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コズミックレッドの限界

夢を見た日の午前中、研修をしていた時のこと。


「だから、能力を使うと少しだけメンタルも消耗しやすくて……」


能力の解説をしていた焔の手から、ペンが滑り落ちる。


少しザワつく研修室。

――今まで、こんな風に焔が握っていた物を落とすなんてことはなかった。


「も……もー!みんな何ジロジロ見てるの!いくら俺がイケメンだからって!」


焔の一言で一気に空気が冷め、緋山さんが「次言ったらセクハラで上に直訴するわよ」と切り捨てる。


(相変わらずだな、あの2人……)


……


研修が終わると、私は資料を整理している焔の元へ向かう。


「……なぁに、リリア。俺に用事?」


「あんた、あんまり無理してると死ぬわよって忠告をまたしにきてあげたの。」


焔は私の方を振り返ることなく、「じゃ、俺は死なないよってまた答えないといけないね。」と返事をした。


「……最近、休めてるの?顔色が悪いように見えるわ。」


私が言うも、焔は淡々と「そこまでできて1人前のヒーローだから。君みたいに倒れたりしねーの。」と言い捨て資料室を出てしまう。


痛いところを突かれた私は思わず黙り込み、資料室で立ち止まった。

しかし、後になってこの時焔を追いかけなかったことを後悔することになる。


翌日、私がウリュウとの戦いを終えて一息ついていた時だ。

ナギのスマートウォッチが聞いたこともない通知音を発する。


「うわ、びっくりした……なんかエマージェンシーって感じの通知音だね。毎回そうなの?」


ウリュウが尋ねると、ナギは神妙な面持ちで

「……いえ、緊急時じゃないとこの音は鳴りません。」と答えた。


ナギは画面を覗いた後、「え!?」と大きな声を上げる。


「どうしたの?」


「隊長が……倒れたって……」


ナギは震えた声でそう口にした。


……


22時、私はナギに無理やり付いていき、焔の自宅を訪ねる。


すると、家の中からとんでもない怒号が耳に飛び込んできた。


「ほんっとにいい加減にしろよ!ちったあ大人になったと思ってたのに!」


「愛の声だ……」


「相当ブチ切れてんな、ピンクさん……」


ナギと共に呆気に取られていた時、不意に玄関の扉が開く。


「2人とも、今空気やばいから静かに入ってきて。」


扉の向こうで、ゆかりがそう小さな声で呟いた。


「愛ちゃーん?そろそろ声だけでも抑えねーと近所迷惑になるよ。」


ソファに腰掛けた凛太郎が冷静に言い放つ。

愛は、焔が仰向けに寝そべるベッドの脇で顔を真っ赤にしながら震えていた。


フユキとロクタの2人は部屋の隅で心配そうにその様子を見守っている。


「お、ナギと……リリアも来たんだ。ほらにーちゃん、コズミック7全員揃ったよ。」


凛太郎に言われ私とナギの存在に気付いた焔は、力なくこちらに手を振った。


「……倒れたって聞いたけど……何があったの?」


ナギが尋ねると、ロクタが呆れたように

「『何が』なんて聞く必要あるのか?明らかに働きすぎだ。休日どころか半休すら取らずに働き詰めなら誰だってこうなる。」と口にした。


私は焔のいるベッドまで歩いていく。

そして、焔を見下ろし「半人前ヒーロー」と吐き捨てた。


焔はみるみる顔を赤くしてから「はあ!?リリアだって無理して倒れてた癖に!」と裏返った声で反論する。

微かに頭の上に炎が出ていて、相当ムキになっているのが伝わってきた。


「あなたが昨日言ったんじゃない、体調管理できてこそ1人前だって。人にマウント取っておいてこの体たらくはあんまりだって言ってんの!」


私がヒートアップしそうになると、凛太郎が「どうどう、一応病人なんだから怒鳴るのはNGな。」と制止する。


「……でも、隊長最近訓練も大分張り切ってましたよね?近いうちに何か大きな仕事があるんですか?俺には何の連絡も来てませんけど……」


フユキが恐る恐る言う。


「隊長……やっぱり、仲間には言っていいんじゃないすかね。」


私の隣にいたゆかりがそう口にすると、焔は少しだけ凛太郎を見てから「そうだね」と呟いた。


「6月の30日、『怪人会』を名乗る謎の組織がゆかりを襲撃するために動いてるとの情報が入った。」


ザワつくメンバーたち。

――しかし、凛太郎だけが1人落ち着いている。


「ゆかりと……リリアにも伝えてたんだけど、あまり内部で情報伝達しすぎてもどこかで情報が漏れた時に対策される可能性がある。だから、黙ってた。」


焔がくらい面持ちで説明すると、フユキがゆかりを睨み「俺にだけは教えてくれても良かったのになー!」と文句を言う。


このことを初めて知るメンバーは、あまりの内容にかなり動揺している様子だった。


「でも、安心して!6月の30日には俺が休みを取ったから!俺がいれば怪人だろうがなんだろうが倒せちゃうでしょ?だから安心して!ね!」


焔が満面の笑みで言い放つも、メンバーたちは顔を見合せ眉をひそめている。


「……それで1人、根を詰めてたんですか?見てる感じ、『なら大丈夫だ!』って言える状況じゃないですよ。俺たちも力を貸します。」


ナギが真っ直ぐな目で言い放つ。


「俺も!焔君は昔っからほっとくと何するかわかんねーんだから!」


愛が怒り冷めやらぬ様子で続くと、他のメンバーも力強く頷いた。


(いい隊だな……なんだ、焔。あなたを心配してくれる人がこんなに沢山いるんじゃない。)


焔は皆が協力的なのが相当嬉しかったのか「ありがとう!じゃあ今から皆でトレーニングしようか!」と言ってベッドから出ようとする。


「何でそうなんだ馬鹿!3連休貰ったなら文字通り休んでろ!」


愛が声を荒らげると、焔はしゅんとした様子でベッドに戻った。


「休むってどうやんの!知らないもん〜」


ぼやく焔を見て、フユキは声を上げ笑う。

そしてこちらに歩いてきてから、私に「リリア様、隊長に教えてあげて下さい。休みたい時は『何をすればいいのか』」と囁く。


(あ……)


数日前にフユキが教えてくれたこと。

私は、焔に向き直り深く息を吸う。


……そして、「焔!明日私と……『何もしない』をしましょう!」と言い放った。

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