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器用貧乏のプロ野球サバイバル記  作者: あるでぃす
『3カード目 vs横浜シャインズ』編

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38/41

#35『9戦目⑥ 〜脅威の新戦力②〜』





9回表。あと1アウトで敗戦というところから、ブレイブハーツ守護神の二階堂を打ち崩し逆転に成功した横浜シャインズ。


その裏の攻防。シャインズベンチは藤咲をマウンドに送る。


シャインズ一筋。チームの抑えを長年務めている右腕であり、昨年には通算200Sも達成したベテラン投手だ。



しかし、対するブレイブハーツもただでは終わらない。


9回裏の先頭打者は、前の打席に試合を同点にするグランドスラムを放っている4番打者、プライスJr.。


際どい変化球を2球見極め、2ボールとなってからの3球目。




『──さぁ振り抜いた!! 捉えた打球はセカンドの頭を超えて右中間を真っ二つ!! 打ったプライスは一塁回ってゆうゆうと二塁へ!! ブレイブハーツ、先頭からツーベースヒット。まずは同点のチャンスを作ります!!』


球場に響くファンの歓声の中、プライスが一塁上でベンチに向けガッツポーズで盛り立てる。



そして、続く打者は5番の真壁。


最初に投じられた球は、彼がまさに張っていたストレート。

それを受けて、真壁は迷わず振り抜く。




『──さぁ真壁も打った……っと打球が()()()()()()()!!!』



真壁が打ち返した打球は、ピッチャーへ目掛けて一直線。

藤咲もなんとか避けようもするも、ノーバウンドで直撃。

そのまま、力無く倒れ込む。


転々としたボールをショートが処理するも一塁はセーフ。

二塁のプライスも、一度はライナーバックで下がったものの、ボールが転がったのを見て三塁へ進塁。



──これでノーアウト一、三塁。


すかさず諸星監督はサヨナラのランナーである一塁走者の真壁に変わって、代走のスペシャリスト速水を起用。


こうして、ブレイブハーツはいきなり、()()()()()()()()()()を迎えていた。






『──いやぁ、氷室さん。これは大変なことになってしまいました。藤咲、まだ立ち上がれていません』


『……ライナーで直撃でしたからね。当たったのは軸足の……あー、膝の辺りでしょうか。これは痛いでしょう……!』



マウンドにキャッチャーを始めるとしたナインが集まる中、藤咲は問題ないと首を振りながらようやく立ちあがるが、明らかに打球の当たった右足を庇うように体勢は崩れている。


そして、駆けつけた球団スタッフとコーチが声をかけて。




『……あー、シャインズ石浦監督出てきました。やはりここはピッチャー交代のようです』


そうして、先ほどブルペンとの電話を繋いでいた石浦監督が、ベンチから出てきて球審に選手の交代を告げる。


シャインズ守護神の藤咲、わずか3球で無念の降板。

スタッフらに支えられながら、彼は悔しさに歯噛みし、足を引き摺るようしてベンチへと下がっていく。



「……ここでいきなり交代、誰が投げるんだろう?」


「えっと、今まだ投げてないピッチャーは……?」


菜月の疑問を受けて、真彩が野球速報アプリで状況を確認する中、球場にもアナウンスが流れて。



『──横浜シャインズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー藤咲に代わりまして、()()。背番号24』



「……あれ、確かこの人もルーキーじゃなかったっけ?」


「えぇ、先ほどの火神選手と同じく、昨季のドラフト指名選手ですね。指名順位も彼に次ぐ2位だったはずです」


真彩の言葉に「やっぱりそうだよね」と反応しながら、菜月は彼の名前でネット検索を行う。



──秦野(はたの)(けい)


26歳にしてプロ入りのオールドルーキー。

高校では内野手だったが、大学で投手に転向し才能が開花。

その後、関東独立リーグのチームに入団すると、投手として着々と成長し、昨年はチームの抑えとして活躍。防御率は1点代を記録し、セーブ王にも輝いている。



「……なるほど、独立出身の選手なんだ。ちなみに真彩、どんなピッチャーなのかは知ってたりする?」


「私も、前に軽く映像を見た程度ですが……。コントロールこそ良くはないものの、MAX150後半にもなる剛腕。……そして、なによりも彼の特徴を言い表わせる言葉こそが──」



