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創造のSILVER  作者: 雪野
Helix Dynamics
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21/71

19.光の名前

シグナス君の回想から始まります。

「コーデックス家のご長男は泣きながらではなく、笑いながら生まれたらしい」


 子どもの頃、飽きるほど聞かされた、つまらない冗談だ。


 パーティーに集まる大人たちは、父に媚びるための“安全な話題”として、決まってこのくだりを持ち出した。まるで、コーデックス家に生まれた時点で『人生の勝敗は決まっている』と言わんばかりの口ぶりで。


 まあ……実際、その通りだった。


 努力しなくても手に入るものばかりだった。住所は“ドーム上層・最上レベル”が指定席。 空気は管理され、温度は一定、光は最適化されている。幼児の頃から視界に映るものはすべて“選ばれた子ども向け”で、誰もが俺を褒め、俺より先に道を譲った。俺はそれを『普通』だと信じて疑わなかった。


 ──変わったのは、ヴィヴィアンが生まれてからだ。


 妹だけは、俺の思い通りにならなかった。体が弱く、泣き虫で、すぐ熱を出して、俺がどれだけ手を伸ばしても、思うようには笑ってくれなかった。


 それでも、こんなにも可愛い存在が、この世にいるのかと思った。


 俺が初めて“欲しい”と思ったもの。初めて“守りたい”と思ったもの。そして、初めて“手に入らない”と知ったもの。


 ヴィヴィは、俺の世界をひっくり返した。


「明日、水族館へ行こう」


 ある日、父が唐突に告げた。家族で外出するなど、後にも先にも一度もなかったことだ。 連邦に唯一存在する、巨大な水族館。俺はヴィヴィアンの車椅子を押し、厚いアクリルパネルの向こう側を家族で見つめた。


 そこは、音のない青の世界だった。頭上を巨大なエイが影となって横切り、無数の銀の鱗が、天窓から降り注ぐ人工太陽の光を反射して、星屑のように煌めいている。揺らめく水面を透過した光は、ヴィヴィアンの淡い髪に柔らかな文様を刻んでいた。


「……きれいだね、お兄様」


 その時、彼女が漏らした吐息のような言葉を、俺は今でも鮮明に思い出せる。


 だが、幸せの代償は重かった。その直後、ヴィヴィは何日も高熱で入院した。死の影が彼女の細い首筋に触れているような気がして、俺は恐怖で狂いそうだった。


 俺はヴィヴィのために、生まれて初めて自らの手で「何か」を作ろうとした。自分が持てる工学の粋を集めた、手のひらに乗るほど小さくて可愛らしい自律型ロボット。コーデックスの跡継ぎとしての義務ではなく、ただ一人の少女の笑顔を取り戻すためだけに、俺は回路を繋ぎ、指先を油で汚した。


