて。泣きたくなるとか、そんな表面的なものじゃない。もっと心の深いところにある感情を、直接揺らされるような感覚。

 こんな曲が聴けるなら、まだ明日が来るのを待ってみよう。そう素直に思えた。


 それ以来、レコードは私の宝物になった。


 瀬崎さんを見ると、呆れたような顔をしてレコードを手に、棒立ちになっていた。


「まさかとは思うけど……それが、理由? 今日、帰らないのも……今まで危ないことに首突っ込んできたのも……最初に、『ハッピー・ルインズ』のアルバムを聴かせてくれってここに来たのも。この店で、『おせっかい』を買ったから?」

「そうですよ」力強く頷く。

「この店のおかげで、人生を変えるレコードに出会えたんです。私にとっても、この店は大事な場所なんです」


 瀬崎さんの口が開いたけど、すぐに閉じた。また開く。心なしか、首筋が赤くなっているような気がする。


「それは……」


 ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボッ

 そのとき、ドアの外から激しい水音が聞こえてきた。


「来ました!」


 私の言葉に、灰谷さんが素早くテーブルの上のレコードを手に取る。

 瀬崎さんがまっすぐ手を伸ばすと、私の手首をギュッと握った。


 ……う……ううう……あああああああ……


 苦しそうに息を吐く音が聞こえる。女がガラス窓に、べったりと張り付いている姿が頭に浮かぶ。バサバサと目の前にかかる髪の下から、幾筋もの涙が流れ落ち、乾いた唇を濡らしていく。


 ……どうして……どうして……うう……どうして、どうして……


 女がずるりとガラス窓を通り抜ける。ずずっ、ずずっと靴底を引きずるような音を響かせ、ゆっくりとこちらに進んでくる。


 ……そんなおんな……より……わたしのほうが……あ……いいいいいいいいいい


 灰谷さんが扉に目を向けながら、そっとレコード盤を取り出す。チラリとこちらを振り返り、目で「合図をくれよ」と言いながら頷く。

 瀬崎さんの手首を握る力が、強くなった。


「もうすぐ……です」


 カタカタと鳴りそうな歯を必死に食いしばり、隙間から息を吐き出す。灰谷さんの喉が大きく上下し、レコード盤をぐっと握りしめる。……次の瞬間。


 ……わたしのほうが、あいしてるのに


 女が、目の前に立っていた。

 青白い腕が真っ直ぐ前に伸ばされる。俯いていた顔が、徐々に前に上がっていく。


 ガボッ……ゴポポポポポ……ズルルルル……


 簾のような黒い髪の隙間から、赤く血走った目が私と瀬崎さんを睨んだ。


「灰谷さん!」


 私の声に、灰谷さんが我に返ったようにレコードを持ち直す。膝を曲げると、レコードを叩きつけて割ろうとする。


「がっ」


 灰谷さんが喉を押さえて倒れた。レコードが床に落ちてカラカラと音を立てる。灰谷さんは拾うこともできず、苦しそうに口を大きく開けてパクパクと動かした。唇が端からどんどん紫になっていく。


「やめて!」


 駆け寄ろうとした瞬間、胸に刺されたような鋭い痛みが走った。あまりの衝撃に一瞬呼吸が止まり、その場に崩折れる。視界が霞む。息を吸おうとしても、痛みがそれを邪魔する。凍った手で気管支を握りつぶされているような。苦しくて涙が出てきた。このままじゃ……瀬崎さんが……。


「くずは……ぐ……がはっ」


 瀬崎さんの苦しそうな声が聞こえる。ずりずりと、女が動く音がする。


 ……いっしょに……いこう


 掠れた声が、吐息とともに吐き出される。

 だめ。そんなのだめだ。瀬崎さんを、連れて行かせるわけにはいかない。

 痛む胸を抑えながら半身を起こす。激しく咳き込んだ。喉の奥で血の味がする。呼吸が、ヒューヒューと頼りない音を立てる。


 瀬崎さんの呻き声が聞こえる。灰谷さんが、大きく目を見開き、首に手を当て倒れている。足の先がビクンビクンと、死にかけの魚みたいに震えている。

 女が気付く前に、私はその足元にあったレコードを手に取った。傷だらけの黒い盤。何度も針が表面を擦ったあと。何回も何回も、この持ち主はこのアルバムを聴いてきたんだろう。文字通り、擦り切れるまで。


 本当ならレコードを割るなんて絶対したくないことだけど、今はそんなときじゃない。盤を握る手に力を込めーー

 そのとき、女の声が聞こえた。


 ……いった……でしょ……どこにいっても……みつける


 頭の中で、誰かが針を落とした。

 脳内で思考がぐるぐると回転し始める。何かが引っかかる。これじゃない、そんな気がする。


「な……してる……は、やく……」


 灰谷さんが真っ赤な顔をしながら、私の腕を掴んだ。


 ーーレコードを所持することが、引き金になる


 本当に? 本当にそうなんだろうか。

 酸欠で朦朧としてきた頭を必死に働かせる。私は、このレコードを聴いていない。だからこのレコード自体が「ヤバい代物」なのかは、判断できていないのだ。レコードよりも、もっとおかしな何かがその前にあったはずだ。

