↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/41

36.鬼、襲来

 翌日、私の力が完全に覚醒し、銀夜も大きな力を得たであろうことを玲生さんたちに報告した。


「きっと今の私たちなら、黒鬼丸を封印できると思う」

「では、どのように黒鬼丸を封印するか、作戦を立てよう。奴の力がどれほど戻っているかはわからない」


 それを聞いた玲生さんは冷静に言葉を紡ぐ。

 愛琉と宗ちゃんは恐怖を隠せずにいるけれど、私と銀夜で黒鬼丸がいる住処を攻めるのが、みんなを危険な目に遭わせない方法だろう。


「油断はできないぞ」

「はい」


 玲生さんの真剣な声色にごくりと息を呑み、そのとき(・・・・)が近いことを覚悟した私たちだったけど――。



「!」


 突然、銀夜がなにかを感じ取ったように大きく反応して、立ち上がった。


「……銀夜? どうしたの?」

「まずいぞ」

「銀夜、どこに行くの――」


 走り出した銀夜を追って、玲生さんとともに私も裏口から外へ出る。


 屋敷裏のもみじの木の場所で足を止めた銀夜の前にいたのは、あの男――黒鬼丸だった。


「迎えに来たぞ、椛」

「……!」


 余裕に笑みを浮かべている男を前に、ひやりと冷たい汗が背中を伝う。


 以前と、あきらかに何かが違う。

 黒いオーラのような妖力が鬼の周りに見える気がする。


 対峙して、私にもわかった。

 銀夜は最初からわかっていたようだけど、黒鬼丸も力を取り戻し、覚醒したのだと――。


「やっとおまえをこの手にできるときがきた」

「……私は、あなたのもとには行かない」

「ふふ……はは、ははははは――!」


 女郎蜘蛛(仲間)をやられて、怒っていると思ったのに。


 彼は高らかに笑った。


「何がおかしいの? 私はあなたの仲間を祓ったのよ。あなたのことだって……!」

「あいつはそんなに使える奴ではなかったが、最後に俺の力を覚醒させる手助けだけはしてくれた」

「え……?」


 覚醒する手助け?

 あのとき黒鬼丸の姿はなかったし、そんな心当たりはない。

 けれど顔をしかめる私を見て、黒鬼丸はにやりと口角を上げた。


「おまえの力が覚醒したのを感じて動いてみたら、いいものを見つけた」

「……いいもの?」

「あいつの簪だ。おまえの血が付着していた」

「……!」


 まさか、その血を摂取して……!?


「少量でもものすごい力がみなぎってきたぞ、椛。おまえを喰らったらどれほどの力が手に入るのだろうな」

「……」

「だが安心しろ。俺はおまえを喰わない。俺はただ、おまえが欲しいのだから」


 ゾクリと寒気がする。

 この男は前世(昔)からそうだった。

 自分勝手で、強欲で。


「三百年以上経っているというのに、あなたは見た目も中身も全然変わっていないのね」

「椛……おまえも力に目覚めたのだろう? 俺のことを思い出したか?」

「……そうよ」

「そうか、思い出したか!!」


 黒鬼丸は歓喜に目を見開き、じり、と一歩こちらに歩み寄る。


 けれど私のすぐ前には銀夜がいて、黒鬼丸から私を守るように立ちはだかっている。


「俺はおまえのことがずっと好きだった……今もその気持ちは変わっていない。こうしてまた会えたのも運命だ。今度こそ俺のものになれ」


 まっすぐに私だけを見て、三百年以上前と同じようなことを口にする黒鬼丸。

 けれどその告白にはまったくときめかない。


〝彼のことが好きじゃない〟

 理由はそれだけではない。


 この男は今も昔も自分のことだけを考えているのだ。


 私のことが好きだというのも、私が姫巫女だからだ。

 黒鬼丸は私のことを愛してなどいない。

 単に私の力が欲しいだけ。


 ただ、彼は姫巫女(私)に異常なほど執着している。


「さぁ椛、俺と一緒に――」

「嫌!! 私は銀夜のことが好き。だからあなたのような男(ひと)のものにはならない!」


 いつまでもわかってくれない黒鬼丸に、はっきりと言い切った。

 怖いけど、その黄色く光る瞳をまっすぐに見つめて、はっきりと。


「銀夜……? ああ、この犬ころか」

「そうよ。私はいつの時代もあなたのものにはならない!!」

「……目障りな犬ころが、また俺の邪魔をするのか」


 今度は銀夜に鋭い視線を向けた黒鬼丸は、ギリ、と奥歯を噛んだ。

 尖った歯が露になる。


「聞いただろう。いい加減諦めろ」

「貴様のような子犬になにがわかる」

「わかっていないのはおまえだ、黒鬼丸。おまえには大切な存在がいない。だからわからないんだ」

「……」


 けれど、次の銀夜の言葉を聞いて、黒鬼丸は顔をしかめた。


「……ああ、そうか。貴様はあの男の生まれ代わりか」

「そうだ」


 ようやくそのことに気がついた黒鬼丸は、もう一度にやりと口角を上げると、高らかに笑った。


「くくく……ふは、はーっはっはっは――ッ、そうか……ぎん。今度こそ貴様をこの手で葬れるのか」


 じり、と一歩ずつ近づいてくる黒鬼丸に、私の膝は震えそうになるけれど、深く息を吐いて呼吸を整えると、強い気持ちで前を向いた。


「あなたは私たちが封印する」

「できるものなら、やってみろ」


 黄色の瞳をぎらりと光らせ小さく笑うと、黒鬼丸が素早く動いた。


「……っ!」

「遅いな」


 咄嗟に銀夜は刀を抜いて構えたけれど、黒鬼丸も目にも留まらぬ速さで刀を抜いていた。


「銀夜……!」


 黒鬼丸の力強い一撃に、銀夜の身体が押される。


 鬼はあやかしの中で最強種。


 姫巫女の力を以てしても、女郎蜘蛛のときのように朽ちさせることはできない。

 だから弱らせて封印するしか、術はない。


「おまえに椛をやってたまるか!!」

「貴様には椛がいなければなにもできまい。俺よりも弱いのだから、邪魔をするな、ぎん……ッ!!」


 黒鬼丸から放たれた黒い炎が、銀夜の身体を吹き飛ばす。


「ぐっ――!」

「銀夜……!!」

「さぁ椛、邪魔者はいなくなったぞ」

「……!!」

「させるか――!」


 私に手を伸ばした黒鬼丸だけど、油断したその一瞬の隙を逃さず、〝妖狐〟の姿を見せた玲生さんが、黒鬼丸に向けて黄色い炎を放った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。