 ヴィヴィアンには、()()()()()()()が必要だという。俺は完成したばかりのその機体を握りしめ、病室へと急いだ。


 ベッドで横たわるヴィヴィは、青白い顔をしながらも、俺を見て愛おしそうに笑った。


「これ…お兄様が、作ったの……?すごい……」


「……大したことない。これくらい、すぐ出来た。ほら、名前をつけてよ」


  俺が差し出すと、彼女は震える手でそれを抱きしめ、熱に浮かされた瞳を細めた。


「じゃあ……この子の名前は、ルミナ。私たちが、水族館で見た光の名前……」


 ──手術は成功した。


  数日後、俺は再び『ルミナ』を手に病室を訪れた。ヴィヴィアンは頭に包帯を巻いていたが、まるで嘘のように元気になり、ベッドの上に起き上がっていた。


「かわいい……!どうしたの、これ?」


 差し出した機体を見た瞬間、彼女が放ったのは、あの日と同じ無邪気な、けれど決定的に「知らない」響きを含んだ声だった。俺の指先が、凍りついたように止まる。


「どうしたのって……これは、ヴィヴィのために俺が……」


「シグナスが作ったの!?すごい、すごい!ねぇ、名前を付けてもいい?」


 ……忘れている。いや、彼女の笑顔のどこにも――俺たちの時間の影がない。


 名前を付けたことも。あの日の水族館の光を「ルミナ」と呼んだことも。


「……ああ。好きにしろよ」


  喉の奥が焼けるように熱い。


「じゃあ……『パフィ』にする!ね、似合ってるでしょ?」


 彼女が「ルミナ」と名付けたその小さな機械は、いま、全く別の名前で呼ばれている。


 大変な手術だったのだ、記憶の断片が失われても仕方がない。彼女は生き残り、こうして満面の笑みで俺を呼んでいる。……それで十分だ。


 ──けれど


 俺が初めて守りたいと願った、あのアクリルパネル越しの光を共有したあの少女は。「ルミナ」という名に、消えゆく命の灯火を託したあのヴィヴィアンは。


「……ああ。パフィ、いい名前だね、ヴィヴィ」


 きっと、もう二度と──この世界には戻ってこない。


 ***


 壁際の大型水槽が、青い光を揺らしている。


 シグナスは、追憶の底からゆっくりと意識を引き上げた。ヴィヴィアンは水槽の中を漂う魚を、夢の中のような目で見つめている。その時、スタッフたちの落ち着かないざわめきが耳に入ってきた。


「……何かあったの? さっきからバタついてるみたいだけど」


 シグナスが冷ややかに声をかけると、端末を叩いていたスタッフの一人が、露骨に渋面を作って視線を逸らした。コーデックス家の「世間知らずな御曹司」に、現状を説明する手間すら惜しいといった態度だ。


「あっそ。いいよ、勝手に調べるから」


 シグナスは鼻で笑うと、空中にホログラムを展開した。


 流れるような指捌きで権限を強制突破し、社内のセキュリティネットワークへ直接ダイブする。ログの奔流を数秒なぞるだけで、彼は事態の本質を正確に射抜いた。


「……不正アクセス!?バカか、何やってんだ!全ポートを一時閉鎖して、プロトコルを第3種に切り替えろ。バックドアを探すより先に、まずは侵入経路を物理層から切り離すんだ!」


 的確すぎる指示に、スタッフたちが呆然とシグナスを振り返る。しかし、その驚きに構う間もなく、廊下の向こうから雷鳴のような怒声が響き渡った。


「なんだね、君たちは! 控えなさい!」


 ラザロの声だ。重厚な扉の向こう側、オーウェンが差し向けたであろう兵士たちに対し、彼は一歩も引かずに怒鳴り散らしている。


「我々は独自に警備を雇っているし、システムの管理も完璧だ。外部の、ましてや軍の介入など必要ない!令状もないまま土足で上がり込むつもりか!」


 兵士たちは微動だにしない。やがて扉が乱暴に開き、ラザロが苛立ちを隠そうともせずに入ってくる。


「父さん!何やってんだよ!こんなの簡単に対処できるだろ!」


 ホロパッドを操作しながらシグナスが詰め寄るが、ラザロは息子を見ようともせず、その視線は水槽の前に立つ少女に釘付けになっていた。


「……シグナス、お前は会社のことに口を出すなと言ったはずだ。それより、なぜヴィヴィアンを連れてきた!」


「過保護すぎるんだよ。このまま一生、ヴィヴィを外に出さないつもり?箱入り娘にもほどがあるだろ」


「いい加減にしろ!ヴィヴィアンは特別なんだ。お前には──」


「お父様、お兄様、もうやめて!!」


 鋭い叫び声が、室内の殺伐とした空気を一瞬で切り裂いた。呆然とする父兄の前で、ヴィヴィアンは肩を震わせながら、けれど真っ直ぐにラザロを見据えていた。


「勝手にここへ来たことは謝ります。お叱りは、後でいくらでも受けます。でも、今はそれどころではないでしょう!?」


 ヴィヴィアンの一喝に、周囲がしん、と静まり返る。


「来賓の方々が危険に晒されているのに、社長であるお父様がこんなところで家族喧嘩をしているなんて、あってはならないことです!お父様は今すぐホールへお戻りください。トップが毅然としていなければ、社員たちが混乱します!」


