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不思議な男

「あのね、焔。」


炎の薔薇を見せて貰った後、私は焔をベッドに寝かせ、休ませていた。


愛の診断の結果、カグラの能力を使わなくても1日寝れば問題ないとのことだったが、黙っていると焔が動かなくなるような気がして不安になり、名前を呼ぶ。


「なに?」


焔は顔だけをこちらに向け、そう返事をする。


「告白……だよね、さっきの。その返事だけど……」


――別に、心が決まっている訳ではない。

ただ、私には今……焔の告白を受け入れる余裕も、悩む時間もない。

かと言ってなあなあにしたまま放置するのは不誠実だろう。


だから、「今、使命のことで頭がいっぱいで、あなたと付き合うのは難しい。」そう答えようとした。


すると、焔は「待って」とひとこと言ってから上体を起こす。


「……リリア、もしかして告白に対する返事をしようとしてる?」


「え?ええ……」


「あのねリリア……!」


焔は真剣な顔をして体を寄せると、私の手をしっかり握る。


「え、あ……え!?」


顔を赤く染めながら、私は何を言ったらいいかも分からず真っ直ぐな焔の瞳を見つめ返した。


「赤城焔の告白に……『NO』という答えは受け付けない。」


「……は……」


「このイケメンで、最強で、めっちゃ性格もいい俺が!好きだ、一生守ると言ったからには!リリアはそれを受け入れるしかないの。だって仕方ないよね、俺が並大抵のことで諦めるわけないんだから!」


焔が満面の笑みで言うも、私の顔からは血の気が引く。

彼の目は笑っているように見えて、光が入らない程に曇っている。


「いやあの……もし、もしよ?私に婚約者がいるから無理って言ったら、あなたどうするの?」


尋ねると、焔は手を握る力を強めてから

「……そしたら、リリアの大切な人とも結婚して、俺がどっちも守ってあげる。」と答えた。


(そう……いえば……焔がヤンデレ気質なの、忘れてた……)


