38.激闘の末に
「なんだ、これは……!?」
その光は宝玉に吸い込まれていくように伸びていった。
そして黒鬼丸が怯んだ隙を見逃さず、銀夜は思い切り刀を振った。
「ぐあ――――ッ!!?」
銀夜から放たれた一撃は見事黒鬼丸の身体を切り裂き、同時にものすごい衝撃でその身体は後ろに弾き飛ばされた。
このまま勝てる……?
一瞬そう感じたけれど、銀夜もかなり息が上がっている。
「今のは効いたぞ……」
「……!」
肩から血を流しながらも、黒鬼丸は身体を起こした。
まだ動けるの……!?
けれど、言葉通りかなり効いているようだ。
このまますぐに追撃ができればいいのだけど、銀夜は荒い呼吸を繰り返しながら、がくりと片膝を地につけた。
「ん……?」
「ひっ!」
「愛琉……!!」
そんな黒鬼丸が目を向けた先にいたのは、愛琉だった。
彼女も外に出てきてしまったらしい。
木の陰から隠れてこちらの様子を伺っていたようだけど、突然近くに飛んできた黒鬼丸を前に、ガタガタと震え上がり、動けずにいる。
「おまえ、なにを持っている?」
「……!」
愛琉がなにかを握っている。
それに気がついた黒鬼丸は、彼女に手を伸ばした。
「や、やめろ……!」
「宗太君……!!」
「なんだ、小僧。まだ生きていたのか」
そんな愛琉を庇うように彼女の前に出たのは、宗ちゃんだった。
彼はとても恐ろしい思いをしたから、黒鬼丸の姿を見るのも嫌なはずなのに。
愛琉を守るために――。
「そうだ、おまえを喰ってやろう」
「っ!」
「させるか! 喰らえ、狐火!!」
愛琉と宗ちゃんが危ない!
そう思って駆け出した私だけど、二人の前にぴょんと飛び出して小さな炎を放ったのは黄太君だった。
黄太君も、妖狐だ。
ボフッと音を立てて、その炎は黒鬼丸の顔面に直撃した。
「今のうちに逃げろ! 愛琉、宗太!」
けれど――。
「……ふん、効かぬな。退け」
「ぎゃっ!」
「黄太君……!!」
黒鬼丸の顔は、火傷一つ負っていない。
黄太君は簡単に頭を掴まれると、ひょいと投げ飛ばされてしまった。
「さぁ女、死にたくなければそれを俺に渡せ」
「……っ」
「だ、駄目だ……! 愛琉ちゃん、逃げて……!」
「宗太君……」
「小僧、震えているぞ?」
宗ちゃんは愛琉の前に出て両手を広げたけれど、膝が震えていて、それ以上はなにもできない。
駄目だ、宗ちゃんが殺されてしまう……!
「渡せ」
「……っ」
「渡せ……ッ!! 小僧を喰うぞ!!」
「……ひっ!」
両手を胸の前でぎゅっと握りしめながら、愛琉はガクガクと震える足で一歩ずつ後退した。
けれど、頭に響くような黒鬼丸の怒声に小さく悲鳴を上げると、愛琉はとうとうその場に尻餅をついて倒れた。
「愛琉、宗ちゃん、逃げて――!!」
「……っお姉ちゃん!」
このままでは、二人とも殺される……!
せっかく宗ちゃんを黒鬼丸のもとから助け出せたのに。
愛琉だって、一緒に暮らした年月は短くても、たとえ仲がいい姉妹だったとは言えなくても、たった一人の私の妹。
だから絶対に助ける!!
そう思って全力で走りながら手を伸ばしたら、ぽろりと涙をこぼした愛琉が私を呼び、手に握られていたものを思い切りこちらに投げ渡した。
「受け取って、お姉ちゃん……!!」
手放したら、自分が危険だというのに――。
「小娘が……! もういい、おまえを喰って力を手にしてやる……ッ!!」
「きゃぁっ!」
愛琉から投げ渡されたのは、あの勾玉だった。
それを受け取ったのと同時に、二つの勾玉が目映いばかりの光を放つ。
「――なんだ!?」
それからはもう、考えるでもなく、口が動いていた。
「光の力を我が手に――!」
私が唱えたのとほぼ同時に、ものすごい速さでこちらにやってきた銀夜は、迷うことなく黒鬼丸に刀を振りかぶっていた。
二つの勾玉から放たれた赤い光が銀夜の身体を覆い尽くし、刀に埋め込まれている宝玉の白銀と混ざり合う。
そうだ――。この勾玉は二つ揃って初めて本来の力を発揮するのだった。
「朽ちろ――!!」
「―――ッ!!」
赤と白銀の光が銀夜の身体を覆った途端、彼の髪がざわざわと伸び、鋭い爪と牙が生えていった。
目つきもいつもの彼とはどこか違う。
ああ、そうか。銀夜は山神様の力を手にしたのね――。
赤と白銀の光をまとった銀夜の刀が黒鬼丸に振り下ろされる寸前。
黒鬼丸は叫んだ。
「なぜだ――なぜ俺はまた、ぎんに――――ッ!!」
銀夜の刀が黒鬼丸の身体を貫いた瞬間。
ふと黒鬼丸の黄色い瞳が私に向けられた。
黒鬼丸と目が合った、そのとき。
彼との記憶が、鮮明に蘇る。
私だって、彼のことを許せないほど、憎んでいた。