 その瞳に宿る揺るぎない覚悟と威厳に、ラザロは気圧されたように言葉を失った。苦い表情を浮かべ、敗北を認めたように短く息を吐いた。


「……そうだな。すまない、ヴィヴィアン。私は戻る。お前たちは安全が確保されるまで、決してここを出るな」


「父さん」


 シグナスの声が背中に刺さる。彼はホログラムに流れる異常なログの群れから目を離さず、吐き捨てるように続けた。


「うちのOSが、こんな不細工なバグを出すわけがない。外部からの干渉を受け入れる隙なんて、設計段階で一つ残らず潰してきたはずだ……それなのにこのザマだ。技術屋として、これを見ていて腹が立たないのか?」


 ラザロは扉の前で足を止め、振り向かずに重々しく口を開いた。


「我が社は、連邦を代表する企業だ。この世界の技術の根幹を担う責任がある」


 その声には、経営者としての誇り以上に、引き返せない道を選んだ者の暗い覚悟が滲んでいた。


「その責任を果たすために……たとえ不細工であろうとも、やるべきことがある。お前にはまだ分からん」


 自動扉が音もなく閉まった。

 シグナスは苛立ったようにソファへ身を投げた。


「くそっ! 馬鹿おやじ……!」


 一方で、ヴィヴィアンは動じなかった。彼女はまだ部屋の隅で固まっているスタッフたちに、静かな、けれど有無を言わせぬ視線を向けた。


「……あなたたち、今すぐホールの支援に向かって。社長が一人で対応しているのよ?人手が足りないはずだわ」


「は、はい……! 失礼します!」


 ヴィヴィアンの放つ「経営者の令嬢」としての威厳に圧され、スタッフたちは逃げるように部屋を後にした。


 重い扉が再び閉まり、室内にはシグナスとヴィヴィアン、そして駆動音を立てる水槽だけが残される。シグナスは、ソファに深く沈み込んだまま、妹の横顔を盗み見た。


「……ヴィヴィ、いつの間にあんな言い方覚えたんだ?」


 シグナスの問いに、ヴィヴィアンはふわりと微笑んだ。


「あら、お父様の背中を見ていれば、これくらい普通に身につくでしょ?……それより、私ね、お兄様が作るものが大好きなの」


「──うん?」


「綺麗で、可愛くて、触れた人を幸せにする……それがシグナスの作るものよ。だから、もし少しでも“不細工”だと感じるなら、きっとそれは本来の姿じゃないわ。直してあげて。お兄様の手で」


 ヴィヴィアンの瞳は、純粋な好意でシグナスを射抜いていた。かつて彼が、病弱な彼女を笑顔にしたいという一心で指先を油で汚した、あの頃の誠実さを呼び覚ますような輝き──。シグナスは、吐き捨てたばかりの苛立ちが、急速に収まっていくのを感じた。


「言われなくてもわかってるよ!ヘリクスの看板を汚されたままじゃ、俺のプライドが許さない!」


 シグナスはそう強がると、投げ出していた体を起こし、再びホログラムを操作し始めた。


「……ったく、ザルだな」


 自社ネットワークの管理者権限を叩きつけ、侵入者の足取りを逆探知する。彼の指が踊るように動き、ホログラム上に一帯の構造図が立体的に浮かび上がった。


「地下のメンテナンス区画か……監視モニターは生きてるか…?」


 ノイズ混じりの映像を呼び出すと、そこには二人の影が映し出されていた。一人は先ほど、その銀色に輝く義眼を自分に見せてくれた女──ギルダだ。


「え……?なんであいつら、エレベーターに乗れてるんだ? まさか、この短時間で検問コードを書き換えたのか……?でも、この先のセキュリティゲートは無理だろ…」


 声がわずかに弾む。 危機の最中だというのに、技術者としての好奇心が抑えきれない。


「……シグナス、この部屋を出るなら今のうちよ?社員はすぐ戻ってくるもの」


 ヴィヴィアンが静かに言う。まるで兄の心の奥を見透かしたような、悪戯っぽくも確信に満ちた言葉。 シグナスは一瞬、言葉に詰まったが、すぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「……ああ。ヴィヴィがそう言うなら、仕方ないな!」


