嘘つき
「このオムライス、自分でも食べたけどお世辞にも『美味しい』なんて言えたもんじゃなかったですよ……!残したって良かったのに、当たり前に完食してバレバレの嘘つきやがって……!」
ワナワナと震えながら言う灰原を、凛太郎は唖然としながら見ることしかできなかった。
「あんた、いつもそうだ。『残酷な人間になりきれない』。いつも嘘ついて、遠ざけて、自分だけ悪者になろうとする!
俺たち仲間じゃなかったんですか!最後まで協力させて下さいよ!」
「なんだ、騙されたことにも気付かねー馬鹿じゃなかったんだと思ってたのにさ……やっぱり馬鹿じゃんお前。」
凛太郎は、コップの水を操り灰原の髪をバッサリ切り落としてみせる。
「次は顔、その次は指……今帰んなら見逃してやるから。」
凛太郎が言うも、灰原はまっすぐ凛太郎を見て動かない。
見かねた凛太郎は、玄関の外まで無理やり灰原を押し出した。
「凛太郎さんの……嘘つき……!」
灰原は力なく呟きながら、僅かに肩を震わせている。
「分かってたことだろーが。元スパイの癖して裏切られた程度で病んでんじゃねえよ。」
「俺が……!あんたのヒーローにもなってやる!どんなに濁ってて、焦げてても!……ヒーローになれるんだって……絶対、絶対……!証明してやる……!」
「1人でなっとけ。」
凛太郎は、一切顔を動かすことなく玄関のドアを閉めた。
「馬鹿なのは……どっちですか……こういう時はさ、嘘でも……『なれるわけないだろ』って言うんですよ……」
★ ★ ★ ★
焔と「何もしない」をした帰り、私は渋矢に足を向ける。
「リリア、今日はいつもより早……」
ウリュウは私が彼の自室に入った途端、目を丸くして固まってしまう。
「な、何?どうしたの?」
「それ……地球人の『制服』ってやつか。『アオきみ』で見た。」
ウリュウは私から少し目を逸らしながら言う。
どうやらこういったタイプの制服を見るのは初めてだったようだ。
――言われてみれば、渋矢にも学校施設はあるものの、制服に代わるものは黒スーツやファンタジー感のある軍服スタイルが多い。
「あら、私の制服姿が可愛くてびっくりしたんだ。」
からかうように言うと、ウリュウは真っ赤な顔で黙り込んだ。
「ほ、本題は?」
ウリュウが誤魔化すように尋ねてくるので、私は「……明日、焔と模擬戦をすることになったの。」と用件を告げる。
「まだ安定して絶対零度を使えてないのに?……言っちゃあ悪いけど、今のままだと負けるぞ。」
ウリュウは目を丸くしながら言う。言葉は厳しいが、彼の言う通りだ。
ウリュウとの訓練で、チップを使わずに絶対零度を使えた実績は0。
焔に挑むには、明らかにレベルが足りない。
「その……確かに絶対零度を使えるかは運なんだけど!でも、今日少しだけ絶対零度が使えそうな手応えを感じたの。もし明日同じ感覚を得られれば……きっと使える。」
「きっとって……不確実な話をするのは好きじゃないんだけど。」
ウリュウがため息をつきながら言う。
「わ、分かってるわ。絶対に結果を出す。
今日あなたを頼ったのは他でもない、どういう作戦で焔を倒そうか、話し合いたかったの。」
「……そうだなぁ、普通に挑むなら赤城焔の弱点を突くような作戦が確実だとは思うが……」
そこまで言いかけて、ウリュウは言うのをやめる。
焔は判断力が高く、身体能力は化け物じみていて、能力の練度も高い。
加えて、ロクタのようにチップの知識が豊富なわけでもない。ブラフを打ってもその場その場で対策するので効果は薄いだろう。
「勝ち筋を詰めるなら、どう逃げても最終的に『絶対零度を初手に使う』ことに集約されるぞ。使えば勝ち、使えなければ――負けだ。」
――絶対零度を使えば、どんな生物だろうと眠りに落ちるように凍ってしまう。
それは焔であっても例外ではない。
そして、焔の身体能力も、能力も。
熱の発生しない状況下では間違いなく鈍るだろう。
だからこそ、「絶対零度」は今回の模擬戦で無視できない切り札なのだ。
「あの……さ。絶対零度を使ったりしたら、焔ってどうなるの?いくらなんでも死んじゃわないかな。」
「今更すぎる。君だって分かってるだろ、『殺す気』でいかなければ赤城焔は倒せない。そんな曖昧な心持ちなら今すぐにでも【やっぱりやめた】とメッセージするべきだ。」
「そう……よね。」
やはり焔を倒すには、最初に「絶対零度」を使い、それでも倒れないならば鬼族や龍族等のフィジカルが強いチップでとどめを刺すしかない。
懸念すべきは、戦闘の中で最後まで絶対零度を使うことができずあっさり負けてしまうこと。
そうならない為にも、「自分で絶対零度を発動し倒す」線と「龍族のチップを使い絶対零度を発動し倒す」線を同時に残す必要がある。
「ありがとうウリュウ!ちょっとだけ考えが整ったわ!」
ウリュウは、「それは良かった」と呟きながら資料に視線を落としていた。
「……ウリュウ?なんか今日元気ない?それとも機嫌悪いの?」
ウリュウの顔を覗き込みそう口にすると、彼は私を拒絶するように顔を背ける。
「別に大したことじゃないよ。……僕に構うより、ナギと明日の相談でもしてきたらどう?」
資料から目を離さずに言うウリュウに、顔をしかめた。
「もしかして……『真理愛は最近ナギと仲がいいし、僕の役目もそろそろ終わりかな』とか考えてないでしょうね?」
ぴしゃりと言い切ると、ウリュウの体が冷水をかけられたみたいに強張る。どうやら図星のようだ。
「だんだんわかってきたわ。あんたっていっつも私が離れるかもと思うと勝手に距離置こうとするんだから……!あなたはナギの代わりじゃなくて私のたった1人の婚約者なのよ!ウリュウったら!」
何とか目を合わせようとするが、ウリュウはあっち向いてホイの要領で私から顔を背けようとする。
少し腹が立ってきて、ウリュウの顔を掴んで引き寄せると……その顔は真っ赤で、口元は少し緩んでいた。
「そう……僕は……まだ君の婚約者面してていいわけ……?」
ウリュウの言葉に思わず笑い声を漏らすと、彼の顔はどんどん赤くなっていく。
「……ねえ、全部終わったらさ、お礼をさせてね。今回私のために沢山動いてくれたこととか、日頃の感謝の分も。」
「取らぬ狸の皮算用って知ってるか?まずは赤城焔を倒してからほざくんだな。」
顔を掴まれながら、ウリュウはそう吐き捨てる。
「勝つわ。……絶対。」
私は真っ赤な顔の彼に、そう強く言い放ったのだった。
次回から模擬戦になります。




