やっと…*ルシアン視点
重ねた唇は、身震いしてしまうほどに冷たかった。
(頼む、目を開けてくれ……ッ)
助けたい一心で魔力を重ね合わせた唇に集中させながら、直前まで話していた竜の言葉が頭を反芻する。
『エメは氷属性である己の魔力によって身体が凍りつき、仮死状態に陥っている。そこにそなたの火属性の魔力を送り込んで溶かすのだ。ただし、そなたが少しでも加減を見誤った暁にはエメは助かるまい』
助言されたそのことについては、俺自身も何より危惧していることだった。
魔力を他人に譲渡すること自体、エメが俺を助けてくれるまで聞いたことがなかった上、俺の魔力はつい最近まで暴走を繰り返していたほどに膨大である。
その魔力をエメの体内に、となると、俺が目測を誤った時点で、エメは……。
(考えたくもない。とにかく、エメを何としてでも助けなければ)
まずは俺の魔力を受け取ってくれ、とひたすら魔力を込め続けているうちに、不意に自身の身体に流れる魔力の一部が抜ける感覚を覚えた。
「…………!!」
(エメ……!!)
それは間違いなく、エメが俺の魔力を受け入れた証拠だった。
そのことに歓喜に打ち震えたのも束の間、今度は一気に魔力を持っていかれる感覚を覚える。
(ッ、これは、まずい……!!)
意識が遠のきそうになる現象は、魔力量が足りないが故のものではなく、以前魔力が暴走した際と同じ感覚……、即ち自身の魔力をコントロールすることが出来ない感覚を覚えた。
『自我を保て!!!!』
危うく失いそうになる意識の中で、凛と響いた竜の声にハッとし、慌てて身体の中で暴れ狂う魔力を鎮静にかかる。
(鎮まれ、今エメが必要としている魔力以上は分け与えるな……!)
彼女の身体を支える腕に力を込めることで何とか意識を繋ぎ止めているものの、少しでも気を抜けば意識ごと魔力を持っていかれそうになる。
下手をすれば、エメも俺も助からないかもしれないという焦りを覚え、慌てて目を瞑り邪念を振り払おうとしたその時、不意にヒヤリと冷たい何かが触れた。
「!?」
驚き目を見開けば、瞼の下に隠されていたはずの氷色の瞳と目が合った。
(エメ!!)
目を覚ました、と喜びが胸を満たした刹那、冷たい感触を帯びた何かに首を強く押され、それにより控えめに重なっていたはずの唇が形を変えるほど強く彼女の唇に押し当てられる。
「〜〜〜!?!?」
それにより、首にある冷たい感触が彼女の腕だということに気付いた瞬間、今度こそ思考回路が停止する。
その隙に、魔力が根こそぎ奪われていく感覚を覚えて……。
『やれやれ…………』
色々な意味で吹き飛びそうになった意識の中で、呆れたようなため意交じりの声が届いたと同時に、眩しいほどの光が俺達を包み込んだ。
(ッ、魔力が、回復していく……?)
『全く、火属性の魔法使いは揃いも揃って情けない。
今回だけは彼女に免じて、手助けをしてやろう』
ありがたく思え、という言葉の後、エメの身体から氷色の光が溢れ出し、パキッという音と共に光が霧散したのを視界の端で捉える。
(あ……)
目の前で見開かれたままだった氷色の瞳が、やがてはっきりとした意志を感じる光のある色を取り戻して……。
「……!!!」
パチリと瞬きをした彼女を見て、もう大丈夫そうだと判断した俺は、そっと唇を話し、自然と上がった口角をそのままに言葉を発した。
「おかえり、エメ。……君が意識を取り戻してくれて、本当に……良かった」
そう紡ぐのが精一杯だった。
なぜなら途中で涙が込み上げ、声が震えてしまうのを止めることが出来なかったから。
そんな俺に、エメは驚いたように大きく目を見開いた後、彼女もまた瞳を潤ませて……。
「ッ、ル、ルシアン、さまっ……」
「!」
そう俺の名を呼び、抱きついてきた彼女の身体は、以前とは違い確かな温かさを感じて、より一層涙が溢れて止まらなくなってしまう。
(あぁ、やっと)
「願いが、叶った」
エメを救うことが出来た。
その事実を言葉にしたことで改めて実感し、エメの身体を強く抱きしめ返した。
互いにしばらくの間そのままでいたものの、泣き止んだと同時に、はた、と我に返る。
(何かを忘れているような……)
「ッ、あ!?」
「!?」
思い至って突然声を上げた俺に驚いたのか、エメが何事かと身体を離す。
それにより、エメの腕から解放された俺は、光の速さで両手と膝を地面につけて頭を下げた。
「すまない!!!!!!」
いつもお読みいただきありがとうございます!
そして更新が遅く申し訳ございません(泣)
次話よりエメ視点に戻り、あと数話ほどで完結予定ですので、引き続き応援していただけますと幸いです…!