 シグナスは弾かれたように部屋を飛び出した。


 ***


 地下。


 エレベーターの扉が開き、現れたのはシグナス・コーデックスだった。

 テオが反射的に銃へ手を伸ばそうとするが、ギルダがそれを片手で制する。彼女の視線は、真っ直ぐに目の前の御曹司を射抜いていた。


「……何しに来た」


 不意を突かれたはずのシグナスは、臆することなく言い放つ。


「オペレーターを止めに来た」


「我々が指令を受けて対処している。君は邪魔、帰りなさい」


 ギルダの冷淡な拒絶を無視し、シグナスの視線は作業を続けるテオの背中に注がれた。目立った端末も持たず、ただゲートに触れているだけの姿に、彼の瞳が驚愕に揺れる。


「はっ!?直接ネットワークに潜ってるのか?どういう仕組みだ……」


「帰れ」


 ギルダが銃口を突きつける。その銀の義眼が、感情を削ぎ落とした暗い光を宿した。


「私は撃てるよ。冗談抜きで」


 有無を言わせぬ殺気に、シグナスは思わず唾を飲み込む。だが、彼は逃げ出さなかった。


「そのゲートを開けるには特権IDが必要だ……俺が開ける」


 予期せぬ提案に、ギルダとテオの動きが止まった。


「意図が読めない。簡潔に説明して」


「……多分この件、父さ……社長は把握した上で放置してる。連邦軍とのパワーゲームか何か知らないけど、こんな反吐が出るような介入を許してる時点で、エンジニアとしては三流だ」


 シグナスの声が、苛立ちと情熱で熱を帯びる。


「『技術の根幹を担う責任』だと?笑わせるな。自社のシステム一つ、ユニット一体すら守れないで何が世界だ!自分の庭が泥足で踏み荒らされてるんだぞ!……こんな歪んだ状態、俺が今すぐ叩き直してやる!」


 剥き出しのプライドをぶつけられ、ギルダはしばし彼の目を見つめた。やがて、彼女は静かに銃口を下ろす。


「……わかった。やって」

「ギル……!」


 テオが焦燥の混じった声を上げるが、ギルダの判断は揺るがない。


「テオにこれ以上、負荷はかけられない。それに──」


 ギルダはシグナスに向き直り、かすかに口角を上げた。


「ご令息は、技術に嘘をつけない人種だと判断した……そうでしょ? シグナスお坊ちゃん」


 シグナスは一瞬むっとしたが、 すぐに息を吐き、短く答えた。


「ああ……!」


 シグナスが迷いのない手つきでコンソールを叩くと、ヘリクス社の強固な防壁が、主を迎え入れるように音もなく霧散した。


「開けたぞ……これで貸し一つだ」


「……ありがとう。助かったよ、シグナス」


 ギルダの言葉に、シグナスは得意げに鼻を鳴らした。


「よし、じゃあこの不細工なコードを垂れ流してる野郎を、これから一緒にボコボコに──」


 意気揚々と一歩踏み出そうとしたシグナスの肩を、ギルダの手が強く掴んだ。同時に、彼女の右目が赤く明滅し、エレベーターの扉が開く。


「え……?」


 シグナスが呆気に取られた瞬間、ギルダは容赦のない力で彼の胸を押し、箱の中へと押し戻した。


「ちょ、ちょっと待っ──!」

「テオ」


 ギルダの短い呼びかけに、テオはN-Link(エヌ‐リンク)を起動させた。シグナスの抗議を遮るようにエレベーターの扉が閉まり、制御パネルが青く光る。


「地上へ戻れ」


 テオが指先を弾くと、エレベーターは猛烈な加速で地上階へと引き上げられていく。


「……お前、N-Link無しでハックするな。負荷が跳ね返ってくるぞ」


 テオは眉をひそめ、ギルダを横目で睨む。


「扉を開けただけ。問題ない」


 二人は薄暗いメンテナンス区画を影のように進み、やがて巨大なサーバーラックが並ぶ広間へと辿り着いた。端末の青白い光に照らされて、一人のオペレーターが背を向けて座っている。男は背後の接近に全く気づいていない。


