19.光の名前
シグナス君の回想から始まります。
「コーデックス家のご長男は泣きながらではなく、笑いながら生まれたらしい」
子どもの頃、飽きるほど聞かされた、つまらない冗談だ。
パーティーに集まる大人たちは、父に媚びるための“安全な話題”として、決まってこのくだりを持ち出した。まるで、コーデックス家に生まれた時点で『人生の勝敗は決まっている』と言わんばかりの口ぶりで。
まあ……実際、その通りだった。
努力しなくても手に入るものばかりだった。住所は“ドーム上層・最上レベル”が指定席。 空気は管理され、温度は一定、光は最適化されている。幼児の頃から視界に映るものはすべて“選ばれた子ども向け”で、誰もが俺を褒め、俺より先に道を譲った。俺はそれを『普通』だと信じて疑わなかった。
──変わったのは、ヴィヴィアンが生まれてからだ。
妹だけは、俺の思い通りにならなかった。体が弱く、泣き虫で、すぐ熱を出して、俺がどれだけ手を伸ばしても、思うようには笑ってくれなかった。
それでも、こんなにも可愛い存在が、この世にいるのかと思った。
俺が初めて“欲しい”と思ったもの。初めて“守りたい”と思ったもの。そして、初めて“手に入らない”と知ったもの。
ヴィヴィは、俺の世界をひっくり返した。
「明日、水族館へ行こう」
ある日、父が唐突に告げた。家族で外出するなど、後にも先にも一度もなかったことだ。 連邦に唯一存在する、巨大な水族館。俺はヴィヴィアンの車椅子を押し、厚いアクリルパネルの向こう側を家族で見つめた。
そこは、音のない青の世界だった。頭上を巨大なエイが影となって横切り、無数の銀の鱗が、天窓から降り注ぐ人工太陽の光を反射して、星屑のように煌めいている。揺らめく水面を透過した光は、ヴィヴィアンの淡い髪に柔らかな文様を刻んでいた。
「……きれいだね、お兄様」
その時、彼女が漏らした吐息のような言葉を、俺は今でも鮮明に思い出せる。
だが、幸せの代償は重かった。その直後、ヴィヴィは何日も高熱で入院した。死の影が彼女の細い首筋に触れているような気がして、俺は恐怖で狂いそうだった。
俺はヴィヴィのために、生まれて初めて自らの手で「何か」を作ろうとした。自分が持てる工学の粋を集めた、手のひらに乗るほど小さくて可愛らしい自律型ロボット。コーデックスの跡継ぎとしての義務ではなく、ただ一人の少女の笑顔を取り戻すためだけに、俺は回路を繋ぎ、指先を油で汚した。
ヴィヴィアンには、脳の大きな手術が必要だという。俺は完成したばかりのその機体を握りしめ、病室へと急いだ。
ベッドで横たわるヴィヴィは、青白い顔をしながらも、俺を見て愛おしそうに笑った。
「これ…お兄様が、作ったの……?すごい……」
「……大したことない。これくらい、すぐ出来た。ほら、名前をつけてよ」
俺が差し出すと、彼女は震える手でそれを抱きしめ、熱に浮かされた瞳を細めた。
「じゃあ……この子の名前は、ルミナ。私たちが、水族館で見た光の名前……」
──手術は成功した。
数日後、俺は再び『ルミナ』を手に病室を訪れた。ヴィヴィアンは頭に包帯を巻いていたが、まるで嘘のように元気になり、ベッドの上に起き上がっていた。
「かわいい……!どうしたの、これ?」
差し出した機体を見た瞬間、彼女が放ったのは、あの日と同じ無邪気な、けれど決定的に「知らない」響きを含んだ声だった。俺の指先が、凍りついたように止まる。
「どうしたのって……これは、ヴィヴィのために俺が……」
「シグナスが作ったの!?すごい、すごい!ねぇ、名前を付けてもいい?」
……忘れている。いや、彼女の笑顔のどこにも――俺たちの時間の影がない。
名前を付けたことも。あの日の水族館の光を「ルミナ」と呼んだことも。
