執筆者NAO
最後に読む本をweb小説として、ネットに投稿してどのくらいたっただろうか。ブックマーク、PVもゼロ。我ながら、ゼロ続きのまま、よく続いているなあと思う。そんなことを考えながら、NAOは今日も、馴染みの公園でスマホに短編小説を打ち続けていた。
暑くて木陰のベンチに座ったが、木から漏れる陽がNAOの肌をじりじりと刺激する。NAOは、ペットボトルのふたを開け、お茶を一口飲み、喉を潤した。
NAOの仕事は、訪問介護のパートだ。
毎日、利用者さんの家を回りながら休憩の空き時間に、こうして文章を少しだけ入力している。
今日もあと少しで終わりだ、目を休めるために、少しだけ公園の緑に視線をうつす。――あっ、また違和感。NAOは、公園の隅に小さくうずくまっている黒い霧がかかったような少年を即座に見ないふりをした。
視界に入ったそれは、NAOがフィクションとして捉えるために書き始めたweb小説のきっかけでもあった。
NAOは即座にメモアプリを立ち上げ、【公園の黒い少年】とweb小説のタイトルだけを入力した。
いつからそれが見えるようになったのか。恐らく生まれた時から、それは見えていた。ただ、それが他の人間には見えていないことを認識したのは、NAOが小学生に上がった頃だと記憶している。
友人とふざけて公園で遊んでいた時に、それが見えた。今と同じように公園の滑り台の上で立っている黒い塊の少女、顔は潰れていて原型はとどめていなかった。今なら、それは悪意があると言語化できるが、当時はそれを何と表現して良いのかわからず、ただ、行きたくないという思いに滑り台から距離をとった。
友人は何も気にせず、滑り台の上へ上った。
友人が滑り台の上に立ったその時、黒い少女のような塊が、友人をふわりと包み込んだ。その異様な光景に、NAOは怖くて足が震え、その場に立ち止まったままだった。
友人は、滑り台の上からNAOに大きく手を振った。
「なおちゃん、どうしたの。来なよ」
「き な ょ」
友人の来なよという声に重なり、黒い塊の少女の来なよという声が重なる。NAOは、友人に向かって恐る恐る指を差した。その得体の知れないものを伝えるすべを、その当時は、それしか持ち合わせていなかったのだ。
「どうしたの」
「ど し た ぅ」
友人は、どんどん黒い影に侵食され姿を遠目に確認するのが難しくなった。
「――ちゃん、だめ!」
NAOは精一杯叫んだ。尋常じゃないNAOの様子に友人は気味悪がり、滑り台を滑ったあとNAOの元へ駆け寄ってくる。友人の後ろには、べったりとした黒い影が、まだモヤとして存在していた。
「――ちゃんの周りの黒い影見えないの?」
NAOは違和感を純粋な気持ちで口に出した。
「なおちゃん? 黒い影って?」
「――ちゃんの周りに顔の潰れた女の子がいるの」
NAOは叫んだ。友人は、突然のNAOの大きな声に泣き出してしまった。
「ひどいよ、なおちゃん。遊びたくないなら、そう言えばいいじゃん!」
「違うの――ちゃんの周りに! どんどん黒くなるの」
「ひどい!なおちゃんなんか、もう知らない」
そう言い、友人は公園を出た。
その後、友人とNAOは、会えていない。
NAOは、苦い思い出のあるすべり台へ視線をうつした。
黒い二人の影は、あの日のNAOを嘲笑うように、今も、こちらを見ていた。
完




