灰原の観察眼
「……多分、とか、思います、とか……そんな表現って好きになれないな。」
ウリュウが厳しく言い捨てる。
「俺は逆に、断定するのが怖いたちでして……あれかな、若さ故の柔軟さがいけないのかも!」
「ねえリリア、僕こいつ嫌い。」
ウリュウは灰原さんを指さしながら言う。
(この2人、相性悪そうね……)
私はそれを見て苦笑するしかなかった。
「でも俺の多分は根拠強めの多分、確率で言うと8割くらいなんで。信じて欲しいなぁ〜、他に……凛太郎さんに近い人物も思い当たらないでしょ、お兄さん……違うか。
ブラックホール団のボス、ウリュウさん。」
図星を突かれ、黙り込むウリュウ。
確かにそうだ、凛太郎の動向を追いたいとなった時、1番情報を知っているのは元々仲間だった灰原さんだろう。
裏を返せば、凛太郎は極力人を頼らない。灰原さんの他に裏で凛太郎が何をしていたかを知る者はいないのだ。
「……確かにね。それで?灰原君。君って何しに来たのかな。」
ウリュウが尋ねると、灰原さんは笑顔で「俺、凛太郎さんの仲間だったんですけど、急に切られちゃって……このままだと凛太郎さん、死んじゃいそうなんです。彼を助けるのにあなたがたの力を借りたい。」
と口にした。
「なんでそこでブラックホール団?……ああ、君って確かやっちゃいけないことして禊の最中なんだっけね。若葉ちゃんが言ってた。」
緑川が茶化すように言うと、灰原さんは眉を下げる。
「ヒーローたちに助けを求めても信用されないかもしれない。でも、ブラックホール団なら味方してくれるかもしれないと思った、と。舐められたもんだね、そんなに僕たちって甘く見える?」
威圧的に言い放つウリュウに対し、灰原さんは落ち着いた様子で「いいえ。」と答えた。
「……でも、力を借してくれそうな根拠はありました。エリヤさんがあまりにもリリアを嫌うものだから、俺調べたんです。リリアは小暮エリヤの妹、なんでしょ。」
私は驚き、灰原さんを見る。
……しかし、「何故わかったのか」と言える程のことでもない。
私とエリヤは顔が似ているから、血縁関係だと疑うのは自然なことだ。
「あ、皆さんの反応的にビンゴなんだ。それで思ったんです、エリヤさんはブラックホール団と敵対していた時代からヒーロー本部に勤めている。つまり、裏切り者であるはずだ。
当然リリアも『裏切り者の妹』として見られたはず。」
「まあ……そう、ね。昔はそうだった。」
「そんな彼女を、ウリュウさんは『婚約者』として受け入れている。この週刊誌によれば?あなたっていいお家の出なんですね。別にわざわざ金持ちと結ばれる必要もないくらい。」
「……『お兄さん』なんて白々しい呼び方してた割に、しっかり勉強してるじゃないか。」
「ウリュウさんはリリアの護衛を花岡君にお願いしていた……つまり、大事に扱っているんです。そこで思った、もしかしたらブラックホール団のボスっていうのは『表面だけで人や物事を切り捨てる人じゃない』のかもってね。恐らくは人格重視か、実力重視か……」
灰原さんが分析する度、ウリュウの顔が歪んでいく。
(分かったようなことを言われるのは嫌いだって顔してるわね。)
「ヒーローたちを説得するよりも、あなたを説得する方が早いと思ったんです。あなたも若きボスだ、柔軟かつ優秀な頭脳を持たれているでしょうから。」
灰原さんはそう言ってウリュウの顔をじっと見つめる。
ウリュウはため息をついてから、
「……当たりだ。僕は基本的に、何事も1度様子を見てから判断するようにしている。……ただの女ったらしだと思っていたが、君はかなり頭が回るようだね。」と口にした。
「ありがとうございます。」
灰原さんが笑顔で礼を言う。
ウリュウは少しだけ歪んでいた顔を緩め「いいだろう、そもそもコズミックブルーを止めるには君の協力が不可欠だ。共にコズミックブルーを救出しよう。……でも……」とまで言いかけてから、
「裏切ったら、殺す。」
そう言い放った。
(あ、久しぶりに聞いたやつ。)
少し懐かしくなりながらも灰原さんの顔を横目で見やる。
彼の顔は血の気が引いていて、先程までの余裕たっぷりな態度が嘘のようだ。
「……話、纏まった?じゃあ僕の報告も聞いてよ!多分今回の件にも無関係じゃないからさぁ。」
真っ青になった灰原さんを横目に、緑川がご機嫌に言う。
「……そうだった、ユウヤの報告を聞こうとしてたとこだったんだよね。どっかの誰かが邪魔したせいですっかり忘れてたや。」
ウリュウが満面の笑みで嫌味を言うと、灰原さんは乾いた笑い声を上げた。
「この前さあ、ネカフェで『ジェットオレンジ』に会ったんだけど。」
「「!」」
その名前を聞いて、私と灰原さんは身構える。
彼の反応を見る限り、やはりジェットオレンジこと『多々良橙也』は怪人会側の人間と見て間違いなさそうだ。
「なんかあいつ、僕のこと嗅ぎ回ってたみたいだったから憑依してこの『情報抜けるくん』で携帯の情報抜いてやったわけ!」
「でかした。君の動向を本当に嗅ぎ回っていたなら、黄村側の人間である可能性が高い。……それで、有益な情報はあった?」
部屋にいる緑川以外のほぼ全員が息を飲んで彼の顔を見る。
「黄村宛とか、怪人会宛っぽいトークはほぼ消されてた。でもね、かなーり有益なヒントもあったんだ。ジェットオレンジが消していたトークの『名前』。相手には見えないやつね!これが面白いんだわ。」
「興味深い、読み上げて。」
ウリュウに言われるがまま、緑川はスマートフォンの画面に目線を落とし
「『成金男』『モラハラ女』『サイコ正義マン』『やばい人』『赤星くん』、グループ名は『ゴミ捨て場』……大半に悪意を持ってることがわかるよね。」と、画面の文字を読み上げた。
……確かに変だ。味方にそんなあだ名を付けるだなんて……。
「敵味方関係なく悪趣味なあだ名を付けているのでは?」
灰原さんが尋ねる。
「いーや、他は名前とかニックネームが多いね。……あれ?1人『神』ってのがいるな。」
(あー……多分焔のことね。)
「それは無視していいわ。多々良の推しなのよ。」
「なるほど?……まあ、とにかくジェットオレンジは怪人会をよく思ってない。加えて、ヒントになりそうなトークをもう1つ見つけた。頻繁にやりとりしてるけど、たまに前後のおかしい部分がある。つまり相手は怪人会のメンバーかつ、彼の友人……」
「その相手の名前は?」
ウリュウの問いに対し、緑川は「『春日璃空』」と答えた。
すると、灰原さんはハッとしたように「元……ジェットブルーだ。」と呟く。
ジェットブルー……エリヤによって能力を消され、怪人会に堕ちたとされる人物。
「まさか……多々良は、そいつを助ける為に怪人会に入った……?」
今日の4時、ロクタ編に大幅改稿が入ります。
朝頃序章も改稿します。読み返しをされてる方はご注意ください。




