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契約結婚なので、溺愛しないでください  作者: 心音瑠璃


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23/27

契約妻の決断

「……落ち着いたか?」

「はい、おかげさまで。ありがとうございます」


 ルシアン様は、私が泣き止むまで頭を撫でてくれた。

 そのため、再度お礼を言うと、ルシアン様の手が私の頭から離れる。


(……あ)


 無意識のうちに、その手を目で追ったことで、バチリとルシアン様と視線がぶつかった。


「……ッ」


 思わず息を呑んだ私を見て、ルシアン様は首を傾げる。


「どうかしたか?」

「い、いえッ……」


(ど、どうしてこんな時に思い出すの……!?)


 ルシアン様のお顔を見て思い出した。

 ルシアン様の魔力が暴走した時、炎の中でルシアン様に、私は……。


「……顔が赤いぞ? 熱が出たか?」

「い、いえ!? 本当に大丈夫なのでどうかお気になさらず!!」

「……そうか」

「は、はい!」


(お願いです、ルシアン様。これ以上突っ込まないでください! それから、早くこのドキドキよ治まって……!!)


 そう願いながら、ふと疑問に思う。


(そういえば。ルシアン様は炎の中で目が虚ろだったわ。ということは、あの時のことは、覚えていらっしゃらない……?)


 その方が良い、と思う反面、なぜだか残念に思ってしまう。

 そんな自分に一番戸惑いを覚えて……。


「そういえば」

「ひゃいッ!?」


 ルシアン様に不意に声をかけられ、思案していた私の声がひっくり返る。

 そんな私の反応にルシアン様は目を丸くした後、小さく笑って言った。


「また驚かせてしまったようだな。すまない」

「い、いえ、こちらこそ、大変失礼いたしました」

「失礼なことではないから気にするな。……それよりも、君が助けてくれたおかげであれから頗る体調が良い」

「ほ、本当ですか!?」


 ルシアン様の言葉に、つい前のめりになって聞き返した私に、ルシアン様は笑いながら頷いた。


「あぁ。魔力暴走を頻繁に起こしていた時は、常に身体が熱く重く感じていたが……、君が氷魔法で俺を助けてくれた後、君と共に気絶するように眠って目を覚ました時から、身体が嘘のように軽くなった」

「よ、良かった……」


 ルシアン様の晴れやかな言葉と表情に、また止まったはずの涙が溢れ出しそうになる。

 それをなんとか堪える私を見て、ルシアン様は吹き出した。


「なんの顔なんだ、それは」

「な、泣かないようにしているんです。ルシアン様を困らせたくないから」

「困ることはないが……、そうだな。泣くなら、俺の前だけにしてほしいと思うことはある」

「……へ?」


 ルシアン様の言葉に、思わず目を瞬かせる。


(……それは、どういう意味?)


 聞こうと思ったけれど聞けなかった。

 ルシアン様の表情が、今までに見たことのないほど柔らかな表情をしていたから。

 その表情に一瞬息を呑んだけど、ハッと我に返り、慌てて視線を逸らすように目線を下に向け、話を変える。


「でも、本当によかったです。ルシアン様をお救いすることができて。お身体が軽くなったということは、もうこの先魔力暴走を起こすこともない、ということですよね。

 そうしたら、契約の内である私の役目は、もうこれで終わりですね」

「え……」


 ルシアン様が驚いたように声を上げる。

 私は意を決して顔を上げ、ルシアン様に向かって努めて明るく言葉を発した。


「おめでとうございます、ルシアン様。特異体質が治って本当によかったです」

「ちょ、ちょっと待て」


 ルシアン様が焦ったように、話を続けようとした私の言葉を遮る。

 本当は後に続く言葉を聞きたくなかったけれど、ルシアン様の言葉を遮る真似はしたくないため、話を聞くために口を閉ざした私に向かって、ルシアン様は整理するように尋ねた。


「……要するに、君は俺との契約結婚を終わりにしようとしている、ということか……?」

「はい。私に出来ることは、もうこれ以上ないと思うので」

「!」


 ルシアン様は今度こそ目を見開く。

 絶句したようなその表情に、私はギュッとルシアン様からは見えないように両手の拳を握った。


(元々この契約結婚は、ルシアン様の特異体質があったからこそのもの。契約とは違って、殺さずに救うことが出来たのだから、私としては本望だわ)


 願わくは、もっとルシアン様といたかったけれど。

 もしこの先、少しでもルシアン様と同じ時を過ごすことになったら、きっと私は、契約に反して今度こそ離れがたくなってしまう。

 その前に……。


「契約結婚を終わりにいたしましょう」


 そうはっきりと口にした、その時。


「……今の話はなんだ?」

「「!!」」


 不意に届いた別の声に、私とルシアン様は同時に声が聞こえてきた方を見やる。

 そこにいたのは。


「……ご両親様……」


 険しい表情を浮かべる、ルシアン様のご両親である前辺境伯ご夫妻の姿があった。

 そして、ルシアン様の奥様である夫人が静かに告げる。


「“契約結婚”という言葉が聞こえてきたけれど。

 どういう意味なのか、きちんと説明していただけるかしら……?」


 その言葉に、私の背中をおびただしい量の冷や汗が伝うのを感じた。



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