#34『9戦目⑤ 〜脅威の新戦力①〜』
8回裏、人見のスクイズで1点のリードを得たブレイハーツ。
そして、そのまま後続が倒れ迎えた9回裏。
当然、諸星監督は守護神の二階堂雅史を送り出す。
チームとして、開幕戦以来となるセーブ機会。
登板間隔も3日空いており、気合いは十分の様子だ。
そして、その気合いはピッチング内容にも表れており。
『──最後は落としたァ!!! デュラン三振!!! 二階堂、まさに相手を寄せ付けない圧倒的なピッチングです!!』
そんな、ハイテンションな声が中継から流れてくる。
その実況の言葉からも分かるように。この最終回、1番からと好打順で始まるシャインズ打線を相手にして、二階堂は9球で2つのアウトを奪ってみせていたのであった。
そんな彼の背中を一瞥してから、デュランが悔しそうにベンチへと帰っていき、これでツーアウト。
言わずもな、ホームゲーム。球場に詰めかけたブレイブハーツファンたちのボルテージも高まっていく。
『──さぁ、これでブレイブハーツの勝利まであとワンナウト。ここで昨季は首位打者も獲得。本日は先制タイムリーを含む2安打を放っている球界の安打製造機、一条蓮を迎えます』
「ここで一条選手かぁ。ちょっと怖いなぁ」
「……実況の人も言ったように今日は当たってますからね。確実性に加えて十分な長打力もありますし、個人的にはシャインズで一番厄介だと思う打者です」
と、勝利まであと1人にして迎えることとなった、日本代表経験者同士の対決を、2人は固唾を飲んで見守る。
──そして、その勝負は彼女らの思い描いていたとおり、簡単には終わらない白熱した展開となって。
『──ボールッッ!! よく見ました一条、フォアボール!! シャインズ、ツーアウトからランナーを出します!!」
「「あぁ〜〜!!!!!」」
勝負の7球目。二階堂渾身のフォークを冷静に見切った一条が、レガースを外して一塁へと向かう。
変化のキレは抜群であっただけに、対する二階堂は投げ切ったその場で軽く膝を折って、顔を歪ませた。
これで、ツーアウトながらランナーは一塁。
守るブレイブハーツとしては、当たりによっては一打で同点もあり得る状況を迎えることとなった。
しかし、続く打者は────。
「……でも、次の4番のところは、途中出場の人だよね』
「えぇ。前の打席で村石選手には代走が出されてますから。ブレイブハーツとしては、彼が既にベンチに下がってくれていたのはかなり助かりますね。……ですが──」
『──あっとシャインズ六浦監督出てきました。どうやら、ここで代打に今日一軍昇格の火神を起用するようです!!』
「……まぁ、流石にここは代打でしたね」
「あーそうだよね。……って火神選手? あの去年のドラフトで5球団競合した人だよね」
菜月がそのコールがされた名前に反応を示すと、同様にレフトスタンド、シャインズ応援席からも大歓声が聞こえてくる。
「えぇ、その火神選手ですね。オープン戦の途中で残念ながらコンディション不良ということで開幕2軍だったんですが、シャインズは早速上げてきたみたいですね」
スマホを片手にネットの情報も見つつ、真彩が語る。
──火神 陸。
大京大学出身の外野手。高校時代も府内随一のスラッガーとして有名だったが、プロ志望届を出すことはなく進学を選択。その後、大学で身体作りに励み才能が開花。
センターを守れる守備力を持ちながらプロ顔負けのパワーでホームランを量産。四年時には関西リーグでMVPを受賞。大学代表でも4番を務めた、昨年のドラフトにおける目玉選手だ。
そして、そんな彼の大きな武器は。
「……なんというか、ここから見てもすごいデカいね」
「なんたって、身長198cmの体重は100キロ。全盛期のお父さんにすら匹敵する体格ですから。ほんと、プロ一年目の身体の出来とは思えないです」
火神の姿を目の当たりにして、目を見開く菜月。
遠くからでも分かるその明らかにゴツいガタイ。そして、ボックスに入る前に行う素振りの鋭さ。
彼の新人離れした落ち着いた雰囲気も相まって、そこに立っているのはメジャーリーガーなのではと錯覚してしまうほどだ。
なるほど、これはドラフトで競合にもなる。……と、菜月は納得した。──いや、させられていた。
「……とはいえ、これがプロ初打席でしょ? ここでいきなり代打ってのは、なかなか荷が重いんじゃ」
「いや、確かにそうなんですが、少なくともパワーは本物です。出会い頭にドカンといかれてもおかしくは──」
バ゛カ゛ン゛ッッッッ!!!!!
「「──えっ」」
『あっと、火神捉えたぁ!!!! 初球のフォークを掬って!! 高く上がったセンター後方! センターの村越下がって下がって……入ったああああああああ!!!!!!』
守護神、二階堂の投じた初球。
少しだけ浮いてはいたが、抜け玉という訳でもないフォーク。
それを、少し体勢を崩しながらも弾き返した火神の打球は凄まじい音を鳴らして、そのままフェンスオーバー。センター後方のバックスクリーンに直撃していた。
『──シャインズ期待のゴールデンルーキー火神、プロ初打席で値千金、特大の代打ツーランホームラン!!! 6対5、横浜シャインズが9回ツーアウトから逆転!!! なんと、ルーキーが一振りで試合をひっくり返してみせました!!!』
打たれた二階堂は、その着弾点を見つめて固まったまま。
そして、その一部始終を見ていた菜月と真彩の2人も、信じられないというように呆然としている。
そんな彼女らの視線の先にいるのは、言わずもな火神。
プロ初打席の初球を文句なしの特大ホームラン。
長いプロ野球の歴史の中でも数えられるほどしかない大記録なのだが、まるで「これが当たり前なんだ」とでも言うかのように、彼はゆっくりとダイヤモンドを一周していた。
──そして、このとき。
シャインズ・ブレイブハーツファンを問わず、その姿を目の当たりにした人々は、1つ確信めいたものを感じていた。
……この男は、本物だ、と。
こうして、横浜シャインズが9回裏の土壇場。
起死回生の1発によって、逆転に成功したのであった。
【一条蓮(28) 選手名鑑】
《10年目》
天才的なバットコントロール技術で高アベレージを記録する、首位打者争い常連の横浜シャインズが誇る安打製造機。
今季は打率.336と、2位と一分以上の大差をつけて首位打者を獲得。外野でベストナインにも輝いた。
今季FA権を取得したが、「このチームで優勝がしたい」と早々に残留宣言。来季もチームの主砲村石との3・4番コンビで、強力シャインズ打線の中心を担う。
[成績] 右/右 (左一指)
.336(500-168) 17本 82打点 5盗塁 3盗塁死 OPS.893
134試合 二塁打34 三塁打1 四球34 死球5 三振48 犠飛5
出塁率.381(544-207) 長打率.512(500-256)
BB% 6.24% K% 8.80% SB% 62.5%
IsoD.045 IsoP.176 BB/K 0.71 1犠打 (545打席)