 ギルダとテオは、左右の太い柱の影に分かれて身を潜めた。


〈……手に操作端末を持ってる。テオ、そこからリンクは切れる?〉


 ギルダが視神経を研ぎ澄ませ、テレパスを飛ばす。テオは即座にN-Linkを介して男の周囲の電波を走査した。


〈……無理だ。ホストとのリンクが強すぎる。外部からじゃ弾けない〉


 テオは奥歯を噛み締めた。


(端末を直接破壊して暴走を止めるか。それとも、確実にオペレーター本人を撃つか……)


 軍の訓練で叩き込まれた「最も確実な手段」は後者だ。


〈──私が声をかけて注意を引く。その隙に、テオは端末を狙って〉


〈正気か?十五メートルは離れてるぞ。外れたらどうする〉


〈外れたら、私が排除する。二段構えだよ……どっちに転んでも、失敗はない〉


 “排除”という言葉が、胸に重く落ちる。ギルダはそんなテオの迷いを察したように、柱の影から、ひょいと右手の親指を立てて見せた。


〈大丈夫。テオなら、外さない〉


 その真っ直ぐな信頼に、テオはゆっくりと深く息を吐き出し、銃のサイト越しに、男が握る小さな端末へと照準を固定した。


〈……準備できた。いつでもいける〉


 ギルダは柱の影から躍り出た。銃口をオペレーターの心臓へと固定し、冷徹な声を叩きつける。


「動くな。──手に持っている端末ごと、ゆっくり両手を上げろ」


 背後からの殺気に、オペレーターの男がびくりと肩を跳ねさせた。言われるがまま、震える手で端末を頭上へ掲げる……だが、その視線がわずかに泳ぎ、もう片方の手が不自然に胸元へと滑り込んだ。


(──銃か!)


 男が懐に指をかけた瞬間、テオの指が引き金を引き絞った。


 パシュッ──


 消音器を通した乾いた発射音が、メンテナンス区画の静寂に吸い込まれる。放たれた弾丸は、男の指先にあった端末を正確に撃ち抜いた。火花を散らして端末が弾け飛ぶ。


「あがっ……!?」


 衝撃に男が怯んだ隙を、ギルダは逃さなかった。獲物を狩る獣のような速度で距離を詰めると、軍用義手の膂力(りょりょく)で男の腕を捻り上げ、そのまま床に叩き伏せる。


 ──同時刻、来賓を追い詰めていた警備ユニットたちが、まるで糸の切れた人形のようにその場に力なく崩れ落ちた。


 テオは銃を下ろし、肺の奥の熱を吐き出した。そして、通信ラインを開く。


「……こちらテオドール。オペレーターを確保。物理リンク、完全に遮断しました」


 数秒の静寂の後、オーウェンの落ち着いた、どこか労うような声が耳に届いた。


『──よくやりました。そちらに回収班を向かわせます。オペレーターを引き渡し、合流してください』


 通信を切り、オーウェンはすぐさま別のラインを繋ぐ。


『リア君、そちらの状況は。……そうですか、お疲れさまでした。周囲の追加脅威がクリアになり次第、オペレーションルームへ帰還してください』


 すべての指示を終え、オーウェンは椅子に深く身体をもたれさせた。天井の無機質な照明を見上げ、長く、重い息を吐き出す。


 彼は眼鏡を指先で押し上げると、表情を冷徹に切り替えた。手元のコンソールを叩き、優先度の最も高い秘匿回線を起動する。


『──こちら、監査執行局、ヘルマン・オーウェン中佐。対象エリアの物理的制圧、および首謀者の身柄確保を完了。本件オペレーションをクローズし、これよりフェーズ3へ移行する』


 一拍おいて、彼は静かに、だが確実な終わりを告げるように付け加えた。


『現場は整えました。これより全権を()()()()へ委譲します――お待ちしております』

最後まで読んでいただきありがとうございます。

キリのいいところまで書いたら7,000字超えてしまいました…

お付き合いいただき本当にありがとうございます。

ちゃんと伝えられてますでしょうか…?


次回は『フェーズ3』

司令本部のメンバー(Second)が登場します。

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