 私はあなたを見つけますーーどこに行っても。


 あのメモだ。


 痛みに悲鳴をあげそうになりながら、私は足に力を込めた。立ち上がる。壁際に向かって走り出す。

 あのメモは、瀬崎さんのロッカーに入れっぱなしになっていたはずだ。気持ち悪くて、あれ以来触っていなかったから。

 足が鉛のように重い。一歩踏み出すたびに胸がぎりりと痛む。

 女の腕が瀬崎さんの首に回されるのが見える。瀬崎さんが苦しそうに咳き込む。必死に女の腕に手を回しているけど、どこにそんな力があるのかと思うほど女は意に介さず、首を締め上げていくーー。

 あともう少しだ、間に合え。

 ロッカーを開く。扉の裏側のポケット。そこにくしゃくしゃになった紙切れがあった。


「葛原……さん!」


 瀬崎さんが叫ぶ。顔を上げると、血走った目玉が2つ、目の前にあった。女の顔だ。土気色の唇が歪み、歯が剥き出しになる。細い腕がゆっくりと上がる。


「やめろ!」


 瀬崎さんが大声を出した。ドスン、という衝撃。女の腰の辺りに瀬崎さんが抱きつき、女の上半身が後ろに仰反る。


 素早く、私は手に持ったメモを広げた。相合傘と、「ミマ」の文字。その文字と、隣の空白の欄を分つ真ん中の線ーーその部分で、紙をビリビリに引き裂く。


 ……ぐ……ああああああああああああああああああ


 甲高い悲鳴が響き渡り、耳を押さえた。

 声は次第に小さくなっていく。やがて、恐る恐る顔を上げると……女の姿は、どこにもいなくなっていた。


***

「今回は、きみがいてくれて本当に助かったよ」

「いつもって言ってくださいよ」


 ソファに座った瀬崎さんが、首をさすりながら顰め面をする。思わずふふっと笑みを漏らすと、瀬崎さんはますます不貞腐れた顔をした。

「何がおかしい」

「いーえ、別に」


 にやにやする口元が抑えられない。

 瀬崎さんがまた何か言おうと口を開きかけたけど、その前に灰谷さんが「いやほんと、葛原ちゃんのおかげだよ」と声を上げた。すぐに弱々しく咳き込む。

「大丈夫ですか」

「いや、思ってたよりやられたねえ。俺が男だからかな」

 いつもより少し掠れた声。喉元に残る赤黒い跡が痛々しい。


「しかし、この店で起こるヤバいことは大体レコード絡みって思ってましたけど。こういうケースもあるんですねえ」

 瀬崎さんが「失礼な」と言いたげに鼻を鳴らす。私は、テーブルの上に置いてある『噂』のレコードを手に取った。

「でも結果として、レコードを壊さなくて済んでよかったです。すごくいいアルバムですし……やっぱり、どんな理由があれレコードが傷つくのを見るのは、いい気持ちしませんから」

「葛原ちゃんらしいね。俺は音楽なんて全然興味ないから、ちっとも知らんバンドだけど。そんなにいいの?」

「ええ、いいアルバムですよ」


 瀬崎さんをちらりと見て、私はジャケット表面の埃をそっとはらった。


「この前、瀬崎さんと……このアルバムの制作の裏側は、メンバー間の男女のもつれでドロドロだったって話をしてたんですけど。それでも、メンバーにとってはこのアルバムを作ることが支えにもなってたんですよね。本当に精神的に辛い時期だったけど、音楽に集中することで正気を保てたって」

 そっとレコードをテーブルの上に戻すと、軽く息を吐く。


「……あの女の人にとっても、そういうアルバムだったのかもしれないですね」


 生前、ことさら思い入れの強いアルバムだったのかもしれない。思い人と何があったかなんて知る由もないけれど……彼女にとっては、この世に縋る縁となるほど、大切な思い出の詰まったアルバムだったのかも。

 そう思うと、あんなに怖い思いをしたあとなのに、どこか「ミマ」を憎みきることはできなかった。


「きみにとっての、『おせっかい』みたいなもんか」


 その言葉に、弾けるように顔を上げる。瀬崎さんがまだ喉をさすりながら、青と茶色の特徴的なレコードジャケットを取り上げていた。


「……さっき、聴きそびれたから。せっかくなら、聴いてから帰るか?」

「え、いいんですか!?」


 笑顔で何度も頷く私に、付き合いきれないと灰谷さんが立ち上がった。


「これだから音楽オタクは。俺は疲れたんで、もう帰りますよ。また、なんかネタになりそうなことあったら呼んでください」


 瀬崎さんがレコードをセットする。私はソファに座って、じっと待つ。静かな時間。レコードに針を落とす直前の、この少し張り詰めた静寂が私は好きだ。

 瀬崎さんがそっと針を落とすのが見える。プツッと音がして……さーっと針先が盤面を擦る音がする。そして……。

 「エコーズ」を象徴する、最初のキーボードの一音が鳴る。深く、青く澄んだ海の底から響いてくるような神秘的な音色。珊瑚礁と一緒にたゆたっている気分になる……心地よく美しい音。

 ソファの端が沈んで、瀬崎さんが隣に座ったのがわかった。

 大好きな音楽に耳を任せながら、私はゆっくりと微笑んだ。


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