#39『この28回目の誕生日にサプライズを!』
「──それでは。人見蒼矢の誕生日を祝って、乾杯ッッ!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
立ち上がった廣中による力強く号令に、皆が持っていたグラスを高く掲げて応える。
そこには、人見の高校時代の同期などが勢揃い。
そうなると、公立高校ゆえにあまり部員数は多くはなかったとはいえ、かなりの人数となる訳で。
彼の家のLDKはそれなりに広く、パーティ用に菜月が(人見には殺虫剤を焚いてると称して)事前に片付けも行っていたのだが、それでも部屋は所狭しといった様相であった。
ちなみに、アルコールはなし。
まだお昼前だからというのもあるが、人見たちプロ野球選手組には、明日は当然試合が待っているのだ。
しかも、ブレイブハーツは明日から広島遠征のため、本日中には東京を出発する必要もある。ゆえに、あまりハメを外す訳にはいかないのであった。
「──いやぁ、どうだ蒼矢!! いわゆるサプライズってやつだ、驚いただろ!!」
そして、そんな開幕の挨拶の終了とともに、人見のところへやってきて肩を叩いてくるのは、篠原大悟。
墨田区北部の大地主の息子で、現在は野球を中心としたスポーツ用品店を経営しており、プロ野球選手のグローブの型付けなどにも関わっているという、人見の古い友人の1人だ。
そんな彼は、当時は内外野を守るユーティリティで、マウンドに上がった者の代わりに空いたポジションを埋めてくれる頼れる存在であり、チームを鼓舞するムードメーカーであった。
「……ん、まぁ……うん。驚いたよ」
「なんだよその反応!? え、もしかしてバレてた!? マジかー、計画は完璧だと思ってたんだけどなー!!」
そう言って、彼はオーバーリアクションでおどける。
そんな彼に対し、人見は頰を掻きながら。
「いや、なんつーか……俺、今日が自分の誕生日だなんて、すっかり忘れてたからさ」
「………………まじ?」
そんな人見の率直な返答に、目の前にいた篠原は勿論、周囲の人々は目を点にして固まる。
「いやだってさ、年齢なんて大人になったら増えたところで意味のない、ただの数字でしかないだろ? いや、むしろ死へのカウントダウンというマイナス要素だというべきか」
「おいなんだこのクソつまんねー人間は!! ……てかお前、自分の誕生日はともかく、まさか菜月ちゃんの誕生日も祝ってなかったなんて言わねーだろーな!?」
「あ、えー。そ、それは……」
「──まぁ、そーくんが自発的に祝ってくれたことは殆どないよねぇ。一昨年なんか、誕生日から1週間すぎてから急に『忘れてた!』……って言って、現金ハダカで渡してきたし」
「「「お、オマエーーッッッ!!!!!」」」
「……ぐぼはっ!!?」
そんな菜月のぶっちゃけちゃった発言によって、人見は周りの男どもにどつかれる。
当時の野球部マネージャーなどを中心とした女性陣も、彼にドン引きの冷ややかな目線を送っていた。
「いや確かにさ、プロ野球選手って色々めっちゃ大変なんだろうけどさ!! そこはちゃんとしろよ!!! ……そうだな。ユースケ、お前はそこらへんどうなんだ?」
「……まぁ俺もそういうのは面倒だしあっちも忙しいから、単純に事前に欲しいモン聞いてそれ渡してるだけだな」
そうして、いきなり問いかけられた廣中が端的に答える。
なぜ彼に話が振られたのかといえば、単純明快。彼もまた、プロ野球選手であり、そして、パートナーを持つからだ。
彼の妻は、女子ソフトボール選手の『桃瀬なのは』である。
共通の友人をきっかけに知り合い、22の頃にはすでに交際していたようで、すでに籍を入れてからも2年が経っている。
「いや、それはちゃんとしてるよ。むしろ下手なサプライズやるよりかはよっぽど確実だし、いいやり方だと思うぞ」
「それを今回のサプライズで一番ノリノリだった奴がいうか」
「それはそれ、これはこれってヤツよ。……とにかくなぁ、蒼矢!! あの昔は色々とズボラだった廣中でさえ、奥さんにはしっかり義理立ててんだ。お前もいい加減グダグダやってねーで、ちゃんと責任ってヤツについて────」
「──あ、大丈夫。それはもうしてくれたよ」
……と、そこで菜月が話を遮って、自身の左手を掲げる。
その薬指には、キラキラと光る指輪があって。
「「「──えっ、結婚したの!!?」」」
「うん。……といっても、去年の11月ごろだったかな。それに、まだ式は挙げてないんだけど。今年はそーくんに新チームでの野球に集中してほしかったから」
そう声を揃えて驚愕の表情を浮かべる一同に、菜月がいつも通りののほほんとした笑顔で答える。
そして、会場は「おめでとう!!」という優しい言葉に溢れ、一転して和やかなムードへと変わっ────。
「「「…………いや遅いわ!!!」」」
……たかと思えば、すぐにそんな皆の叫びが響き渡った。
そして人見が再び、周りの野郎どもにどつかれる。
「……ぶこッッッ!!! くそっ、何なんだよ!! お前らなんでもすぐにどついてくるじゃん!!」
「うるせー!! 高校の頃から菜月ちゃんとずっとイチャイチャしてたくせに、ずっとグタグタやってんのが悪ぃんだ!!」
「おめでとうって気持ちと同時に、むしろ『まだしてなかったのかよ』ってのが同等レベルで湧いてくんだよチクショー!」
「こっちはなぁ、今ごろ人見ジュニアの活躍が見られるんだろなーとか当時は思ってたんだぞ!!」
「いや、それは年齢的におかしいだろ……ッッ!!!」
そうして、再び周囲の奴らに詰められる人見。
……まぁ、これまでハッキリしなかった自分に非があるのは大いに自覚アリなので、あまり言い返せないのだった!