そして、そのとき。


秦野がピッチング練習を終え、本日6番指名打者での出場。長谷隆行がバッターボックス。

外野フライでも同点の緊迫した場面で、第一球が投じられ。




「──『生粋の、()()()()()()()』……ですかね」




『──ファール!!! 秦野、初球は得意のカットボールから!! ボテボテの打球が一塁方向に転がります!!」


注目の初球は、そのカットボール。

手元で曲がったその投球は、積極的に代り端を叩きにいった長谷のバットの先に当たり、彼の指をひどく痺れされる。



「えっ、今のカットなの!? ストレートだと思った!」


「……そこが、このピッチャーの大きな特徴なんです。球速はストレートとほぼ変わらない150キロ中盤ほど。投球割合も半分ほどを占めています。言うなれば、『()()()()()()』というより、『()()()()』を投げているんです』


そうして球種表示に驚く菜月に、真彩は彼の投球データを詳細に映した某データサイトの画面を見せる。


彼女が言うように、秦野が投げているのそのカットは、ストレートとほぼ遜色ない球速が出ている。

それは、『スライダーとストレートの中間』のように概ね位置付けられている、いわゆる日本式の『カットボール』というより、ファストボールに少しジャイロ回転をかけ変化させる、米国式の『Cutter(カッター)』なのだ。



「秦野選手は、どうやらこのボールを独立リーグ時代にあの杉野選手に教わったようです。そして、その投げ方こそが、彼にとっては相性抜群だった」


かつて彼らの父、諸星英一と同寺時代にアメリカの地で活躍した日米通算200勝の名投手、杉野達央。

彼が日本球界復帰後、独立リーグで選手兼任コーチを務めていた際に、米球界直伝のその球種(カッター)を教わったのだ。


「──打者は捉えたと思ったのに、()()()打球は飛ばない。そう感じてしまうくらい、あのカットは手元で鋭く変化してるんだそうです。……なかなか手強い投手が出てきましたね……!」




そう、真彩が語りながら注目する、秦野対長谷の対決。

ブレイブハーツベンチでは、代打の切り札である笹沼や、本日休養のため控えに回っていた板谷の2人が準備をしており、諸星監督の「ここで勝負を決める」姿勢が表れおり。


その後、カウントは2─2となってからの5球目。

ここまでアウトコース一辺倒の配球であったのが、ついにキャッチャーがインコースへと構える。


そして投じられた球は、今度は長谷の胸元へと()()()()──。




『──()()()()()()()()()!! 詰まった打球が前進守備のセカンドへ!! 三塁ランナープライスはスタートしている!!』


頼れるベテランの長谷と、実は足も使えるプライスの2人に、ゴロゴーのサインで託したブレイブハーツ首脳陣。

そして、そんな彼らの狙いを阻止すべく、前進守備を仕掛けていたシャインズ守備陣。


両者の全力のプレーが、ホームにてぶつかり合い──。





『──さぁ判定は…………アウトだあああああッッッ!!!』



減速することなく身体をうまく回り込ませ、左手でホームベースにタッチしたプライス。

そして、捕球から流れるようにホームベース付近に送球してみせたセカンドと、なんとか避けようとするランナー(プライスJr.)に、冷静かつ的確にタッチをかけるキャッチャー。


共に、無駄のない素晴らしいプレーを見せたその結果は。

ギリギリ、ほんの僅かにタッチが上回っていたのだ。



アウトコールがされるや否や、ブレイブハーツベンチも勝負所と見てチャレンジを仕掛けるも、判定は変わらず。


同点の大ピンチの中でのこの好プレーに、シャインズファンがアウェーとは思わせないような大歓声をあがるのだった。











【笹沼健人(34) 選手名鑑】


《16年目》

エクスパンションドラフト上位指名で下町ブレイブハーツに入団し、球団の黎明期を支えたベテラン外野手。

今季はシーズン序盤こそレフトでのスタメン出場が中心だったが、成績不振やケガでの離脱、加えてルーキー日下の台頭などもあり、後半戦は代打待機の試合も増加。2年ぶりに規定打席も未達になる悔しいシーズンとなった。

しかし、それでもキャリアハイで32発を放ったパワーは健在で、二桁本塁打の連続記録は維持。初年度からチームの主軸を担ったベテランが、来季はスタメン奪取を狙う。


[成績] 右/左(右左)

.223(278-*62) 10本 29打点 *2盗塁 *1盗塁死 OPS.667

93試合 二塁打12 三塁打1 四球21 死球4 三振62 犠飛1

出塁率.286(304-87) 長打率.371(278-106)

BB% 6.91% K% 20.46% SB% 66.7%

IsoD.063 IsoP.158 BB/K 0.32 *0犠打 (304打席)


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