助けたい*ルシアン視点
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今話よりルシアン視点でお送りいたします。
(ルシアン視点)
「エメ…………」
氷のように冷たい手を、自分の体温が少しでも伝わるようにと祈りながら握る。
ほんの少し手のひらに魔力を込めてみるが、エメの氷色の瞳は固い瞼に閉ざされたまま。
「どうして、今になって思い出すんだ……」
エメがずっと、俺を“命の恩人”だと呼んでいた理由。
それは10年前、学園時代に起きた旧校舎の火事だった。
そのことを思い出したのは、皮肉にもエメの冷え切った身体を横抱きにして運ぼうとした時。
「10年前のあの日、君を助けに行ったというのに、俺の方が助けられた。
あの時も俺を助けてくれたのは、間違いなく君の方だった……」
あの時、エメは『魔法が使えない』と俺に言った。
だが、その後すぐそれは嘘なのではないかと思うほど見事な氷魔法で炎を沈静化させただけでなく、出口までの道を作ってくれた。
そこで、初めて笑みを浮かべたと思ったら、糸が切れたようにその場に倒れ込んで……。
(あの時も、抱き上げた身体は冷たかった。あの時点でおかしいと、違和感に気付けば彼女を救えたかもしれないのに)
フラムの地へ来て無理をさせたせいで、エメは今昏睡状態に陥っている。
魔法医師に診せてもらったところ、見たことのない症例で、身体が徐々に内部から凍りついていっているのだと……、信じ難い事実に耳を疑った。
嘘であってほしいと願ったが、その旨をネージュ家に伝達すると、すぐに夜会で会ったドロテ嬢が駆けつけ、怒りを露わにしながらエメの身に起こっている真実を詳細に明かしてくれた。
(俺とよく似た寿命を縮めていく“魔力過多症”だと診断されたのが10年前。つまり、出会った時エメが魔法を使えないと言った原因も、そのショックが大きかったからだったのだと……)
だが、十年もの月日が経ち、俺の元へやってきたエメは悲壮感などおくびにも出さず、至って元気な姿で俺の元へやってきた。
俺と同じ体質であるならば相当身体は辛かっただろうに、弱音の一つも吐くことがなかったのだ。
だから、鈍い俺は全く気が付かなかった。
十年前に出会った儚げな少女と彼女が、同一人物であることを。
「どうして……ッ、せめてそのことに気が付いていれば、もっと早く手を打てたかもしれないのに……ッ」
思い返せば、命の恩人であるエメに対して、自己中心的な発言ばかりしていた。
自身の特異体質を悲観して、契約結婚を持ちかけて。
それでもエメは、呆れることなく受け入れてくれて。
その優しさの裏で、エメもまた体質に苦しんでいたと思うと、やるせない思いが込み上げる。
エメをかけがえのない存在だと自覚して浮かれ、こんなことになるまで気が付かなかった自分に。
(……俺にはエメを、救えないのか?)
絶望で目の前が暗くなりかけた、その時。
『それはお前次第だ』
「……!」
頭に直接語りかけるように、低く威厳のある声が耳に届く。
初めてのことだというのに、その声の正体が何かがすぐに分かり、ハッとして窓の外を見やる。
「ッ、もしかして、この前の……!」
『あぁ、そうだ。子竜を救ってくれた命の恩人である人間の危機を感じた。今度は我々が力を貸そう。その娘を連れて、我の背に乗るが良い』
「……ッ」
突然現れた火竜の思いがけない申し出に息を呑む。
だが、迷っている場合ではない。
人間よりもずっと長い時を生きるという竜ならば、彼女を助ける方法を知っている。
何より、竜と意思疎通を図ることができ、信頼関係を築いている彼女なら、迷うことはないだろう。
そう思った俺は掛布を彼女の身体に巻き付け、そのまま横抱きにすると、バルコニーへと出る。
それにより、火竜の後ろにいた子竜の存在に気付く。
「……そうか。君も彼女を助けてくれるんだな」
俺の言葉に子竜が高く鳴く。
その誇らしげにも見える表情に小さく笑みを浮かべ、気を引き締めると、二頭の竜に向かって頭を下げた。
「彼女を……、エメを宜しくお願いします」
そう告げると、親である火竜の背に乗り込んだ。
火竜の背に乗り連れて来られた場所は、何もない開けた地だった。
火竜はそこで俺達を下ろしてから言った。
『誰の目にも触れぬよう、周囲に結界を張った』
「ありがとうございます。……それでは、貴方の知恵をお貸しください。エメはどうすれば助かるのでしょうか?」
魔法医師にはなす術がないと言われたエメを助ける方法が知りたい。
藁にもすがる思いで尋ねると、火竜はじっと俺を見下ろして言った。
『お前ならば知っているはずだ。彼女はどうやってお前を助けた? お前が勘付いている通り、彼女もまたお前と同じ体質だと言ったら』
(エメが俺を助けた時……)
身体中の魔力が沸騰するように熱く、朦朧とする意識の中で、彼女が触れた場所から伝わる氷魔法が、冷たく気持ち良くて……。
「…………ッ」
そこで思い出す。
炎の中、エメが抱きしめてくれただけに飽き足らず、彼女の唇まで奪ってしまったことを。




