37.激闘の中で
「……ッ、貴様も俺の邪魔をするか……! 犬ころのように馬鹿ではないのだから、強い者に従えばよいものを」
「あのときの報いを返す」
「……なんだ、六年前に狐を殺したこと、怒っているのか?」
「……」
「妖狐はそんなに仲間意識の強い種族だったか?」
この男は、人やあやかしを殺すことをなんとも思っていない。
邪魔であれば殺す。
自分の欲望のためならば、なんだってする。
この男には大切な存在がいない。
だから家族や仲間を失う者の悲しみがわからないんだ。
「まぁよい。俺の邪魔をするのなら、貴様も殺すまでだ」
玲生さんの狐火もものすごい威力だったのに、力が戻った黒鬼丸にはあまり効いていない。
対抗するように、黒鬼丸は玲生さんにも真っ黒な鬼火を放った。
「……この野郎!!」
そんな黒鬼丸の背後から飛んできた銀夜が刀を振りかぶる。
玲生さんも狐火を繰り出し、二対一で黒鬼丸を攻撃する。
「二人がかりでもこの程度か……下等種族は邪魔をするな」
「邪魔をしているのは自分だと、そろそろ気がついたらどうだ……!」
「なんだと?」
「何回振られたらわかるんだよ。何年経っても、何度生まれ代わろうとも、椛がおまえを選ぶことはない!!」
「……ッ」
はっきりと言い切った銀夜に私も深く同意した直後、黒鬼丸は二人の攻撃をもろに食らって弾き飛ばされる。
〝ズザザ――――ッ!〟
仕留めただろうか……!?
辺りに砂埃が舞い上がり、よく見えない。
私はすかさず黒鬼丸を封印すべく手を前に組み呪文を唱えようとしたけれど――。
「なぜだ……、どうして、おまえは俺のものになってくれないんだ……」
もみじの木にぶつかった黒鬼丸の上に、大量の赤いもみじの葉が舞い落ちる。
黒鬼丸はその葉をぐしゃりと力強く握りしめ、拳を震えさせた。
「俺は力を手に入れた。俺が最強だ!! なのになぜおまえは、またその負け犬なんかと……!!」
「……!」
カッと黄色い瞳を見開いて私を睨みつけると、黒鬼丸は空を仰いで叫んだ。
「ヴヴヴォオオオオアアアッ――――!!」
「……っ、なんという声なの」
空気がねじれたのかと思うほどの叫び声に、身体が振動する。
その声は天にまで届き、地を揺らすようなすさまじいものだった。
「認めぬ……絶対に認めぬぞ、椛!! おまえは俺のものだッ!!!」
黒鬼丸の身体がどす黒い妖気に包まれる。
そして、メキメキと額から二本の角が生え、爪も牙も伸びていく。
その姿はまさに〝鬼〟そのものだった。
この世の者とは思えないほどの、圧倒的なオーラと気迫に、身体が恐怖でぶるぶると震える。
心臓はばくばくとうるさく脈打っているし、恐怖が身体を支配して呼吸をするのも難しいほどだった。
でも、それでも私は……私たちは、負けてはならない。
「こっちへ来い、椛!!! その負け犬は俺が喰ってやるッ!!!」
「銀夜は負け犬なんかじゃない!!」
恐怖を振り払うように力強く叫ぶと、私の勾玉が気持ちに応えてくれるように赤い光を発した。
その光は私の身体を覆い、銀夜の刀の宝玉も共鳴するように白銀の光を放つ。
同時に玲生さんも妖力を全解放させ、黄色いオーラに包まれた。
「おまえの好きにはさせない……!!」
玲生さんが黒鬼丸に向かって手を伸ばすと、黄色い光となった妖力の塊が放たれ、黒鬼丸の身体を拘束する。
「今だ、椛さん!!」
「はいっ! 巫女の加護よ、我に力を与えん――」
玲生さんの合図に、私はすかさず呪文を唱えた。
けれど。
「ふ……っ、確かに以前よりは力をつけたようだな。しかしこのような呪縛では、今の俺にはまるで藁のようだ」
「……っ!?」
黒鬼丸はそう呟くと、カッとものすごい量の妖力を解き放ち、簡単に玲生さんの拘束を解いてしまった。
「なに……!?」
「貴様もあの狐たち同様燃やしてやる。灰すら遺さずにな」
「玲生さん……!!」
今度は黒鬼丸がこちらに手を伸ばす。
玲生さんは瞬時に結界を張ったけど、それ以上に妖力の高い鬼火が玲生さんを攻撃する。
「……ぐあ――っ!!」
「玲生さん……!!」
「椛、駄目だ――!」
結界のおかげで直撃は免れたけど、勢いで後ろに弾き飛ばされた玲生さんに駆け寄ろうとした私の身体は、瞬時に飛んできた銀夜に包み込まれる。
「……っ!」
その直後、黒鬼丸の手が伸びる。
銀夜に助けられていなかったら、私の身体は荒々しい黒鬼丸の手の中だっただろう。
「また逃げるのか? 負け犬が。だが椛は置いていけ。今の俺には、おまえの足でも敵わぬぞ」
「……っ」
黒鬼丸は余裕そうに笑っている。
少し距離を取ったところで私を下ろすと、銀夜は刀を構えた。
「まだ俺とやる気か」
「椛は絶対に渡さない」
「ふっ……いいだろう」
銀夜に応えるように、黒鬼丸も刀を構えた。
刀身が黒鬼丸の妖力を受け、黒々と染まっている。
あの刀身を一撃でも喰らえば、ひとたまりもないだろう。
「行くぞ――」
〝ガキィィイイイイ―――ッ!!〟
鋼がぶつかり合う音が、闇夜に響いた。
銀夜の力強い一撃が、黒鬼丸の刀に跳ね返される。
それでも銀夜は冷静に目を凝らし、すぐに構え直した。
黒鬼丸の攻撃をなんとか受け止めているけど、それだけで精一杯に見える。
「どうした? おまえの気持ちはそんなものか」
「……くっ」
「その程度で俺に勝てると思っているのか」
「……まだだ!」
「俺の椛への気持ちはもっと強いぞ。どんな手を使ってでも、この手にするのだからな」
「……っ!!」
ゴォォォ――――ッ!
凄まじい音を立てて黒炎を燃え上がらせた黒鬼丸の刀に、銀夜が押される。
「殺してやろう、椛の目の前で。忌々しい山犬め」
「銀夜……!!」
このままでは銀夜が負けてしまう――!
そう思い、身体に力を入れたとき。
私の勾玉から放たれた一層強い光が、銀夜の刀身を覆っていった。




