何もしない日
焔が倒れた翌朝、私は公園で焔を待っていた。
すると程なくして、やけに高そうな服に身を包んだ焔がニコニコしながらやってくる。
「早いねリリア!まだ、20分も前なのに。」
「……あんた、今日は『何もしない』日って言ったわよね。ランウェイを歩く日じゃないのよ。」
嫌味を言うと、焔は少し顔を赤らめながら「リリアには俺がモデル並み……いやそれ以上にかっこよく見えてるってこと?やだ……」と言って俯く。
「あんまり変なこと言ってると帰るわよ。」
少しだけ時計に目をやってから、今日の目的を焔に告げる。
「焔、昨日言った通り今日は『何もしない』をする日よ!今日はヒーロー『コズミックレッド』じゃなくて、ただの『赤城焔』として過ごすの。いいわね?」
「うん。今の俺はただの……人より体が頑丈で声が良くて、同世代よりお金持ちの国民的知名度と好感度が高い高身長のイケメン、ってことだよね。」
「え?ああうん……」
自意識は大きいが、別に間違っているわけでもない。
概要さえ理解していれば問題ないだろう、と私は焔の発言を軽く流してからゆっくりと歩き出す。
「ねえ!せっかく公園来たしフリスビーする!?あ!リリアは投げるだけでいいよ、俺取ってくるし!ねー、コンビニでサンドイッチ買ってきたからあとでレジャーシート敷いて食べようね!それから……」
陽気に畳み掛ける焔をキッと睨む。
そして「だから!今日は何もしない日!……ご飯はそれでいいとして……ゆったり過ごすのよ、わかった!?」と言い放った。
焔はしゅんとしてから「何それ、つまんね……まだ仕事してた方が楽しんだけど。あーあ!今から事務所に戻ろっかなー。」と文句を垂れる。
(やっぱりこうなるか。)
焔が早速『何もしない』時間をぶち壊そうとするので、私は「奥の手」を使うことにした。
「……ねえ焔、実は今日ちょっと準備してたことがあるんだ。ちょっとついてきて!」
そう言って焔と訪れたのは、公園のすぐ近くにある親しみある商店街。
その端に佇む、カラフルな装飾の施された服屋へ足を向けた。
「……え、何ここ。」
「制服……っぽい物が買える場所なの。今結構私服の学校も増えてるらしくて、そういうとこに通う子が使ってるんですって。」
アンナから聞いた知識を淡々と説明したあと、私は予め購入していた制服風の衣装を店員さんから受け取る。
そして焔に向き直りにかりと笑い、
「こういう設定はどう?私たちは放課後にデートしてる高校生カップル!何かになりきれば、あなたの使命感も多少は薄れるでしょ。」と言って焔に服を差し出す。
文句を言うと思ったが、制服風の衣装を受け取った焔の瞳は、宝石みたいに輝いていた。
(焔は通信制の高校に行ってるんだっけ?それにしてもあまり登校できていないようだけれど……)
「ありがとうリリア!これ、そこで着替えたらいい?」
焔は言いながら店の奥にある更衣室を見やる。
「ええ、お店にも話を通してるわ。お互い着替えたら店の前で待ち合わせね。」
……
そうして、着替えてから出ていくと……ブレザー姿の焔がソワソワしながら店の前に立っていた。
(わあ……!凄い、少女漫画で見たヒーローみたい……!)
最近ハマっている学園モノの少女漫画を彷彿とさせるほど、焔の制服姿は様になっている。
「ほら、普通の高校生カップルの私たちは普通に公園を散歩するのよ、行きましょ。」
公園に戻ってから、私たちは散歩したり池を眺めたりしながら流れる時に身を任せる。
焔も最初は「刺激が欲しい」やら「体動かしたい」と駄々をこねていたが、次第にまったりした空気に適応していった。
「ねえリリア〜、あの鴨の列あるじゃん?先頭が隊長だろ?他はどんな立場なんだと思う?」
焔が池に浮かぶ鴨を見ながら呟く。
「そうね、隊長の後ろをしっかりくっついてるのが副隊長で、後ろの列を気にかけてるのが愛みたいなバランサーかな……」
そこまで答えて ふと、普段焔がメンバーとどんな関わり方をしているか気になってしまう。
「……ね、焔。今はヒーローとか関係ないって言った後だけど……普段、コズミック7の皆とはどんな関係なの?プライベートではどう過ごしてるのかなって。」
「んー……凛太郎はよく俺の家に来て料理作ってくれたり、掃除してくれたり……あと、部屋にディフューザー置いていったりする。」
(ああ、やけにフローラルな香りがすると思ったら凛太郎の趣味だったんだ……)
「凪人とはよく美容の話するよ。週に1度くらい『エゴサしてて不安になったんですけど、俺ってイケメンですよね?』って聞いてくるから、『かっこいいよ!』って返してる。そうすると安心するみたい。」
「何やってんのよアイツ……」
「ゆかりはずっと仕事の話してるな〜。カリキュラムどうしようとか、そんな話。あの子真面目だから、フユキといる時以外は仕事モードなんだ。」
「確かに……あなたのこと尊敬してるみたいだし、余計力入るのかも。」
「フユキは、無気力じゃなくなってからよく山行ったりサイクリングしてるよ。お互い体力の限界ないから超楽しいの。」
(想像したらちょっと怖いわね……)
「グリーン先生とはプライベートだと話さないな〜。あでも、誕生日にパンダのぬいぐるみあげたら喜んでくれて、たまに写真送ってくれるでしょ、
ピンクは食事に行くとすげー説教してくる。同い年の女子ってか、親戚のにーちゃんみたい。」
私はそれを聞いて、クスクスと声を上げて笑う。
(そりゃそうよ、精神はあなたよりずっと大人の男性だもの。)
しかし、聞いていて分かったことがある。
……皆、焔のことをかなり慕っているようだ。
プライベートで異様に子供っぽいこの男も、仕事では頼れる隊長。
だからこそ、昨日メンバー達は夜遅くに焔の元に駆けつけたし、「力になりたい」と言った。
そう思うと、焔は孤独なんかじゃないんだと思えて少し嬉しくなる。
「いい隊ね、あなたが隊長だからかしら。」
その言葉に、焔は顔を赤くしながら俯く。
こうして池を眺めながら制服姿の焔と他愛のない話をする時間は、自分も経験できなかった高校生活を体験しているみたいで、私まで楽しくなってしまう。
「ねえ焔、かなり『何もしない』したことだし、食べ歩きしに行かない!?そうだ、あっちのゲームセンターでプリクラ撮ろうよ!」
子供みたいにはしゃぎながら、焔を商店街まで引っ張っていく。
一緒にコロッケを食べたり、クレーンゲームで遊んだり。
自分で提示した「何もしない」時間とは少し違ってしまったが、キラキラした時間がその場に流れていた。
「焔、めっちゃ目おっきくされてるー!あはは、可愛いー!」
「リリアだってめっちゃ顎細くされてんじゃん!」
2人で撮ったプリクラを見ながら感想を伝え合っていると、商店街の向こうから叫び声が聞こえてくる。
「……事件かしら?あっ……!焔!」
焔は、反射的に体が動いているみたいに、凄い速度で悲鳴の聞こえてきた方向に走り出してしまった。




