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恩返しのために契約結婚したはずが、溺愛されている気がするのですが…?  作者: 心音瑠璃


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契約夫婦の在り方

「明日、前辺境伯夫妻がいらっしゃる!?」


 朝。私の髪を梳かしてくれていたアンナから告げられた言葉に驚き反芻すれば、アンナは冷静に頷き説明してくれる。


「そのため、ルシアン様の命によりエメ様との結婚が契約で結ばれていることについては緘口令が敷かれております。なんでも、前辺境伯夫妻は厳しい方々のため、もしエメ様との結婚が契約だと悟られてしまえば、容赦なく離婚させられてしまう可能性があると」

「り、離婚!?」

「はい。それから、もし契約結婚だと勘付かれるような言動をした場合は、どんな者でも屋敷から追放だとも仰せつかっております」

「追放……!」


(ということは……、もし私自らバレるようなことをしてしまったら、ルシアン様と一緒にいられなくなってしまう!?)


 せっかく命の恩人であるルシアン様のお側で恩返しが出来る最初で最後の機会を、前辺境伯夫妻自ら恵んで頂けたというのに……。


「……それだけは嫌」

「え?」

「まだ何も出来ていないのに、ルシアン様とお別れしたくない」


 少なくとも、ルシアン様が抱えている“特異体質”が完治するのを見届けるまでの間だけは。


「ここにいたい」

「!」


 自分の為すべきことを再確認し、俯き加減だった顔を上げると、鏡越しにアンナと目が合う。

 そのアンナに向かってはっきりと告げた。


「本日中にルシアン様とお話をさせて頂けるよう、取り次いでもらえるかしら?」





「というわけで、作戦会議をいたしましょう! ルシアン様」


 私が拳を握りしめそう口にしたのに対し、ルシアン様は少し眠そうに答える。


「……今何時だと思っている」

「深夜です!」

「深夜でも元気なんだな」

「明日……、いえ、もう本日ですが、ルシアン様のご両親でいらっしゃる前辺境伯夫妻がご来訪されると思うと、緊張で眠れそうにないので」


 そう正直に告げたと言うのに、ルシアン様は「君でも緊張することがあるんだな」と多分褒められていないだろう発言をされたけれど、そもそも現在進行形で緊張しているからこそのテンションだったりする。


(だってまさか、ルシアン様と深夜に二人きりの寝室で作戦会議をすることになるとは思わないもの……!)


 日中は公務でお忙しかったルシアン様が指定して来た時間は、なんと日付が変わったこの時間だったのだ。

 しかも、夜遅いがためにお互いに寝る支度を整え、それぞれの自室から続いている寝室に集合となるとは。


(とはいえ、ルシアン様はローブではなくシャツ姿だし、私も夜着ではあるけれど羽織ものもバッチリ着込んできたし……、そもそも契約結婚を持ちかけられたあの時だって同じような状況だったのだから)


「エメ、眠いのか?」

「はひぃ!?」


 不意に名前を呼ばれ、ようやく思考の海から帰って来たのは良かったものの……。


(名前の呼び捨てに加えてはだけたシャツから覗く胸元が色気がありすぎて破壊力が凄い!!!)


 と変態ではないはずの自分にあるまじき思考に、変な汗をかいてしまう私をよそに、ルシアン様は口元を手の甲で抑えて吹き出す。


「……ッ、『はひぃ!?』って……、どこから出しているんだその声は」

「す、すみません……」


 さすがの私も恥ずかしさに身悶えていると、ルシアン様はコホンと一つ咳払いしてから言った。


「話を戻さなければな。それで? 作戦会議というからには、君には何か案があるのか?」

「は、はい! あの、これは本日の前辺境伯ご夫妻のご来訪だけでなく、今後どなたかにお会いした際にも言えることなのですけど……、ルシアン様と私がどんな夫婦なのか、設定を考えておきませんか?」

「設定?」

「はい」


 私は頷くと、日中アンナと相談して考えたことを口にする。


「最初に二人でお互いのことのすり合わせをしておかないと、綻びが出てしまうと思うのです。たとえば、互いの趣味嗜好の把握や共に過ごした思い出や距離感とか」

「……それが、夫婦の設定であると?」

「はい。その場しのぎよりも、前もって二人で設定を作った方が動きやすいのではないかと思いまして」


(主に私がボロを出して、ルシアン様の足を引っ張りたくないというのもあるけれど……)


 受け入れてくれるかしら、とルシアン様の様子を見る私に、ルシアン様は顎に手を当て「なるほど」と言った。


「確かに、一理あるな。俺と君とでは思考回路がまるで違う。君と話していると、俺にはない視点ばかりで戸惑いを覚えるが、それはそれで悪くないどころか面白いと思っている」

「……へ?」


 ルシアン様の発言に思わず間抜けな声を出してしまった私に、ルシアン様もまたハッとしたようにまた一つ咳払いした後言った。


「とりあえず、君の言う通り夫婦としての設定を予め考えておいた方がよさそうだ。とはいえ、俺よりも君の方がこのような設定を考えるのは得意と見えるから、君の意見を参考させてもらっても良いだろうか?」

「は、はい! もちろんです!」


(い、言えない……。私のそう言った知識は全部物語だけだということを!)


 せめてここにアンナがいれば……と思ってしまいながらも、ルシアン様に頼られているのだからと、与えられる質問にひたすら答えながら、二人で夜が更けるまで私達契約夫婦の在り方を手探りで模索し続けたのだった。

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