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第3話【魔王城の怪盗】


夜更けの幻想警察本部。


静まり返った執務室に、一羽の黒いコウモリが飛び込んできた。



コウモリは机の上へ降り立つと、一通の黒い封筒を落とした。



バルトが眉をひそめる。


「……魔王城の紋章だ。」


向かいに座っていたゼインは封を切り、静かに読み始めた。



«至急、魔王城へ来られたし。


世界征服より優先する事件が起きている。


           魔王»



バルトは苦笑した。


「世界征服より大事な事件って何だよ。」



ゼインはコートを羽織る。


「依頼があるなら行くだけだ。」


二人は夜の魔王城へ向かった。


---


巨大な門が開く。


ギギギ……


待っていたのは、黒いマントを羽織った魔王だった。


意外にも、その表情は深刻だった。


「よく来てくれた。」


「事件とは?」


ゼインが尋ねる。


魔王は重々しく答えた。


「毎晩……私の部屋から宝物が消える。」


「盗難事件ですね。」


「しかも犯人は誰にも見つからん。」


「結界は?」


「破られていない。」


「鍵は?」


「閉まったままだ。」


ゼインとバルトは顔を見合わせた。


「内部犯か。」


---


聞き込みが始まった。


ドラゴン執事は胸を張る。



「私は一晩中、門番をしております。」


オーク料理長は首を振る。



「厨房から一歩も出ません。」


ゴブリン掃除係は震えながら言う。


「夜は怖くて寝ています。」


吸血鬼秘書は優雅に紅茶を飲みながら笑った。


「私なら盗むより買いますわ。」


誰にも動機がない。


証拠もない。


それでも毎晩、何かが消えている。



---




「張り込みをする。」


ゼインが小さくつぶやいた。


その夜。


二人は魔王の寝室のカーテンの裏に隠れた。


時計が真夜中を告げる。


ゴーン……


ゴーン……


その時だった。




ギィ……


寝室の扉が静かに開く。


黒い影が入ってくる。


音も立てず、宝箱を開ける。


金貨を袋へ。


宝石を一つ。


王冠を抱える。


「犯人だ!」


バルトが飛び出す。


ゼインも続いた。


「動くな!」


影は驚き、ゆっくり振り返る。




フードが外れた。


「……え?」


二人は固まった。




そこに立っていたのは、


魔王本人だった。



「魔王様!?」


しかし様子がおかしい。


目は閉じたまま。


ふらふら歩いている。


ゼインは静かに言った。


「寝ている……。」


夢遊病だった。




魔王は眠ったまま廊下を歩き、隣の部屋へ入る。


そして宝物を棚へきれいに並べ始めた。


「金貨はこちら。」


「宝石はこちら。」


「王冠はこちら。」


最後に、小さなぬいぐるみを棚の真ん中へ置く。


ぴったり向きをそろえると、満足そうにうなずいた。


そのまま部屋を出て行く。


バルトが口を開けたままつぶやく。


「……几帳面なんだな。」


---


翌朝。


魔王は玉座で頭を抱えていた。




「また盗まれた……。」


ゼインは静かに言う。


「盗まれていません。」


「え?」


「こちらへ。」


案内された部屋を見た魔王は目を丸くした。



なくなった宝物が、すべてきれいに並んでいる。


しかも札まで付いていた。



『金貨』


『王冠』


『宝石』


『お気に入りのぬいぐるみ』



魔王は青ざめた。


「……これ。」


「全部、あなたが運んでいました。」


「私が?」



「夢遊病です。」



魔王はしばらく黙っていた。


やがて、ぬいぐるみをそっと抱き上げる。


バルトが尋ねた。



「そのぬいぐるみ、大事なんですか?」


魔王は少し照れながら、小さくうなずいた。


「……ないと眠れない。」


玉座の間が静まり返る。


怖いはずの魔王が、ふわふわのぬいぐるみを抱きしめている。


ゼインは口元を少しだけ緩めた。


「事件は解決です。」


魔王は耳まで真っ赤になった。


両手を合わせ、深く頭を下げる。


「皆に迷惑をかけた……。」


「ごめん。」



一瞬の静寂


次の瞬間。


「ぶっ!」


最初に吹き出したのはバルトだった。


続いてドラゴン執事。


オーク料理長。


吸血鬼秘書。


バルトは涙をぬぐいながら言う。



「魔王様。」


「なんだ?」


「世界征服より先に、寝ぼけるのを征服してください。」



魔王城には大きな笑い声が響いた。


その日以来、魔王の寝室の扉には、新しい札が掛けられた。


『就寝前 ぬいぐるみ確認!』


それ以来、宝物が消えることは二度となかった。

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