#36『9戦目⑦ 〜脅威の新戦力③〜』
『──いやぁ、素晴らしいプレーでしたね氷室さん!』
『はい、前進守備とはいえ一塁寄りのセカンドへの打球。三塁ランナーも良いスタートを切ってましたから、それこそ送球があと少しでもズレていたらセーフになっていた筈です』
『やはりそうですよねぇ。まさに『プロ』野球でした』
『──それと、私はピッチャーの秦野選手にも注目したいですね。最後に投げたのは……恐らく、ツーシーム。彼のカットと同じファストボール系の球種でありながら、反対方向に曲がる球です。だからこそ、ああしてインコースでバットをへし折り、内野ゴロに打ち取れた。非常に効果的なボールでしたね』
(……解説の氷室さんと言うとおり、注目すべきはあのツーシーム。あれがあるからこそ、カットがより生きる。)
そんな実況・解説の会話を聞きながら、真彩がその中継画面で流されているリプレイ映像を見つめる。
あのカットと殆ど同じ球速で、右打者にとっては胸元に食い込んでくる軌道を描くツーシーム。
あれがコースに制球されてしまえば、たとえどんな打者であろうと、そう簡単には打てないだろう。
むしろ、あのボールに初見で対応できただけ、長谷選手はよくやったとのではないか。……とさえ、彼女は思っていた。
『──さぁこれでワンナウト、ランナーは一、二塁。ネクストは7番の日下のところですが、諸星監督。ここで代打に本日スタメンを外れていた板谷を起用するようです』
『日下選手は2年目の今季、シーズン前から大きな期待を受けていたものの、ここまで全試合スタメンに起用されながら打率1割台、OPSは.471。今日も無安打2三振と不振に苦しんでいますからねぇ。監督としても、ここは苦渋の決断でしょう』
そう、実況と解説が話す中、板谷がバッターボックス。
休養のため代打での起用となった頼れるチームのキャプテンが、この重要な一打席に神経を研ぎ澄ませて。
『──あぁ外れたボール!! 板谷、冷静に高めのボール球を見逃して選びました、これでランナー満塁!!」
「「「おおおおおおおおッッッ!!!」」」
この大一番、緊迫した場面。
それでも動じることなくボール球を見切った板谷に、ブレイブハーツファンからの大きな歓声が送られる。
「……今の場面、勿論選んだ板谷選手も流石なんですけど、秦野選手の悪いところがかなり出てしまってましたね」
キャッチャーがジャンプするほど高めに抜けたボール。
そして、あやうく後ろに逸れるところであった、外の低めに外れワンバンになる指に引っ掛かったボール。
このコントロールの荒さこそが、彼の弱点。
板谷との勝負では、それがまさに露呈してしまっていた。
そして、次の打者は8番の村越……のところだが。
『──っとブレイブハーツ諸星監督、再び動きます。ここで、代打に笹沼を起用するようです!!』
サヨナラの期待が高まっていた球場が、スタジアムDJによる代打笹沼のコールによってさらに沸き立つ。
下町ブレイブハーツ創設初年度から主軸の1人としてチームを支え、これまで何度も窮地を救ってきた頼れる男、笹沼健人。
35歳を迎える今季は開幕からスタメンを外れ、ここまで代打での起用となっているものの、ファンからの信頼は変わらず厚いことが、スタジアムの様子から見てとれるのだった。
──ワンナウト、ランナー満塁。
この注目の場面。タイムを一度間をとったシャインズバッテリーがサインの交換を交わし、第一球を投じて──。
『──ストライク!! 笹沼、初球から積極的に行くも空振り!! 球種は……今のは何だったんでしょうか? かなり落ちていったように見えましたが……』
『……今のは、恐らくスプリットチェンジでしょう。キャンプでチームメイトのロング投手に教わった新球種だそうです。先ほど投げたときは完全に指に引っ掛けてしまっていたのですが、ここは初球から決めてきましたね』
「えっ、そんな球種まであるの!?」
「これは……、なかなか厄介ですね……」
初球のリプレイ映像を見ながら、真彩が呟く。
カットとツーシームの投げ分けに加えて、球速差もある落ち球まであのレベルで投げてくるとなると、打者としてはかなり的を絞りにくくなるのは間違いない。
コントロール力が低いというのが救いだが、それでも初見で攻略するのはなかなかハードルの高いピッチャーであろう。
──しかし、対する笹沼も。
それだけで、そう簡単に抑えられるような打者ではなく。
その後2球のボール球を挟んで、ワンツー。
気合の入った秦野から投じられた、4球目。
『──捉えたッッ!!!! 打球は二遊間!!!』
「「やった!!!」」
少し甘めに入ってきたカットボールを振り抜いたその打球音に、菜月らを含めたファンたちが一斉に立ち上がる。
彼の打ち返したライナー性の打球は、ピッチャーマウンド。秦野投手の右足のすぐ横を鋭く突き抜けていっ…………たが。
バシッッ!!!
