これからも
「……契約結婚のことだが。終わらせるのではなく、継続してもらえないだろうか」
「え…………」
思いがけないルシアン様の発言に驚きすぎて言葉が出てこない私に、ルシアン様は続ける。
「身体が軽くなったとはいえ、この体質が完全に治癒したかどうかは分からない。
もしまた魔力が暴走するようなことがあったら、今度こそ命を落としかねないだろう」
「そんな……」
全くないとは言い切れない。
ルシアン様は以前、特異体質は年々酷くなる一方だと言っていた。
(もし、また同じように魔力暴走が起きてしまったとしたら……)
この前より酷い状況に陥りかねない。そうしたら、ルシアン様は……。
「すまない、エメ。そんな顔をさせるつもりはなかった」
ハッと肩に手を置かれたことで我に返ると、ルシアン様が申し訳なさそうに私の顔を覗き込んでいて。
そうして言葉を続けた。
「言い出した俺が悪いが、気にしなくて良い。先ほども言った通り、君に助けてもらってから体調が良い。
今も、こんなに身体が軽く感じるのは、生まれて初めてだ」
「そんなに酷かったんですか……?」
「自分でも酷いとは思っていなかったがな。生まれた時からそれが当たり前のことだったから。
だが、あの日エメに助けてもらった時から身体が軽くなったのは間違いない。
……今も、君の魔力が身体の中で息づいているような気がするんだ」
「……ッ」
(ま、ままま待って。それは、もしかしなくても……)
やっぱりルシアン様は、助けた日のことを覚えている?
不自然に私が黙り込んでしまったことで、居た堪れない空気になる。
ルシアン様はそれに気付いているのか気付いていないのか分からないけれど、「とにかく」と言葉を発した。
「俺は君との契約の継続を望んではいるが、君の負担にはなりたくない。……なんて、君は優しいから、俺がこんなことを言ったら君の足枷になってしまうだろうか」
「足枷だなんて思ったことはありません!」
「!」
ルシアン様の自嘲めいた発言を否定しようとした言葉は、意図せず大きな声となって私の口から飛び出す。
それに気付き恥ずかしくなった私は、慌てて声を顰めて口にした。
「……ルシアン様との契約結婚を、足枷だなんて思ったことはありません。
先ほども申し上げた通り、私はルシアン様と契約結婚することが出来て幸せです」
「……エメ」
(そうだわ。もし、ルシアン様が十年前に私を救ってくださらなかったら。
前辺境伯様方が私に結婚の打診をしていらっしゃらなければ。
ルシアン様から契約結婚をご提案されなければ……、こうしてルシアン様に名前を呼ばれることもなかったんだわ)
何ひとつ、失ってはいけない。失いたくない。
少なくとも、今私がここに立っていられる間は、そう願うことが許されるのだろうか。
私は息を吐くと、ルシアン様に向かって言葉を紡いだ。
「……よろしいのですか」
「え?」
「まだ、私はここにいて。契約の継続を望んでもよろしいのですか」
「……ッ」
ルシアン様の顔が歪む。
なぜそんなお顔をなさるのだろうと不思議に思う私に、ルシアン様の手が伸びてきて……。
「!」
頬に触れた手が目元を拭う。
そこで初めて自分が泣いていたことに気が付く。
そんな私と目を合わせたルシアン様もまた、泣きそうな顔で言葉を発した。
「よろしいも何も、これからも君がいてくれたら俺は嬉しい」
「……ッ」
今度こそ、ルシアン様を中心に視界が滲む。
(あぁ、駄目だわ。私、どんどん我儘になっていく)
ルシアン様と出会ってからは、困るくらいに自分の感情に制御が効かない。
今だって……。
「ッ、ごめんなさい、ずっと、泣いてばかりで」
「いや。泣くのは悪いことじゃない。……以前無駄だと言った俺が言うのも説得力に欠けるが、泣くのには意味がある。君と過ごす日々の中でそれを教えてもらった」
だから、とルシアン様は両腕を広げて微笑んだ。
「君が泣き止むまで、そばにいる」
「……!」
(そんなことを言われてしまったら。私はその優しさに甘えて、どんどん欲張りになってしまう……)
駄目だと分かっていても、抗えずに泣きついた私を、ルシアン様は先ほどと同じように、だけど、先ほどよりも近すぎる距離で、頭を撫でてくれる。
その温かさに包まれながら、私は願ってしまう。
―――どうか、この時間が少しでも長く続きますように、と。
ブクマ登録や評価、いいね等での応援、お読みいただきありがとうございます!




