事件の真相
「ん……?」
微睡の中。ふわりと身体が浮いた感覚を覚え、そっと目を開けると……。
「起こしてしまったか。すまない」
ぼやけた視界の先で真っ先に目に飛び込んできたのは、紅の瞳。それがルシアン様のものだと気付いた時には、視界が鮮明になり、ルシアン様の顔が間近に飛び込んできて……。
「……ッ、う、ぇ……!?」
「そ、そこまで驚かせるとは思わなかった。すまない。ただ、長椅子で寝ても疲れが取れないのではないかと思って……」
「……あ」
ルシアン様に指摘され、視線を長椅子に向けたところで思い出す。
「そうでした、私、あの後どうなったかが気になってルシアン様を待っていて、そのまま眠ってしまったようです」
「そうか。すまない、一番の功労者である君に報告が遅れてしまい」
「いえ! ルシアン様が何度もお謝りになることでは……! そもそもあの場で私に出来たのは、犯人の行動を封じただけなので」
そう、私が氷魔法で犯人を戦闘不能にしたあの後、私達の後をついてきていた前辺境伯様をはじめ、騎士団の方々の手であっという間に犯人は強制的に連行された。
ルシアン様は私と共に再び竜の背に乗り、邸まで送り届けてもらってから、その後の後始末をするからと言って執務室へと向かわれたのだ。
「あれからお休みになられていないですよね……?」
「!」
ルシアン様の目元に色濃い隈が出来ていることに気付き、思わず手を伸ばした瞬間、その手が触れる前にルシアン様が思い切り顔を逸らす。
「あ……」
そこでようやく、私も馴れ馴れしい真似をしてしまったと後悔の念に苛まれながら謝る。
「も、申し訳ございません。不躾な真似をしてしまって」
「そ、それは……ッ」
ルシアン様と再度視線が合い、その瞳に私が映り込んだかと思うと、ルシアン様は間を置いてから口を開いた。
「……とりあえず、話をするために君を下ろしても良いだろうか」
「は、はい。もちろんです。ありがとうございます」
ルシアン様は頷くと、私を長椅子に座らせるように優しく下ろしてくれる。
そして、ルシアン様もまた向かいの席に座ると、話を切り出した。
「君も気になっていたであろう結論から単刀直入に言うと、犯人は、俺達が以前から目をつけていた盗賊団の一味だった。
目的は、他国に竜の子や卵を売りつける密売。同時に、クラルテ王国の反乱分子だ」
「竜の子や卵を他国に? なぜそんな酷いことを」
「……奴らは竜を、戦争の道具として見ている」
「! ……そ、れはつまり、竜を武器に戦争を起こそうとしている、ということですか……?」
ルシアン様が頷いたのに対し、私は思わず口元を手で押さえた。
「ひどい……」
思い起こされるのは、今日保護して親元に返した竜の子だった。
傷はつけられていなかったようだけれど、まだ私より小さな身体をした竜は、怯え切った瞳で私達人間を見上げ、その身体を震わせていた。
(私達に助けを求めてきた母竜を見て、安心していたようだったけれど……、そんな子供達を捕まえて、まさか人間の汚い私利私欲のために利用しようとするなんて)
ギュッと両膝の上で拳を握りしめる。
そんな私に、ルシアン様は気遣わしげに言った。
「本音を言えば、疲れている君に今日報告すべきか迷ったのだが。君のおかげで子竜を救えただけでなく、竜との不可侵条約を守ることも、他国との戦争を避けることも出来たのだ。
辺境伯家当主として、心からの謝意を示そう。
ありがとう、エメ」