「……ああ。好きにしろよ」
喉の奥が焼けるように熱い。
「じゃあ……『パフィ』にする!ね、似合ってるでしょ?」
彼女が「ルミナ」と名付けたその小さな機械は、いま、全く別の名前で呼ばれている。
大変な手術だったのだ、記憶の断片が失われても仕方がない。彼女は生き残り、こうして満面の笑みで俺を呼んでいる。……それで十分だ。
──けれど
俺が初めて守りたいと願った、あのアクリルパネル越しの光を共有したあの少女は。「ルミナ」という名に、消えゆく命の灯火を託したあのヴィヴィアンは。
「……ああ。パフィ、いい名前だね、ヴィヴィ」
きっと、もう二度と──この世界には戻ってこない。
***
壁際の大型水槽が、青い光を揺らしている。
シグナスは、追憶の底からゆっくりと意識を引き上げた。ヴィヴィアンは水槽の中を漂う魚を、夢の中のような目で見つめている。その時、スタッフたちの落ち着かないざわめきが耳に入ってきた。
「……何かあったの? さっきからバタついてるみたいだけど」
シグナスが冷ややかに声をかけると、端末を叩いていたスタッフの一人が、露骨に渋面を作って視線を逸らした。コーデックス家の「世間知らずな御曹司」に、現状を説明する手間すら惜しいといった態度だ。
「あっそ。いいよ、勝手に調べるから」
シグナスは鼻で笑うと、空中にホログラムを展開した。
流れるような指捌きで権限を強制突破し、社内のセキュリティネットワークへ直接ダイブする。ログの奔流を数秒なぞるだけで、彼は事態の本質を正確に射抜いた。
「……不正アクセス!?バカか、何やってんだ!全ポートを一時閉鎖して、プロトコルを第3種に切り替えろ。バックドアを探すより先に、まずは侵入経路を物理層から切り離すんだ!」
的確すぎる指示に、スタッフたちが呆然とシグナスを振り返る。しかし、その驚きに構う間もなく、廊下の向こうから雷鳴のような怒声が響き渡った。
「なんだね、君たちは! 控えなさい!」
ラザロの声だ。重厚な扉の向こう側、オーウェンが差し向けたであろう兵士たちに対し、彼は一歩も引かずに怒鳴り散らしている。
「我々は独自に警備を雇っているし、システムの管理も完璧だ。外部の、ましてや軍の介入など必要ない!令状もないまま土足で上がり込むつもりか!」
兵士たちは微動だにしない。やがて扉が乱暴に開き、ラザロが苛立ちを隠そうともせずに入ってくる。
「父さん!何やってんだよ!こんなの簡単に対処できるだろ!」
ホロパッドを操作しながらシグナスが詰め寄るが、ラザロは息子を見ようともせず、その視線は水槽の前に立つ少女に釘付けになっていた。
「……シグナス、お前は会社のことに口を出すなと言ったはずだ。それより、なぜヴィヴィアンを連れてきた!」
「過保護すぎるんだよ。このまま一生、ヴィヴィを外に出さないつもり?箱入り娘にもほどがあるだろ」
「いい加減にしろ!ヴィヴィアンは特別なんだ。お前には──」
「お父様、お兄様、もうやめて!!」
鋭い叫び声が、室内の殺伐とした空気を一瞬で切り裂いた。呆然とする父兄の前で、ヴィヴィアンは肩を震わせながら、けれど真っ直ぐにラザロを見据えていた。
「勝手にここへ来たことは謝ります。お叱りは、後でいくらでも受けます。でも、今はそれどころではないでしょう!?」
ヴィヴィアンの一喝に、周囲がしん、と静まり返る。
「来賓の方々が危険に晒されているのに、社長であるお父様がこんなところで家族喧嘩をしているなんて、あってはならないことです!お父様は今すぐホールへお戻りください。トップが毅然としていなければ、社員たちが混乱します!」
その瞳に宿る揺るぎない覚悟と威厳に、ラザロは気圧されたように言葉を失った。苦い表情を浮かべ、敗北を認めたように短く息を吐いた。
