#41『出てない選手の使い方』
「──それでは、まず野手陣についてです」
そう、司会役の城嶋ヘッドが議題を提示しつつ、チームの野手成績をスクリーンに表示させる。
チーム全体の成績としては、開幕9試合で打率.250 11本 42得点。出塁率.328の長打率.401で、OPS.730。
リーグ全体としては、現在の順位表と同じく、東京山手スターズと横浜シャインズに次ぐ全体3位の数字となっていた。
「こちらについては、今のところ順調な水準といったところですね。……その中で注目すべきなのは、やはりBB%でしょうか。短い期間の数値とはいえ、全体で9%を上回っており、昨年のチーム水準と比べるとかなり上昇しています」
そう言って、彼は画面の資料をエンターで切り替える。
そこに映ったのは、チーム主要メンバーそれぞれの四球率。
その資料によれば、諸星・人見・曹の3人が合計18個と四球数が多く、出塁率.415と非常に高水準となっている。
このような1〜3番という上位打線の優れた出塁能力が、チーム得点数の向上に寄与している、と城嶋は分析していた。
「──しかし、先のシャインズ戦。その2戦目以降では、点がとれない場面が目立ったように思える。その大きな要因として、日下を筆頭にした下位打線の不振があるだろう」
と、シャインズ戦を振り返ったのは、打撃コーチの斎内。
通算250本塁打を記録している元名選手で、古巣福岡アイビスからの引退勧告を断り、黎明期の下町ブレイブハーツに移籍。現在では、3年前から1軍の打撃コーチを務めている。
そんな、チームのコーチ陣の中でも古参と言える彼の指摘に、諸星は小さくゆっくりと頷いて。
「──えぇ、それは私としても同意です。……そのため、明日からの広島シャークス3連戦では、スタメンメンバーを色々と動かそうと考えています」
そんな諸星監督の言葉に、周囲の者らはおおと声を上げる。
というのも、諸星がここまでの9試合でスタメンに起用した選手の数はたったの10名。当初考えられていたチームのベストメンバー以外で起用された者は、開幕戦。先発する人見の代役としてセカンドで起用された高崎だけである。
そんな彼が、スタメンを変えるという判断を下したのだ。このことを知れば、彼らの反応にも納得ができるだろう。
「なるほど、それは興味深い。ちなみに諸星監督は、どのような『動かし方』を考えているのでしょうか」
そう、斎内打撃コーチに問いかけられた諸星は。
「……個人的には、外野で何人か試してみたい選手がいます。具体的に言うと、レフトに笹沼。センターには夜賢濬あたりが面白いんじゃないかと」
と、少しニヤリとした笑顔で答える。
確かに今季の外野陣は、ライトのプライスJr.はシャインズ戦で目覚めたものの、レフトの日下が打率.176・OPS.471、センターの村越が打率.226・OPS.508となかなか苦しんでいる。
先ほど斎内が提起した下位打線の問題についても、彼らと、指名打者の長谷(打率.217・OPS.671)の打撃低調ぶりが、その大きな要因となっているのだ。
そんな中での、諸星のこの提案。
レフトには、初年度からチームを支えるベテランの笹沼。ここまで代打での出場のみで無安打も、昨日といい内容は悪くないため、スタメンでの起用を望むファンの声も多い。
センターには、韓国人ながら日本の高校出身の夜賢濬。ドラフト1位指名の高卒5年目で、確実性には欠けるものの、身体能力はリーグでも指折りの高さを誇る。昨季は2軍で本塁打王も獲っている、ロマン溢れるプロスペクトだ。
「……そうですね。現状の起用から変えるとすれば、やはり下位打線の部分なのは間違いない。夜のセンター守備は村越にも引けを取らない魅力があるし、明日の相手先発は右の芹野なだけに、笹沼の先発起用も考えやすいですね」
そんな諸星の起用方針に、城嶋ヘッドも同意を示す。
「えぇ。……勿論、前にも行ったとおり、日下にはチームの主砲となりえる大きな魅力があります。ですが、現状はまだ大卒2年目と若く、荒い部分が多い。実際、こうして開幕を迎えてフォームの崩れが目立ってきている。明日から一度スタメンから外すことで、打撃指導をしたいと考えています」
