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リリアの怒り

屋敷に戻り玄関を開けた瞬間、重苦しい空気が通り抜ける。


「ただ……いまぁ……」


声を上げても、誰も反応しない。

不安になりダイニングを覗くと、そこには床にしゃがみこんでだべっている使用人たちの姿があった。


(グレてる……!?)


「あ、あなたたち、どうしたのよそんな魂の抜けた態度で……」


駆け寄ると、使用人たちは私を無気力に見上げ「あら、お帰りでしたの。」と無愛想に呟く。


そして、使用人の1人が立ち上がり「渋矢にいるよりあちらの生活がさぞ楽しかったのでしょうね。私たちに屋敷の管理をさせるだけさせて、ろくに顔を見せないだなんて。」と嫌味を言い……


横にいたもう1人が「やだわ、何分かりきったことを言っているの?失礼でしょ。私たちに構うよりイケメンヒーローに構っていた方が楽しいに決まってるじゃない。」と続けた。


(ああ……不貞腐れてるのね。)


少しだけ愛おしく思いながら、「今日はこっちに泊まることになったのよ。久しぶりに一緒に食事しないかしら。」と声をかけると、使用人たちはキビキビと準備を始める。


(原作のリリアは、家にいる間もきっと孤独だった。どうやったら原作リリアの気持ちを知ることができるかしら。)


使用人たちと食事しながら、なんとか考えていた。

そして寝室に戻りベッドに入った瞬間――だんだんと意識が深いところにまで落ちていく。


……気がつくと私はまた、夢の中にいた。


(私がリリアを知りたいと思ったから、何かを見せようとしてくれてるんだ。)


ぼんやり浮かんできた光景に、目を凝らす。


『この愚図!紅茶が冷めてしまうわ!』


リリアの声が屋敷に響く。

――今日、食事を共にした使用人たちは、震えながらなんとかリリアの前にカップを運ぶ。


リリアの顔つきは、いつも鏡で見るそれとは別物だ。

眉間には皺が寄っていて、金色の瞳は険しい表情のせいか赤く光って見える。


愛した姉に殺されかけ、長きに渡り使用人たちに嫌がらせを受け、恋した少年とは敵対する運命に置かれ、心の拠り所であった友人には裏切られた。


そんな原作のリリアの表情には、強い絶望と怒りの色が見える。

私がアニメで見ていた、あの残酷なヴィランそのものだ。


リリアは紅茶を半分だけ飲み、『もう結構』と呟くと立ち上がる。

そして、使用人を家に残すと渋矢の外れに足を運んだ。


(何しにこんな場所まで……)


リリアが鉄柵の前まで来た時、崩れたコンクリートの塊の影から、長身でマスクをした男が現れる。

……原作のコズミックレッドだ。


『遅かったね。最近どんどん来る時間が遅くなってないかい?』


『遅いもなにもないのよ。私はぼんやり散歩に来たの。それをあなたがいつも待ち伏せしている、それだけのことですわ。』


リリアは無愛想に言い放つ。


(リリアとレッドが……密会していた……?)


興味津々に2人を見ていると、焔がやけに楽しそうに『聞いて!俺、やっとヒーローを辞められそうなんだ!』と低い声で言う。


彼の喉はやけどに覆われていて、今とは似ても似つかない声色をしていた。


『君のところのボスが約束してくれたんだよ、リリアを倒せたら渋矢を地球人に返すって!そしたらもう戦わなくていいんだ。リリアもさ、俺に倒されたら一緒に住もうよ。俺貯金ならいっぱいあるから!』


――アニメの焔はやけに落ち着いていて老人のようだったが、今リリアと話している彼は、年相応にはしゃいでいるように見える。


しかし、一方でリリアはくしゃりと眉間に皺を寄せた。


傍観している私でも察せられるが、焔は恐らく原作のミカゲさんに騙されている。


『あなた、そろそろ人を疑うことを覚えないと悪い女に金も髪もむしられるわよ。』


リリアの悪態に、焔は『髪も!?』と驚きの声をあげた。


焔は、今よりも「ヒーローを辞めたい」という意思が強いようだ。

無理もない。母親にずっと理想のヒーロー像を押し付けられてボロボロの彼にとって、ヒーローでいることは使命でもあり、苦痛でもあったのだろう。


『私を倒しても、戦いは終わらないわ。私がただ、貴方の前から消えるだけ。』


リリアは焔から視線を逸らしながら、きっぱりと言い切る。


『それじゃ……一緒にはいられないの?』


焔は鉄柵に指をかけて震えた声で呟く。


『そうね。あなたも解っているはず。私は……もう、幸せになることを許されない。地獄に堕ちるのよ、「あの人」と……』


(あの人……?ミカゲさんのこと……かな?)


『嫌だよ……俺、火が怖いんだ……こんな戦い、もうやりたくない。』


リリアや幹部たちには、毎日のようにミカゲさんから『コズミックレッドを殺せ』という命が出ていた。

原作でも最強であったレッドの存在は、かなり危険視されていたようだ。


リリアも内心は気が進まなかったろうが、今更ナギのように組織を裏切るには、リリアの手は汚れすぎた。


ブラックホール団が無くならない限り、焔はヒーローを辞められない。

自分が殺さない限り、いつかミカゲさんや他の幹部に焔が殺されてしまう可能性だってある。


――ならば、自分が引導を渡そう。


きっと……リリアはそう決心していた。


(そっか……原作のリリアも、今の私と気持ちは一緒だったんだ。)


リリアも、焔を殺すことを望んでいない。

彼女が本当にしたかったことは、「ヒーローであるコズミックレッドを止めること」。


そのラインを踏み越えてしまったのは、リリアも同じく「止まれるような状況じゃなかったから」なのだろう。


(勝手よね。自分が殺すと決めて、絶対零度なんて技を編み出しておきながら……いざ、焔が死にそうになったら……)


『嫌よ……レッド、死なないで……』


(そんな風に泣くんだもの。)


……


「あっ」


ベッドの上で目が覚める。

時刻は午前6時。そろそろ支度をしなければいけない時間だ。


(当時のリリアにあって、今の私にないもの……)


考えながら、鏡を見つめる。


(怒りの……感情……?)

今日1日手が空くか分からないので、今日の分を上げておきます。

かなりの深夜にすみません……

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