#42『投手とハサミは使いよう』
「──それでは次に、投手陣について話を移しましょう」
そうして、野手メンバーに関する起用方針の話題が一段落し、今度はピッチャーのことへ話題が移っていく。
「現在、ブレイブハーツの投手成績は、79イニングを投げ、全体の防御率は3.83。先発陣とリリーフ陣に分けた場合、先発防御率が3.62、リリーフ防御率が4.26となっております」
そう、話題を切り出した城嶋のそんな言葉と共に、会議室のスクリーンにチームの各種投手成績が映し出された。
「……なるほど。こうして全体の数値として見ると、やはり開幕前からの想定どおり、中継ぎ陣の方が打たれているのだな」
そうして、まず口を開いたのは、1軍打撃コーチの斎内。
彼の言うように、この下町ブレイブハーツの投手陣の弱みは、以前から中継ぎにあると言われていた。
確かに勝ちパターンこそ、一昨年・昨年あたりからなんとか整備されつつあるものの、『層の薄さ』については変わらず懸念材料の1つであるという意見はまだまだ根強いのだ。
「えぇ。……しかし、これは所詮まだ9試合消化時点の数字。抑えの二階堂が6.00となっていることからも分かるとおり、1試合での結果が成績に非常に大きな影響を与えるため、実際の彼らの実力を表した数字とはとても言い難い」
そう、現時点の成績に関する注意点を指摘する諸星英一。
彼には、昨年末からチームの編成を含め、ブレイブハーツの全体を率いてきた中で確信した、1つの持論があって。
「私はむしろ、今のブレイブハーツ中継ぎ陣は、リーグでも上位クラスのメンバーが揃っていると考えています」
……と、まず力強く主張してから彼は語り出す。
第一に、リリーフの核である、いわゆる『勝ちパターン』。
ここについては、変則サイドで打者を翻弄するベテラン左腕、7回の葛城一成。豪快なフォームから放つMAX162km/hの速球でマウンドに君臨する、8回のジョー・マルケス。そして、20代にしてすでに150Sを記録しているチームの絶対的守護神、9回の二階堂雅史と、頼れる面子が揃っている。
それでいて、その他の投手についても、世間で言われているほどの『弱さ』はないと、諸星は見ている。
MAX146km/h記録する速球派サブマリンの鈴木将悟や、150キロ後半のストレートと内角をえぐるシュートを持つ21歳左腕の鳥山章亮を筆頭に、鵜森・佐藤・須賀など、一線級とまでは言えないものの、リリーフ経験豊富な面子が揃っている。
加えて、昨季8勝の『便利屋』丸井航太や、伊球界で無双していたのを発掘したイタリア人左腕ベルナルド・ソレンティーノなど、先発経験もあるロングリリーフ要員も控えているのだ。
──そして、そんなブレイブハーツ中継ぎ陣の強さを、最後に補強することになると諸星が考えているのが。
「…… 生駒。彼をリリーフに回すことで、これまで懸念されてきた『層の薄さ』も克服できるでしょう」
──生駒陽介。
3年前にドラフト1位指名で下町ブレイブハーツに入団した大卒投手。2年目となる昨季は、怪我もあったものの先発ローテーを守り、防御率4.24の6勝7敗という成績であった。
今季は、平林が開幕に出遅れたこともあり3戦目に先発を任されたものの、強力東京山手スターズ打線に捕まり、4回5失点と打ち込まれてチーム初敗戦を喫していた。
その結果、ローテーション2周目となる横浜シャインズ3連戦では、その平林が復帰したため先発を回避。
現在は、諸星監督直々の打診によって、ブルペン転向の準備が進められていたのであった。
「……彼の持っているモノは素晴らしい。球速・変化・コントロール、そのどれもレベルは高く、今後、エース級の投手として活躍できるポテンシャルを間違いなく持っている」
ただし、そんな判断を下した諸星も、決して生駒のことを評価していない訳ではない。むしろ、そう熱心に語るように、彼の持つ可能性を高く評価していた。
「しかし現状、とくに今季はそれを活かしきれていない。これは、彼が昨シーズンの怪我以降、自信を持って投げ切ることができていないことが原因の1つにあると考えています」
そう言い切って、諸星は思い返す。
1年目、シーズン途中から先発を任され、規定未達ながら先発8勝を挙げ、新人特別賞も獲得した生駒。
そんな彼は、2年目の6月に右肘の違和感で離脱。
そして、その復帰登板で2回途中6失点の炎上を経験する。
その後も、なかなか上手くいかないピッチングが続き、気がつけば彼の投球は、これまでのような、相手の主砲にも臆することなく投げ込む『強気』の姿勢から、なんとか相手を躱そうとする『逃げ』の姿勢へと向かっていた。
その結果、彼の大きな武器である強いボールが投げ込めず、ときおり見せてしまう力のない失投を痛打されるという、最近のピッチングを生んでいる……と諸星は見ているのだった。
「故に彼には、少なくともシーズン序盤の間は、一度リリーフとして経験を積んでもらいたいと考えています。短いイニングを高出力でいかせて、再びそのピッチングスタイルを思い出させると共に、彼に『自分はこんなピッチングができるんだ』……という自信をつけさせたいのです」
そうして、諸星はそう自身の下した判断の論拠を告げる。
彼の言葉に、周囲の者達は「なるほど」と声を漏らし。
「実は、これは先日、津本投手コーチからあった指摘などを踏まえ、彼や生駒本人とも話し合って決めた配置転換です。……このように、選手の起用方法だけでなく、現状の選手の課題や懸念点などに気づいている方がいれば、ぜひ共有していただきたい。……きっとそれはその選手の今後を、そしてチームをより良くする意見となり得るはずです」
そんな諸星監督の求めに基づき、再び彼らの議論が始まる。
これまでと同じく、リリーフ陣について。
そして、今度は打って変わって、チームの先発陣について。
はたまた、特定の選手の、不調の要因などについて。
そんな様々なことについて、遠慮のない率直な意見をぶつけ合っていれば、いずれ彼らの話し合う話題も尽きていき。
──そうして。
彼らの今回のミーティングは、終わりを告げたのであった。
【生駒陽介(24) 選手名鑑】
《2年目》
昨季、ルーキーながらチーム内同率2位となる8勝を挙げ、新人特別賞も授与された明教大学出身のドラ1本格派右腕。
2年目となる今季は開幕からローテーションを任されるも、6月に右肘の違和感で離脱。復帰後は再び先発に定着するも調子は上がらず、結果的には昨季を下回る6勝に終わった。
しかし、奪三振率は昨季のそれを上回る8.79を記録するなど、高いポテンシャルは顕在。来季は諸星監督新体制のもと、飛躍の1年とすることができるか。
[成績]右/右(先発)
15登板 85回 4.24 6勝 7敗 0H 0S 0完投 0完封 自責40
83奪三振 与四球29 与死球4 被安打83 被本塁打12 362打者
K/9 8.79 BB/9 2.75 HR/9 1.27 K/BB 2.86 FIP 4.01
被打率.252(330-83) BABIP.302(235-71) WHIP 1.32




