お姉様との再会
「……! おねえ、さま……」
私にはない色気を放つ美貌をお持ちのお姉様。
その美貌により、迫力が数段増しているお姉様は、笑みを湛えて言った。
「……なぜ、今まで社交の場に出なかった貴女がここにいるのかしら?」
「ひぃ……」
(間違いなくこれは怒っているわ……!)
とは言っても、お姉様が怒るのも無理はない。
お母様がいない私にとって、お姉様は私のお母様の代わりを務めてくれていたから、お姉様に逆らったことなど今まで一度もなかった。だけど、今回は……。
「質問を変えるわ。なぜ、私との約束を破って夜会へ参加しているのかしら?
私は貴女を、そんな子に育てた覚えはないわ」
約束。それは、ルシアン様と結婚する前、ドロテお姉様と交わした約束のこと。
ルシアン様との結婚を反対していたお姉様を何とか説得して、最終的にお姉様の方から提示された『約束』を守ることを条件に、私は結婚を許された。
そして、その『約束』の中には、確かに『夜会に参加しない』という条件が含まれていた……。
「……まさか、フラム辺境伯様から脅されたのではないでしょうね?」
「……えっ!?」
どうしたらお姉様の怒りを鎮められるか、返答に悩んでいるうちにとんでもない誤解をしだしたお姉様に、慌てて口を開く。
「ち、違います違いますそれは誤解です!! むしろルシアン様は無理をしなくて良いと止めてくださったんです!!」
「結果的には無理をさせているじゃないの。今日だって顔色が悪い……。
まさかとは思うけれど、貴女フラム領で氷魔法を使っているのではないでしょうね?」
「……ッ」
完全な不意打ちの質問に息を呑む。
それを是と捉えたお姉様は、より一層眉を吊り上げ声を荒げた。
「エメ! 貴女自分が何をしているのか分かっているの!?
フラム領という真反対の属性の地に嫁いだ挙句、魔法を行使するなんて自殺行為よ!?
その上貴女の身体は」
「やめて!!!」
その後に続く言葉を言わせまいと遮り、言葉を続けた。
「それ以上言わないで……」
慌てて止めた私に、お姉様は今度こそ驚愕する。
「……あなた、もしかしなくても辺境伯様にあのことを話していないと言うの……?」
「…………」
お姉様の核心をつく言葉に、何も返答出来ずにいた、その時。
「遅くなってすまない」
「!」
かけられた言葉とふわりと肩に訪れた温もりに、心も身体も冷え切っていたことに初めて気が付く。
「ルシアン様……」
ルシアン様の姿を捉えた瞬間安堵したもののハッとする。
(まさか、今の会話を聞かれて……っ)
内心焦りを覚えるけれど、今は初めて顔を合わせるお二人の紹介をしなければ、と自分を叱咤し声を上げる。
「ご、ご紹介いたします。こちらが私の姉であるドロテお姉様です」
私の言葉にドロテお姉様は頷くと、優雅に淑女の礼をして言った。
「お初にお目にかかります、フラム辺境伯様。
私がエメの姉であるドロテと申します。宜しくお願い致しますわ」
ドロテお姉様が手を差し伸べる。
ルシアン様はその手を握り、ほんの少し笑みを浮かべて言った。
「こちらこそ」
今宵の夜会で、色々な人に対するルシアン様の立ち居振る舞いを見てきたけれど、今が最も丁寧な所作に見えて、思わず見惚れてしまう。
「エメ?」
「!」
ルシアン様に名前を呼ばれたことでようやく我に返った私は、慌ててルシアン様の紹介をと言葉を発する。
「お姉様、こちらがルシアン・フラム辺境伯様です」
「えぇ、存じ上げておりますわ」
お姉様の声音には、ヒヤリとしてしまうような棘が含まれていた。
それは気のせいではなかったようで、お姉様は息を吐くと口にした。
「……エメはこう見えて体調が優れないようです。隠すのが上手で無理をしてしまう子なので、呉々も気を付けて見てあげてくださいませ」
「お姉様! 申し訳ございません、ルシアン様。お姉様は少々過保護なところがあるので、どうかお気になさらず」
「……いや」
ルシアン様は胸に手を当て、お辞儀をして言った。
「ご忠告、痛み入ります」
「ルシアン様……?」
そう返答したルシアン様の様子がいつもとは違うように感じ、ルシアン様の顔を覗き込んだ私の姿を紅の双眸が捉えた、刹那。
「キャッ!?」
またもや不意打ちで……、それもお姫様抱っこという圧倒的心臓に悪い状況に一瞬にして置かれ、頭が真っ白になる私をよそに、ルシアン様はお姉様に向かって口にした。
「仰るように、彼女の体調が優れないようですのでこちらで失礼いたします。エメ、挨拶を」
「あっ……、し、心配しないでね、お姉様。私は大丈夫だから!」
「……エメ」
お姉様は何か言いたげだったけれど、グッと言葉を呑み込み、代わりに違う言葉を発した。
「無理は禁物よ。身体を大事にしてね」
「はい」
こうして、お姉様との久しぶりの再会を最後に、私達は夜会会場を後にしたのだった。