私は口角をピクピクと引き攣らせ、心の中でそう呟いた。


「そうだ、これから凛太郎に報告行くでしょ?俺元気だよって伝えといて!メッセージでも伝えたけどさ……既読付かないから、一応ね。」


「はいはい。」


私は呆れ笑いをしながら立ち上がる。

凛太郎と焔は、ギクシャクした中でもなんだかんだお互いを思いあっているようだ。


不器用なところまで瓜二つなのが、少し微笑ましかった。


★ ★ ★ ★


「私、焔に勝ったわ!」


私は凛太郎を捕まえてから、いつものようにカラオケの一室で報告する。


凛太郎は目を伏せつつも「そっか。」と力なく息を吐いた。

その顔は、どこか安堵しているように見える。


「もう無理しないって約束させたの!どう?これであんたの肩の荷も降りたでしょ!いい加減私たちと協力したらどう?」


私は凛太郎の隣に座り、ぐいぐいと詰め寄った。


「……何でお前が兄ちゃんに勝ったからって、俺の仕事が終わると思ってんの?」


テンション高めの私とは対照的に、凛太郎は消え入りそうなくらいに掠れた、低い声で言ってから感情の無い顔で私の顔を見下ろす。


「な……なに、何でそんなに元気ないの?お腹痛い?」


「ふざけんなお前。」


凛太郎はため息を1つ吐くと、「ちょっと……遊びに行く?せっかくリリアが頑張ったんだし。」と言って笑いかける。


「やけに唐突ね。2日後にはゆかり襲撃があるのよ?遊んでもいられない。」


「じゃ、またせいぜい沢山動いた後に愛しの婚約者と訓練して当日ぶっ倒れんだな。」


凛太郎の挑発的な言葉に思わず顔が歪み、温度が上がった。

普段「懐くな」やら「帰れ」やら散々壁を作っておいて、急にこうして距離を縮めるのだからこの男は分からない。


「……はいはい!分かった!そうよね、模擬戦の後に何したって疲れるだけ……素敵な凛太郎さんにエスコートしてもらおっかな。

余計疲れるようなことしたら即帰るから。」


凛太郎は眉を下げながら吹き出すと、「おいで」と言って立ち上がる。

たまにこの男の発する穏やかな声が、私の調子を狂わせた。


……


……凛太郎に連れて来られたのは、少しだけ歴史を感じる定食屋さんだった。


「ここ、兄ちゃんが大好きなの。兄ちゃんの好きなメニューも教えてやる。このイワシ定食と、アジフライ定食、あと梅ご飯。」


凛太郎は席に着くなりメニューを開くと、楽しそうに焔の好きなメニューやドリンク、気分によって〆が変わるとか……そんな情報を語りだす。


(へんなの、自分の好きな物じゃなくて、焔のことばっかり話して。)


私は焔がいつも頼む定番メニューを頼むと、運ばれてきたそれを口にする。


(おいし……!)


目を輝かせたその時、凛太郎は「美味しいでしょ」と言って微笑んだ。

その瞳があまりにも優しくて、私は思わず目を逸らす。


(ほ……ほんとに何なのよ、こいつ。)


凛太郎の「何でも頼んでいい」という言葉に甘え、私は沢山の料理を注文した。

何を頼んでも嫌な顔ひとつせず笑っている凛太郎は、まるで歳上のお兄ちゃんみたいだ。


……定食屋を出てからも、凛太郎の「焔ツアー」は続いた。


焔の好きなブランドとか、焔の好きな食玩のある場所とか、焔が休日に行くカフェ……


(本当に焔のこと好きなんだな。ずっと焔の話してる。)


私が焔に勝ったことで、凛太郎なりに嬉しくてお祝いしたい気分なのかもしれない。

その証拠に、凛太郎はずっと楽しそうにはしゃいでいる。


「次は、兄ちゃんが拗ねると絶対行く場所ね!」


凛太郎が笑顔で言うと、ぽつりと雨粒が凛太郎の頬に落ちる。


「はー……最悪。こんな時に雨かよ。」


「もう帰る?暗くなってきたし。」


「だめ!次行く場所はめっちゃ重要なの!待ってて!そっちのコンビニで傘買ってくるから!」


凛太郎はそう言って走り出すと、物凄い速さで傘1本持って戻ってきた。


「あなたの分は?」


「俺は能力で防げるもん。」


「疲れるって言ってた。」


「他人にやんのはね。どう動くかわかんねー人間の頭上ずっと守ってなきゃいけないもん。」


凛太郎は言いながら、私にビニール傘を押し付け歩き出した。


(ビニール傘……灰原さんがこの前、凛太郎みたいって言ってたっけ。)


傘をさしてから、遥か前を歩く凛太郎に追いつく。


……凛太郎の後に着いていくと、小さな公園の中にある高台に着いた。


「ここ、兄ちゃんが俺と喧嘩すると絶対来るの!でもね、ここ俺が教えたんだぜ?だからたまたま鉢合わせてさ、結局ここで仲直りするの。」


凛太郎は高台に上り、楽しそうに思い出を語る。


「本当に仲がいいのね。」


「ん……まあ……『良かった』と思うよ。」


凛太郎の発した言葉が過去形だったので、少し違和感を感じるものの黙り込む。

凛太郎が遠くを見つめる横顔が寂しそうで、これ以上言葉を掛けない方がいい気がしたからだ。


雨の音と、雨の日特有の泥みたいな匂いが立ち込める。

暫く耳を傾けていた時、凛太郎の髪に雨粒が付いていることに気付いた。


(あれ……)


髪だけじゃない、頬までもが濡れていて、まるで涙を流しているみたいだ……いや……


(泣い……てる?)


「……ねえ、リリア。」


凛太郎はこちらを向いてから私の名前を呼ぶ。


「な……に?」


「俺さ……エリヤちゃんにバラしちゃったんだよね。ヒーロー側に決行日が知られてること。」


凛太郎は雨に濡れながら、そう口にした。

評価受け付けと感想受け付けを1度停止します。

検索除外についてまだ完全に理解していないのですが、万が一ランキングに浮上すると意味が無いのでその対策になります。

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