あとがき
お読みいただきまして、ありがとうございました。千場 葉です。
「異世界転生できませんでした。」いかがでしたでしょうか?
本作品は今年の初めよりずっと頭にあり、頭の中のみで完成していた作品を、実際に書き起こしたものです。
いつかは書こう、落ち着いたら書こうと思いながらも、連載中の「玄人仕事」が遅延による遅延を重ねており、形にすることが出来ずにしまわれていました。
出せるときはいつかあるのか、考えるだけで描く機会はないのではないか、そんなことを考えつつ、執筆と雑事の日々を過ごしておりました。
そんな折、「小説家になろう」の運営より示された、一つのお知らせが私の目に留まりました。
『【公式企画】文学フリマ短編小説賞 開催のお知らせ』
(2016/04/19)
何とは無しに、利用者としての一応の義務感のようなものから私はそれを一読し、続いて『文学フリマ』そのものをインターネットで検索しました。さすがに私も『検索』くらいは出来ますので。
別段、賞に興味があった、などということはありません。
ついついと、聞いたことのない催しや団体を見ると、その裏にどのような影が潜んでいるのか、どういった真意が隠れているのか、それを探りたくなる一種の職業病のようなものです。
私は『文学フリマ』を簡単に把握するため、まずは「Wikipedia」を利用し、概要を得ることにしました。
そこには、こうあります――
『「文学」の定義は特にしておらず、「自分が〈文学〉と信じるものであれば、基本的にどんな形態の作品でも構いません」とされ、』――(上記サイトより抜粋)
おやと、私は『文学フリマ』の公式サイトに赴き、その旨が本当に理念として示されているのか、その確認を行いました。
結果は―― まったく同じ文面を探すことはできませんでしたが、差異の無いもの、そうとれる内容が、たしかに至るところに記されていました。
そうなると、『文学フリマ』についてを調べるきっかけとなった『開催のお知らせ』。その中にあった、とある記述に疑問が呈されます。
『■文学フリマ短編小説賞 応募要項
・オリジナル作品
・未出版作品
・4万文字以下の作品
※話数は自由です(2000字×20話なども可)
・「異世界転生」、「異世界転移」の要素がない作品
・応募期間内に新規投稿された作品』――(上記『お知らせ』より抜粋)
はて? これはどういうことでしょう。
『「異世界転生」、「異世界転移」の要素がない作品』
わざわざと赤字で、まるでR18と言わんばかりに特記事項を主張する、この一項。
オリジナル作品でなければいけない、未出版作品でなければいけない、字数制限。それは賞レースであるのならば言われずともわかる事柄で、妙に思うことはありません。
『応募期間内に新規投稿された作品』、というものにも、お知らせの中にどうして限定したのかという旨が示されています。
しかし、完全に放置される形で、まるで残虐描写有りと言わんばかりに置かれた特記事項。
ここには一切の理由がありませんでした。
まぁ私も、端から見れば情けなくとも一応は大人ではあります。
『言わんでも、わかるやろぉ……?』
という、文面の裏からのぞく、コワモテのおじさんの凄みが見えないわけではありません。あっ、今、顔を寄せてタバコの煙を吹きかけられました、怖いです。
ですが、『文学フリマ』の理念と、『小説家になろう』の募集要項。この矛盾した内容には、雑魚であれ物書きの一人として、疑問を感じずにはいられないのです。
「自らが信じていたとしても、異世界が絡むだけで『文学』にはなり得ないのか!」
――現在、私が書いている『玄人仕事』は文学ではありません。作者である私はエンターテイメントとして、ただ読んで一時楽しんでもらいたい、それを目的に書いています。
もとより「芸術」「表現」など、いわゆる高尚なものを作ることに興味はありません。私にとっては「人が楽しめること」が全て。高尚を目指す理由もなければ腕も無く、やったところで自己満足の壁を越える結果にはならないでしょう。
自己表現、自己満足は、私には尚更に興味の無いところです。
ですので個人的には、今のお話とは無関係。ぽいっとつまみ出されて何を思うことはありません。「撮影禁止!」と書かれた場所にカメラマンが踏み込むようなものです。
しかし一方で、私のようにではなく、『文学』として異世界を絡めた、そんな作品を描かれている方はいらっしゃるのではないでしょうか?
ラノベというだけで下に見る、テレビドラマというだけでくだらないものとして見る、一般文芸だからというだけでシャバいしょうのない作品として見る。
そんな知人は私の周りにもヤマといますが、作者本人の信じる想いとは、個人の『文学』の在り方とは、一切関係の無い話なのではないでしょうか?
作品のジャンルというただの枠組みに「上」と「下」を置かねばならず、中の要素たった一つだけで、つまはじきにしなければならない。
『創作の世界』、物語をつづるという世界は、そこまで底の浅い世界なのでしょうか?
気づいた時には、本作を書き始めていました。
今が機会と、書き始めていました。
タイトルはもう、この一件の前より決まっていました。
主人公が見たものが、『異世界への入り口』なのか、ただの今際の際の『夢』だったのか、それを私が呈示することは美学に反し、できません。
――しかしこれは、この作品こそは、私の『文学』です。