「……そうだな。すまない、ヴィヴィアン。私は戻る。お前たちは安全が確保されるまで、決してここを出るな」
「父さん」
シグナスの声が背中に刺さる。彼はホログラムに流れる異常なログの群れから目を離さず、吐き捨てるように続けた。
「うちのOSが、こんな不細工なバグを出すわけがない。外部からの干渉を受け入れる隙なんて、設計段階で一つ残らず潰してきたはずだ……それなのにこのザマだ。技術屋として、これを見ていて腹が立たないのか?」
ラザロは扉の前で足を止め、振り向かずに重々しく口を開いた。
「我が社は、連邦を代表する企業だ。この世界の技術の根幹を担う責任がある」
その声には、経営者としての誇り以上に、引き返せない道を選んだ者の暗い覚悟が滲んでいた。
「その責任を果たすために……たとえ不細工であろうとも、やるべきことがある。お前にはまだ分からん」
自動扉が音もなく閉まった。
シグナスは苛立ったようにソファへ身を投げた。
「くそっ! 馬鹿おやじ……!」
一方で、ヴィヴィアンは動じなかった。彼女はまだ部屋の隅で固まっているスタッフたちに、静かな、けれど有無を言わせぬ視線を向けた。
「……あなたたち、今すぐホールの支援に向かって。社長が一人で対応しているのよ?人手が足りないはずだわ」
「は、はい……! 失礼します!」
ヴィヴィアンの放つ「経営者の令嬢」としての威厳に圧され、スタッフたちは逃げるように部屋を後にした。
重い扉が再び閉まり、室内にはシグナスとヴィヴィアン、そして駆動音を立てる水槽だけが残される。シグナスは、ソファに深く沈み込んだまま、妹の横顔を盗み見た。
「……ヴィヴィ、いつの間にあんな言い方覚えたんだ?」
シグナスの問いに、ヴィヴィアンはふわりと微笑んだ。
「あら、お父様の背中を見ていれば、これくらい普通に身につくでしょ?……それより、私ね、お兄様が作るものが大好きなの」
「──うん?」
「綺麗で、可愛くて、触れた人を幸せにする……それがシグナスの作るものよ。だから、もし少しでも“不細工”だと感じるなら、きっとそれは本来の姿じゃないわ。直してあげて。お兄様の手で」
ヴィヴィアンの瞳は、純粋な好意でシグナスを射抜いていた。かつて彼が、病弱な彼女を笑顔にしたいという一心で指先を油で汚した、あの頃の誠実さを呼び覚ますような輝き──。シグナスは、吐き捨てたばかりの苛立ちが、急速に収まっていくのを感じた。
「言われなくてもわかってるよ!ヘリクスの看板を汚されたままじゃ、俺のプライドが許さない!」
シグナスはそう強がると、投げ出していた体を起こし、再びホログラムを操作し始めた。
「……ったく、ザルだな」
自社ネットワークの管理者権限を叩きつけ、侵入者の足取りを逆探知する。彼の指が踊るように動き、ホログラム上に一帯の構造図が立体的に浮かび上がった。
「地下のメンテナンス区画か……監視モニターは生きてるか…?」
ノイズ混じりの映像を呼び出すと、そこには二人の影が映し出されていた。一人は先ほど、その銀色に輝く義眼を自分に見せてくれた女──ギルダだ。
「え……?なんであいつら、エレベーターに乗れてるんだ? まさか、この短時間で検問コードを書き換えたのか……?でも、この先のセキュリティゲートは無理だろ…」
声がわずかに弾む。 危機の最中だというのに、技術者としての好奇心が抑えきれない。
「……シグナス、この部屋を出るなら今のうちよ?社員はすぐ戻ってくるもの」
ヴィヴィアンが静かに言う。まるで兄の心の奥を見透かしたような、悪戯っぽくも確信に満ちた言葉。 シグナスは一瞬、言葉に詰まったが、すぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……ああ。ヴィヴィがそう言うなら、仕方ないな!」