「「っっ!!?」」
『──捕った!!! セカンドの雛田、そのまま二塁に送球して、一塁転送ッッ…………さぁ判定は────!!!!』
ショートの送球を精一杯伸びて捕球した一塁手のデュラン。
そして、気迫のヘッドで一塁に滑り込んだ笹沼。
ほぼ同時に見えたその判定は────。
『……あ、アウトだあああああああああッッッ!!!! 最後はゲッツーで試合終了!!! 両者譲らなかったこの接戦。最終的には6対5!!! 1点差をなんとか守り抜いた横浜シャインズに軍配が上がりました!!!』
そう、一塁審が力強くアウトのコール。
その判定にたまらず諸星監督が出てくるが、先ほどの本塁でのギリギリのプレーで消費してしまっていたため、チャレンジのチャンスは残っておらず。
判定への抗議ということで、試合終了後に退場宣告がなされる珍事も発生していた。
「…………いまの、すごいプレーだったね……」
「はい……。まさか、あれを取って……しかもダブルプレイにするとは。先ほどの本塁刺殺でのプレーもそうですが、この回はセカンドにしてやられましたね……」
しばらくの沈黙の末、2人は放心したまま言葉を交わす。
「……あのセカンドの雛田選手は、今年から現役ドラフトで北海道コンバッツより加入した選手なんです。以前から、守備は球界でもトップクラス級と言われてましたから、長年二遊間に悩まされている横浜シャインズにとっては、まさに補強ポイントにハマった選手だといえるでしょうね……」
「……確かに、シャインズのショート・セカンドって、固定されている印象があんまりないもんね……」
そうして、周囲の人々が引き上げていく中。
菜月と真彩は、グラウンドへと目を向ける。
そこにいるのは、下町スタジアムレフトスタンドのビジター席に向けて勝利の挨拶にする、シャインズの選手たち。
以前からのチームの顔である、村石や一条は勿論のこと。
今日の試合で素晴らしい活躍を見せた、火神や秦野、そして雛田などのチームの新戦力組もいて。
「……今年のブレイブハーツが優勝するにあたって、その壁となるのは東京山手スターズしかないと思っていましたが……」
そして、そんな彼らの姿を見ながら。
真彩は、誰に対して言ったつもりでもなく。
ただ、いまの気持ちを漏らすようにして呟いていた。
「彼らのようなピンズドの新戦力を手に入れた横浜シャインズも。この先、強大なライバルになりそうですね……」
こうして、下町ブレイブハーツ対横浜シャインズの3連戦は。
2勝1敗で、横浜シャインズの勝ち越し。シャインズは単独での首位をキープし、一方のブレイブハーツは3位に転落……という結果に終わったのであった────。
【ジャパンリーグ順位表(9戦目終了時点)】
順位 チーム名 勝数 敗数 勝率 ゲーム差
1 横浜シャインズ 7勝 2敗 .778 ──
2 東京山手スターズ 6勝 3敗 .667 1.0
3 下町ブレイブハーツ 5勝 4敗 .556 2.0
4 四国サンシトラス 5勝 4敗 .556 2.0
5 大阪パンサーズ 4勝 5敗 .444 3.0
6 広島シャークス 4勝 5敗 .333 3.0
7 新潟アルバトロス 3勝 6敗 .333 4.0
8 名古屋リザーズ 2勝 7敗 .222 5.0




