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恩返しのために契約結婚したはずが、溺愛されている気がするのですが…?  作者: 心音瑠璃


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3/15

恩返しがしたいんです!

「契約結婚……?」


 思わず尋ねた私に、ルシアン様は「あぁ」と返し、言葉を続ける。


「元々この婚姻は、俺ではなく元フラム辺境伯夫妻……、つまり、俺の両親が俺の知らないうちに勝手に取り決めたものだ。

 俺自身は、生涯妻を娶るつもりはなかった。

 なぜなら俺は、身体の内に秘めた有り余る炎魔法が定期的に暴走し、我を忘れて魔法が暴発してしまう特異体質があるからだ」

「! 特異体質……」

「そうだ。しかも、その特異体質は年々酷くなっているらしく、ゆくゆくは我が身を燃やして命を落とすと言われている」

「そんな……!」


 初めて知った。天才と呼ばれるルシアン様に、命を脅かすような体質が存在しているなんて。


「な、何か方法はないのですか!? ルシアン様の体質が治る方法は」

「今現在調査中だが、前例がない症例だからもう諦めている。俺はそう長くない内に、自身の魔法に飲み込まれて死ぬだろう」

「っ……」


 淡々と紡がれる衝撃的な言葉に、私は絶句し、視界がぼやける。

 滲んだ視界の先で、ルシアン様は心底驚いたように目を見開き、口にした。


「なぜ、君が泣くんだ」

「っ、だって……、私を含め、皆を守るために戦い、命を救ってきたルシアン様が、なぜ、そんな酷い目に遭わなければいけないのかと思って……」


 酷い。酷すぎる。神様は皆に平等だと言うけれど、ルシアン様に対する仕打ちは、あまりにも残酷だ。

 そう思うと、悔しくて悲しくて涙が止まらない私に、ルシアン様は言った。


「泣いても無駄だ。何も変わらない。よって、君が泣く必要はない」

「……っ」


(……そう、よね)


 ルシアン様は泣いていない。自身の運命を受け入れ、覚悟している。

 そんな人に対して、勝手に気持ちが分かったように、同情したような気になって泣くだなんて失礼だ。

 私は指先で涙を拭うと、もう泣かないと決め、意を決して顔を上げる。

 そして、ルシアン様に向かって切り出した。


「……契約結婚」

「え?」

「ルシアン様が仰る“契約結婚”をすれば、私もルシアン様のお力になれるのでしょうか?」

「!」


 ルシアン様が目を瞠る。私は今度こそ、ルシアン様のルビー色の瞳をじっと見つめた。


(助けたい。私を助けてくれたルシアン様に、恩返しがしたい。そのために、私は家族の反対を押し切ってここまで来たのだから)


 たとえ、私を助けたことをルシアン様が覚えていなかったとしても、私は、助けていただいたあの日から、一日たりとも忘れたことはない。

 だから今度は、私の番だ。


「ルシアン様のお力になれるのなら、私、何でもいたします。それに、元よりそのつもりでルシアン様の元へ参りましたから、遠慮はご無用です」

「……何でもって、君」

「本気です」


 私の気持ちを知ってもらいたくて、ルシアン様の言葉に被せ気味に口にした私に、ルシアン様はやがて長く息を吐くと言った。


「……君は、突拍子もないことをすると言われたことはないか?」

「よく言われます」

「……そんな簡単に安請け合いすると、俺みたいなやつに引っかかるぞ」

「大丈夫です。それを言うなら、十年前からとっくに引っかかっておりますから」

「! …………」


 ルシアン様は気まずそうな顔で目を逸らす。

 今日この一晩だけで、すでに色々な表情を見れている気がする、と頭の片隅で考えながら、ルシアン様の言葉をじっと待っていると。


「君が契約結婚に賛成してくれると言うのなら、こちらとしてもありがたい。

 その代わり、君からも、もし俺に要望があったら言って欲しい。出来る限り何でも叶えると約束しよう」

「っ、な、何でもっ!?」

「あ、あぁ」


 ルシアン様の頷きに、私は喜びかけてから、ふと思い当たってぶんぶんと首を横に振った。


「だ、駄目ですよ!?」

「なにが」

「『何でも』なんて言っては! ルシアン様がそんなことを言った暁には、世の女性の皆様がどう思うか……っ」

「……君も同じことを、つい先ほど俺に向かって言っていたじゃないか」

「それとこれとは別です!」

「なぜ別なんだ……。まあ、良い。それで、君からの要望は何かあるだろうか?」

「要望……」


 ルシアン様からの問いかけに、思考を巡らせる。

 けれど、なにも思い当たらず、正直に口にした。


「特にございません」

「ない?」

「はい。それに、私が長年抱えていた唯一の願いこそ、『ルシアン様に恩返しをすること』。

 ですので、契約結婚がルシアン様のお力になれると言うのなら、それが本望です!」


 迷いなく言い切った私に、ルシアン様は目を丸くした後、前髪をかきあげながら言った。


「なぜ、そこまで……、いや、そう言ってくれるのなら、お言葉に甘えさせてもらおう」


 ルシアン様は息を吐くと、長い指を二本立てて言葉を発した。


「俺から提示させてもらいたい契約は大きく分けて二つ。

 一つは、互いの間に恋愛感情を持ち込まないこと。

 そして、もう一つは……、次に俺の魔力が暴走した際は、君に俺を殺してほしい」

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