シグナスは弾かれたように部屋を飛び出した。
***
地下。
エレベーターの扉が開き、現れたのはシグナス・コーデックスだった。
テオが反射的に銃へ手を伸ばそうとするが、ギルダがそれを片手で制する。彼女の視線は、真っ直ぐに目の前の御曹司を射抜いていた。
「……何しに来た」
不意を突かれたはずのシグナスは、臆することなく言い放つ。
「オペレーターを止めに来た」
「我々が指令を受けて対処している。君は邪魔、帰りなさい」
ギルダの冷淡な拒絶を無視し、シグナスの視線は作業を続けるテオの背中に注がれた。目立った端末も持たず、ただゲートに触れているだけの姿に、彼の瞳が驚愕に揺れる。
「はっ!?直接ネットワークに潜ってるのか?どういう仕組みだ……」
「帰れ」
ギルダが銃口を突きつける。その銀の義眼が、感情を削ぎ落とした暗い光を宿した。
「私は撃てるよ。冗談抜きで」
有無を言わせぬ殺気に、シグナスは思わず唾を飲み込む。だが、彼は逃げ出さなかった。
「そのゲートを開けるには特権IDが必要だ……俺が開ける」
予期せぬ提案に、ギルダとテオの動きが止まった。
「意図が読めない。簡潔に説明して」
「……多分この件、父さ……社長は把握した上で放置してる。連邦軍とのパワーゲームか何か知らないけど、こんな反吐が出るような介入を許してる時点で、エンジニアとしては三流だ」
シグナスの声が、苛立ちと情熱で熱を帯びる。
「『技術の根幹を担う責任』だと?笑わせるな。自社のシステム一つ、ユニット一体すら守れないで何が世界だ!自分の庭が泥足で踏み荒らされてるんだぞ!……こんな歪んだ状態、俺が今すぐ叩き直してやる!」
剥き出しのプライドをぶつけられ、ギルダはしばし彼の目を見つめた。やがて、彼女は静かに銃口を下ろす。
「……わかった。やって」
「ギル……!」
テオが焦燥の混じった声を上げるが、ギルダの判断は揺るがない。
「テオにこれ以上、負荷はかけられない。それに──」
ギルダはシグナスに向き直り、かすかに口角を上げた。
「ご令息は、技術に嘘をつけない人種だと判断した……そうでしょ? シグナスお坊ちゃん」
シグナスは一瞬むっとしたが、 すぐに息を吐き、短く答えた。
「ああ……!」
シグナスが迷いのない手つきでコンソールを叩くと、ヘリクス社の強固な防壁が、主を迎え入れるように音もなく霧散した。
「開けたぞ……これで貸し一つだ」
「……ありがとう。助かったよ、シグナス」
ギルダの言葉に、シグナスは得意げに鼻を鳴らした。
「よし、じゃあこの不細工なコードを垂れ流してる野郎を、これから一緒にボコボコに──」
意気揚々と一歩踏み出そうとしたシグナスの肩を、ギルダの手が強く掴んだ。同時に、彼女の右目が赤く明滅し、エレベーターの扉が開く。
「え……?」
シグナスが呆気に取られた瞬間、ギルダは容赦のない力で彼の胸を押し、箱の中へと押し戻した。
「ちょ、ちょっと待っ──!」
「テオ」
ギルダの短い呼びかけに、テオはN-Linkを起動させた。シグナスの抗議を遮るようにエレベーターの扉が閉まり、制御パネルが青く光る。
「地上へ戻れ」
テオが指先を弾くと、エレベーターは猛烈な加速で地上階へと引き上げられていく。
「……お前、N-Link無しでハックするな。負荷が跳ね返ってくるぞ」
テオは眉をひそめ、ギルダを横目で睨む。
「扉を開けただけ。問題ない」
二人は薄暗いメンテナンス区画を影のように進み、やがて巨大なサーバーラックが並ぶ広間へと辿り着いた。端末の青白い光に照らされて、一人のオペレーターが背を向けて座っている。男は背後の接近に全く気づいていない。