「──えっ、なつきなつき。プロポーズってどんな感じたったの? それは流石にアイツがしてくれたんでしょ?」
一方、先ほどまで「もう高校生!? あんなにちっちゃかったのに大きくなったねー!!」……などと真彩を可愛がっていた女子マネージャー組は、今度は菜月を質問攻めにしていて。
「それはー、まぁ去年そーくんと一緒にこっち戻ったときに、ここの最上階の夜景が見えるところで指輪渡してくれて〜」
そんな彼女の答えに、「キャー!!」……と皆沸き上がる。
そんな問答が何度も行われているようで……。
(くそっ、俺の誕生日を口実に唐突に同窓会モドキが始まったかと思えば、祝われるどころか晒し者じゃねーかよ!!?)
そんな光景を目の当たりにしながら、人見は心の中で叫ぶ。
……まぁ、それでも。
そうは思いつつも、久しぶりに揃った仲間たちとの団欒に、彼は懐かしさと心地良さを感じているのであった────。
「──そんで澄川、お前はなに1人で黙々と飯食ってんだ。もしかして、この会を大食い大会か何かと勘違いしてんのか?」
「……なんだ、廣中くんか。……だって、僕は人見くんのあの話題については知ってたしさ。口を挟む理由もないかなって」
「あぁ、澄川さんとは今年もオープン戦だったりで顔合わせてますもんね。そのとき聞いてたんですか?」
「そういうこと。それに、こうして食事をすることはアスリートにとっては重要なトレーニングだろう? つまり、僕はこんなときでも自己研鑽を欠かしてないという訳だ」
「……コイツ、これで意外と走って守れるタイプなの、本当に謎すぎるな……」
一方、そんな人見と菜月の結婚に関する喧騒の裏で。
廣中と一輝は、かつて人見や廣中と主軸を組み、プロから育成契約で指名を受けるも入団拒否で明教大学へ進学。
その後、高校時代から高かった身長にガタイが追いつき開花。ドラフト2位でシティリーグの強豪、埼玉ジャッカルズに入団した寡黙なパワーヒッターの澄川瑛太と、そんな間の抜けた会話をしているのであった。
【澄川瑛太(27) 選手名鑑】
《5年目》
ロマンのある豪快な1発と積極的な守備でチームを鼓舞する、埼玉ジャッカルズ所属の大卒内野手。
オフに10キロ増量して挑んだ今季は、6月初旬の右脹脛肉離れなど怪我による離脱もあって、規定打席をなんとか上回るほどの出場に留まったが、それでもなんと自身初となるシーズン30発を達成。昨季規定打席に到達した選手の中での本塁打率は全体3位を誇り、バレル率といった各種指標も高水準と、リーグでもトップクラスのパワーを見せつけた。
また、チームの主砲であった荒瀬がFA移籍した関係で、これまで守っていた二塁から、元々の本職である三塁に今季は定着。その結果、三塁手として初のゴールデングラブを受賞するなど、攻守でキャリアハイといえるシーズンになった。
寡黙な、しかしその内に秘めた情熱は強い新主砲候補が、来季のチームをそのプレーで引っ張る。
[成績] 右/両 (三二一)
.226(398-*90) 31本 79打点 14盗塁 3盗塁死 OPS.809
110試合 二塁打17 三塁打1 四球32 死球13 三振118 犠飛6
出塁率.301(449-135) 長打率.508(398-202)
BB% 7.13% K% 26.3% SB% 82.4%
IsoD.065 IsoP.279 BB/K 0.27 *0犠打 (449打席)




