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第4話【名探偵現る】


王都の中央通りに店を構える「金の仔馬亭」



その穏やかな朝の空気を切り裂くように、宿屋の主人が王都警察本部へと駆け込んできた。



「大変です! 恐ろしい事件が……!」


報告を受けたゼインとバルトは顔を見合わせた。


「落ち着け。金貨か? それとも宝石が狙われたか?」

主人は青ざめた顔で首を横に振る。



「もっと……もっと取り返しのつかないものです」


ゼインの目が鋭く細められた。


「言ってみろ」


「宿泊客の……朝ごはんのプリンが消えました!」


「……」


バルトは深く頭を抱えた。

「またプリンか。平和な街だぜ」



しかし、ゼインはコートを羽織り、冷徹な声で告げる。

「被害者が事件だと言うなら、それは事件だ。行くぞ」


宿屋の厨房。


円卓の上には、空っぽの皿と銀色のスプーン。



そして床には、黄色いカラメルソースが一滴だけ、血痕のように残されていた。


ゼインはゆっくりとしゃがみ込み、その一滴を見つめる。


「……甘く、残酷な痕跡だ。犯人は確実にプリンを腹に収めている」


「見りゃ分かるだろ」


バルトが呆れ顔で突っ込む。



容疑者は四人。旅の戦士、魔法使い、商人、そして怪しげな白いローブの男。


全員が犯行を否認し、捜査は難航するかに思われた。

その時だった。


カラン――。


静寂を破り、厨房の扉が開く。



赤いロングコートに身を包み、銀色の杖を優雅に響かせながら、一人の美青年が足を踏み入れた。



「この難事件……私が解決へと導きましょう」



男は芝居がかった手つきで帽子を取る。


「名探偵、ジュリアスと申します」



ゼインが眉をひそめた。


「探偵だと?」


「いかにも」


クロードは現場を一瞥し、空の皿を見てニヤリと笑った。


「……なるほど。すでに犯人は、この中にいます」

「当たり前だ!」



バルトが吠える。しかしジュリアスは動じず、杖の先を白ローブの男へと突きつけた。



「犯人は、あなたですね」


「なっ……!?」


「私の『直感』がそう告げているのです」


「根拠ゼロかよ!」



バルトのツッコミをよそに、白ローブの男は顔面を蒼白にし、その場に崩れ落ちた。



「ああっ……すまない! 魔が差したんだ! だって、あれが最後の一個だったから……!」


あっけない自白。


ゼインが手錠を取り出そうとした、まさにその瞬間だった。


「あ、あの……!」


宿屋の主人が、真っ青な顔で厨房の奥から飛び出してきた。



「たった今気づいたんですが……本当に消えて困っているのは、そっちのプリンじゃないんです!」



主人が指差したのは、厳重に閉ざされた冷蔵箱だった。

「明日のパーティー用の『特製プリン』が、三個すべて消えています……!」



沈黙が落ちる。


白ローブの男が食べたのは、ただの朝食用。



真の事件――連続特製プリン盗難事件の犯人は、まだこの中に潜んでいるのだ。



ジュリアスがゆっくりと前に出る。


「……なるほど。今度こそ、私の頭脳が試される時というわけ――」


ぷるぷる……。



背後で、小さな音が鳴った。


全員が振り返る。


棚の陰から現れたのは、小さな青いスライム。


その半透明な体の中には――特製プリンの空カップが、きれいに三個、浮かんでいた。


スライムは満足げに跳ねる。


ぴょん。ぴょん。


「……」


ジュリアスが固まる。


ゼインも固まる。


バルトが静かにつぶやいた。


「……名探偵さん。直感、外れましたね」


「こ、今回は……犯人があまりにも小さすぎたので

す!」


ジュリアスが顔を赤くして咳払いをした。


「待て!」


逃げようとしたスライムを、ゼインが素早く捕獲する。

「反省しているのか?」


冷徹な刑事の尋問に対し、スライムは床に体を伸ばし、器用に文字を書いた。


『プリン、おいしかった。』


これにはバルトもたまらず吹き出した。


「自供が素直すぎるだろ!」


ジュリアスも肩の力を抜き、ふっと微笑む。


「……なるほど。この事件の最大の謎は、なぜ三個も必要だったのか、ということでしたが」


スライムは胸を張るように、ぷるんと揺れ、再び文字を書いた。


『おやつ。』


その場にいた全員が、一斉に笑い声を上げた。


主人も笑い、犯人のスライムも嬉しそうに跳ねた。


こうして「金の仔馬亭・特製プリン三個消失事件」は、平和裏に幕を閉じた。


帰り道。

夕暮れの街を歩きながら、バルトがジュリアスに尋ねる。

「なあ探偵。これからも俺たちに付き合う気か?」


「もちろんです。難事件あるところに、名探偵あり、ですから」


ゼインが横目でジュリアスを見た。


「次はもう少し、血の匂いがする事件を頼む」


「ええ、私の直感に狂いはありませんよ」


そう言って胸を張るジュリアスに、バルトが豪快に笑った。


――その頃、宿屋の厨房では。


主人が壁に新しい張り紙を貼っていた。


『プリンは一人一個まで。スライムも含む』


張り紙の前で、小さなスライムが悲しそうに「ぷる……」と揺れている。


それを見た主人は苦笑し、そっと頭を撫でた。

「……明日は、特別に二個までにしてやるよ」

スライムは、ぴょん! と、今日一番高く跳ねた。

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