「おお、それは素晴らしい。あの諸星英一から打撃指導を賜われるのであれば、彼の調子も上向くことでしょう」
「……勿論、あなたも指導するんですよ。斎内さん?」
と、まるで他人事のようにうんうん頷いて語る打撃コーチに、思わず冷ややかな視線を送る諸星なのだった。
「──そのほかに、野手起用方法の提案はないでしょうか?」
そして、一度間が空いて。
諸星監督がそんな問いかけを皆に投げかける。
それを受け、ブレイブハーツのコーチ陣は顔を見合わせて。
「……でしたら、私から1つだけ提案を」
その中の1人。周囲の者の中で一番年配の男が挙手をする。
彼は、2軍監督の渡瀬薫。
現役時代は守備の名手として活躍。これまで複数のチームでの監督経験があり、この下町ブレイブハーツでも初代監督として手腕を振るった過去のある、歴史に名を残す名将の1人だ。
昨季からは、チームのオーナーである山中会長から直々に若手の育成を依頼をされ、チームの二軍監督を務めている。
そんな彼は、少し時間を置いて、周りの視線を集めてから。
「昨年の1年間。そして今年のここまで、下で選手のプレーを見てきた者として言いたいのは、やはり新垣には昇格させ、打席を与えるべき価値がある……ということです」
……と、自らの意見を申し出るのだった。
──新垣祐樹。
昨年、ドラフト2位でブレイブハーツへ入団した高卒野手で、高校通算61発のパンチ力が持ち味。
昨季は1年目から2軍で16本塁打を放つ好成績を残し、シーズン終盤には1軍に昇格。通算5打席目でプロ初ヒット・初本塁打を放っている、将来が期待される19歳の若手だ。
今季はオープン戦で結果を残せず2軍スタートも、すでに下で2本塁打を放つなど、昇格へ猛アピールをしている。
「本職であるサードの守備はまだまだ課題が多いのが現状ですが、代打は勿論、長谷の代わりにDHで使うこともできますし、レフトで起用するという選択肢もあります」
そう言い切って、彼は諸星監督の顔を伺う。
そんな彼の目を見て、諸星はこほんと軽く咳をして。
「──ふむ、あの渡瀬さんにそこまで言わしめるとは。しかし、チームの編成上、全ての希望に沿うことはできない……とでも言いたいところではあるんですが」
そう少しおちゃらけたように言って、諸星は言葉を続ける。
「……実は昨日、上の代打枠である猪上が試合前の練習後にコンディション不良を訴えていまして。よって、今日は2軍監督・コーチ陣に、代わりに昇格できる人材がいないか、ちょうど確認をしようと思っていたところだったんです」
「……ということは、つまり」
「えぇ、新垣を上げましょう。私としても、彼の打撃センスはキャンプの頃から買ってましてね。シーズン序盤は下で経験を積む時間だと考えていましたが、こうして試すチャンスが来たのならば、それを活かすまでです」
そう言って、諸星は軽く笑みを浮かべる。
──そうして。
彼らのミーティングは、まだまだ続いていくのであった。
【夜賢濬(22) 選手名鑑】
《4年目》
九州の名門、福岡学院高校出身の高卒外野手。
昨季は主に守備・代走要員として1軍に帯同し、打撃面でも自己最多の6本塁打を放つ活躍を見せたが、今季は開幕から左肋骨の骨挫傷のため離脱。復帰後の8月には一度昇格を果たし、シーズン初打席で特大弾を放ってみせたものの、29打席で11三振。安打はわずかに4本と確実性を欠いた。
しかし、2軍では本塁打王と盗塁王の二冠を獲得するなど、持ち前の身体能力の高さを存分に発揮。守備面でも、高校時代に守っていた三塁に挑戦し、さらなる飛躍を図った。
因みにその名が示すように、彼は首都ソウル生まれの韓国人。両親の仕事の都合で中学時代に日本に渡ってきており、今では日本語もペラペラなのだとか。
[成績] 右/右 (中右)
.154(*26-*4) *2本 *5打点 *3盗塁 *1盗塁死 OPS.611
*22試合 二塁打*0 三塁打0 四球*2 死球1 三振11 犠飛0
出塁率.241(*29-*7) 長打率.370(*27-10)
BB% 6.90% K% 37.93% SB% 75.00%
IsoD.087 IsoP.185 BB/K 0.18 *0犠打 (*29打席)




