過去-②
「何をしていると聞いているんだ、そこの氷属性使い」
そう尋ねてきた男性の姿を見て、私は呆然としてしまう。
(……これは、夢? 金色の髪も紅の瞳もとても綺麗……。まるで、神様みたい)
「無視とは良い度胸だな」
「ッ」
ヒュッと息を呑む。
気が付けば、思ったよりもその人の顔が近くにあったからだ。
「ここで何をしていると聞いているんだ。死にたいのか」
苛立ったように尋ねられ、ようやく我に返った私が思い至って尋ね返す。
「……もしかしなくても、私のことを助けに来てくださったのですか……?」
「あぁ、もしかしなくてもだ。炎属性使いが魔法を暴走させ旧校舎を燃やした挙句、氷属性使いの一人が行方不明だと。しかも双方一年生と来た。今年の新入生はどうなっている」
「も、申し訳ございません……」
「全くだ。おかげでこのままでは俺達二人まとめて死ぬ」
「……え!?」
思いがけない言葉に私は素っ頓狂な声を上げる。
目の前の男性は、私の隣で無造作に前髪をかきあげ、息を吐いた。
「この火の回りでは君は助からない、と助けに行くのを止められたんだが。生徒が一人残っていると知っていながら見捨てたら、目覚めが悪いだろう」
「ここまでは、どうやって」
どう見ても周りは炎に包まれている。私達がいる教室は3階で、先ほどまで男性が立っていた場所はすでに炎の中だった。
だから、純粋に疑問に感じたのだ。
「君は質問ばかりだな」
「す、すみません」
「……俺は火属性だ。火にはある程度の耐性がある」
「凄いですね……」
私とは大違いだ。
こんな状況の中で助けに来てくれたというのに、立ち止まっている自分と比較して勝手に虚しさを覚える。
(最悪ね……)
「あくまで普通の魔法使いや火属性使いよりも耐性があるだけで不死身ではない。このまま炎の中に居続ければ、火だるまになって終わりだ」
「あ…………」
そこで初めて、私のせいでこの人の人生も巻き添えにしてしまうという事実に気付く。
(……それは、駄目。私は自業自得かもしれたいけれど、この人は違う。こんな私を助けに来てくれたんだもの)
私を見捨てることなど出来たはずだ。
それなのに、音を立てて激しく燃える炎の中を助けに来てくれた。
今私に、出来ることがあるのだとしたら……。
「……今、訳あって魔法が使えないんです」
「え?」
ポツリと呟いた事実は、家族やお医者様以外に誰も知らない、私の秘密。
そんな秘密を、名前も知らない、どこの誰かも分からない、見ず知らずの私を助けに来てくれたこの人にだけは、教えなければと思った。
この人の誠実さに、少しでも向き合えたら。
そう思いながら、ゆっくりと立ち上がり、炎を見据える。
「だから、上手くいくかは分からないんですが。
貴方が見守ってくださっていたら、私、魔法が使える気がします」
「魔法って……、何をする気だ?」
見ていなくても分かる。私を助けに来てくれたその人は、困惑していた。
無理もない。私達がいる場所以外はすでに火が回っているとすると、旧校舎中に燃え広がっているということになる。
その中で魔法を使うのは、はっきり言って無謀だ。
(けれど、本来の私の力があれば)
「私の力で、逃げ道を作ります。私がたとえどうなったとしても、貴方だけは逃げてください」
「……は」
「どれだけ持つか、どれだけ出来るかは分かりません。ですが、私を助けようとここまで来てくださった貴方を死なせたくないから。
私は、自分に出来る全てをかけます!!」
迷いはなかった。
“魔力過多症”と診断され、魔法が使えなくなってから約半月もの間、微塵も魔法が使えなかったというのに、今は、身体中から力が湧き上がってくるのを感じる。
(あぁ、この感覚)
よかった。これなら、この人を救うことが出来る。
私は目を閉じてから深呼吸すると、両手を前に翳して……。
「“凍れ”」
目を開いたと同時に、そう強い口調で命じた。
すると、私の身体を中心に、漲っていた魔力が一気に放出され、私達を取り巻く全てが一面氷の世界に包まれていく……。
「……凄い」
ポツリと聞こえたその声の主に目を向け、私は笑みを浮かべてみた、けれど……。
(ごめんなさい。お礼を言いたいのに、酷く眠い……)
「おい、おい! しっかりしろ!!」
薄れていく意識の中、倒れ込んだ私の顔を覗き込む印象的な紅の瞳が、宝石のように綺麗だと思ったのを最後に、私の世界は暗転した。