ギルダとテオは、左右の太い柱の影に分かれて身を潜めた。
〈……手に操作端末を持ってる。テオ、そこからリンクは切れる?〉
ギルダが視神経を研ぎ澄ませ、テレパスを飛ばす。テオは即座にN-Linkを介して男の周囲の電波を走査した。
〈……無理だ。ホストとのリンクが強すぎる。外部からじゃ弾けない〉
テオは奥歯を噛み締めた。
(端末を直接破壊して暴走を止めるか。それとも、確実にオペレーター本人を撃つか……)
軍の訓練で叩き込まれた「最も確実な手段」は後者だ。
〈──私が声をかけて注意を引く。その隙に、テオは端末を狙って〉
〈正気か?十五メートルは離れてるぞ。外れたらどうする〉
〈外れたら、私が排除する。二段構えだよ……どっちに転んでも、失敗はない〉
“排除”という言葉が、胸に重く落ちる。ギルダはそんなテオの迷いを察したように、柱の影から、ひょいと右手の親指を立てて見せた。
〈大丈夫。テオなら、外さない〉
その真っ直ぐな信頼に、テオはゆっくりと深く息を吐き出し、銃のサイト越しに、男が握る小さな端末へと照準を固定した。
〈……準備できた。いつでもいける〉
ギルダは柱の影から躍り出た。銃口をオペレーターの心臓へと固定し、冷徹な声を叩きつける。
「動くな。──手に持っている端末ごと、ゆっくり両手を上げろ」
背後からの殺気に、オペレーターの男がびくりと肩を跳ねさせた。言われるがまま、震える手で端末を頭上へ掲げる……だが、その視線がわずかに泳ぎ、もう片方の手が不自然に胸元へと滑り込んだ。
(──銃か!)
男が懐に指をかけた瞬間、テオの指が引き金を引き絞った。
パシュッ──
消音器を通した乾いた発射音が、メンテナンス区画の静寂に吸い込まれる。放たれた弾丸は、男の指先にあった端末を正確に撃ち抜いた。火花を散らして端末が弾け飛ぶ。
「あがっ……!?」
衝撃に男が怯んだ隙を、ギルダは逃さなかった。獲物を狩る獣のような速度で距離を詰めると、軍用義手の膂力で男の腕を捻り上げ、そのまま床に叩き伏せる。
──同時刻、来賓を追い詰めていた警備ユニットたちが、まるで糸の切れた人形のようにその場に力なく崩れ落ちた。
テオは銃を下ろし、肺の奥の熱を吐き出した。そして、通信ラインを開く。
「……こちらテオドール。オペレーターを確保。物理リンク、完全に遮断しました」
数秒の静寂の後、オーウェンの落ち着いた、どこか労うような声が耳に届いた。
『──よくやりました。そちらに回収班を向かわせます。オペレーターを引き渡し、合流してください』
通信を切り、オーウェンはすぐさま別のラインを繋ぐ。
『リア君、そちらの状況は。……そうですか、お疲れさまでした。周囲の追加脅威がクリアになり次第、オペレーションルームへ帰還してください』
すべての指示を終え、オーウェンは椅子に深く身体をもたれさせた。天井の無機質な照明を見上げ、長く、重い息を吐き出す。
彼は眼鏡を指先で押し上げると、表情を冷徹に切り替えた。手元のコンソールを叩き、優先度の最も高い秘匿回線を起動する。
『──こちら、監査執行局、ヘルマン・オーウェン中佐。対象エリアの物理的制圧、および首謀者の身柄確保を完了。本件オペレーションをクローズし、これよりフェーズ3へ移行する』
一拍おいて、彼は静かに、だが確実な終わりを告げるように付け加えた。
『現場は整えました。これより全権を司令本部へ委譲します――お待ちしております』
最後まで読んでいただきありがとうございます。
キリのいいところまで書いたら7,000字超えてしまいました…
お付き合いいただき本当にありがとうございます。
ちゃんと伝えられてますでしょうか…?
次回は『フェーズ3』
司令本部のメンバー(Second)が登場します。




