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俺の世界

 竜神が倒れた。

 ジオウも。

 カゲヌイも。

 リリベルも。

 全員。


 四天王が、全滅した。


 俺は、その場に立ち尽くしていた。

 頭の中が真っ白になる。

 誰のせいだ?

 俺か?

 俺の作戦が、連携が悪かったのか?


 そんな言葉が、脳裏に浮かぶ。

 自分を責めずにはいられない。


「さて」


 偽魔王が、ゆっくり歩いてくる。

 余裕の笑み。

 まるで、ここから先に何が起きるかなんて、全部知っているみたいに。


「次はどんな手を使う? 小細工は嫌いではない。せいぜい俺を楽しませてみせろ。」


 まだだ。

 終わってない。


「小細工……か。四天王の皆さん、すみません。

奥の手としては確実性に欠けるから、躊躇してしまったせいで、こんな事に。」


 俺は胸元に手を突っ込む。

 取り出したのは、彩魔術団長から貰った白い魔石。

 団長が調べていた、あの伝説の封印魔石に似せて作られたものの、魔力貯蔵能力しかない《白石》。

 今まで、ずっと隠していた切り札。


「ありがとう。みんなが助けてくれたお陰でーー完成した。」


 白石を強く握り解放を念じる。

 白石が光り輝く。

 貯蓄されていた膨大な魔力が、一気に俺の身体を駆け抜けた。

 そのまま、地面に落ちていたブラックケースを掴む。


 リリベルが使った、あの古代魔法具。

 小さな異空間に引き摺り込む、魔物たちの《エンカウント》というスキルを再現する、魔力バカ食いの道具。

 白石に貯めてもらった魔力のおかげで、俺にも発動する事が出来た。


「デッキオン!!」


 ブラックケースが開く。



カッ!!



 今度は、光が俺と偽魔王を飲み込んだ。


 視界が、反転する。

 次の瞬間。

 俺は、見慣れた場所に立っていた。



◆◆◆



 長い赤絨毯。

 巨大な柱。

 玉座。

 俺がこの世界で仕事を与えられ、四天王と初めて顔を合わせた時の場所。


 魔王城・王の間だった。


「……これは。」


 偽魔王が、眉をひそめる。


「俺の心象風景だ。」


 そして。

 玉座の左右に、四人の姿が現れる。


 ジオウ。

 カゲヌイ。

 竜神。

 リリベル。


 もちろん、本物じゃない。

 俺の記憶から作られた、この空間の住人だ。


「ふう。上手くいったよ。俺の望んだ、領域の展開?てやつ。」


「オラァ!!」


 まずジオウが飛び出す。


 石柱かと思うほどの大剣。

 カゲヌイの呪符。

 竜神の斬撃。

 リリベルの魔法。


 四天王総出で、偽魔王に襲いかかる。

 だが。


「……くだらん。」


 偽魔王は、一歩も動かなかった。

 剣を振るう。

 それだけで。


 ジオウが消える。

 カゲヌイが砕ける。

 竜神が霧散する。

 リリベルが、光になって消えた。


「所詮は、記憶の模造品だ。」


 偽魔王が鼻で笑う。


「本物にすら勝てぬ雑魚が、幻になった程度で何が変わる。」


 そして最後に。

 玉座の上に、一人だけ残っていた。


 魔王。


 ……ではない。


 赤と青の派手な服。

 真っ白な顔面に星型の模様。

 小さいシルクハットに、金髪の長い髪。

 まるでピエロみたいなこの人物は、俺の知ってるあのお方に違いない。


 玉座にふんぞり返り、足を組んでいる。


「アラ」


 ピエロは、頬杖をついた。


「やっと来たのねェ。待ちくたびれちゃったワ」


 偽魔王の顔が、初めて大きく歪む。


「貴様……何者だ?」


「何者だなんてやぁねぇ。あんなにヒドいことしたのにもう忘れちゃったわけェ?」


 ピエロは肩をすくめる。


「まさか……魔王か!?」


「違うわ。私はタダのピ・エ・ロ。

でもそうねぇ。魔王様とちょ〜っと繋がりがあるから、危うく消されるところだったワ。

そこで逃げた先が偶然、この妙な空間だったってワケ。」


「偶然……?」


「偶然ヨ、偶然♡」


 絶対違う。

 でも、俺は知っていた。

 ステータス画面に、こっそり書いてあったのだ。


【★ネタバレ★】

魔王・世を忍ぶ仮の姿、[謎の道化師 アヴァーヤ]は、世界から魔王が書き換わる際に、"魔王とは別人"という解釈がされたため、次元の狭間に不安定な状態で存在している。


 最初、意味は分からなかった。

 だが、魔王の別形態であるピエロさんが、次元の狭間にいると言う事は。

 "当て込みやすい異空間"を作り出せば、引っ張って来れるのでは無いか。


 だから賭けた。

 どうやら、上手くいったらしい。

 いや、半分くらい魔王様の謎パワーな気がする。

 でもこの形態の時は、いつも柱の影から四天王を見守ってるのに。

 玉座に座って登場なんて、粋な事をやってくれる。


 ピエロが、立ち上がる。

 手には、本物の魔王の剣。

 武器の勇者が出していた、あの剣だ。


「さァて」


 不敵に笑う。


「代役の魔王ごっこは、もう終わりヨ。」


 次の瞬間。

 ピエロと偽魔王が、ぶつかった。

 剣と剣が交わる。



バジジジジジ!!!



 王の間の柱が、まとめて吹き飛ぶ。

 互角。

 本当に、完全に互角だった。


「俺と斬り合えるだと……!」


「アンタ、自分が本物より強いと思ってたのォ?」


 ピエロが笑う。

 本物言っちゃってるやん。


「残念。魔王様って、もっと嫌な奴ヨ。」


「黙れ!」


 偽魔王が、口を開く。


「〈俺は――〉」


 その瞬間。

 俺は小型のステータスカッターを投げた。

 刃が、偽魔王の顎を切り飛ばす。


「がっ――!?」


 顎が床に落ちる。

 言葉が、最後まで続かない。

 竜神の時と同じだ。

 嘘は、最後まで言わせなければ発動しない。


「そういうことだ。」


 俺が言う。


「くっ……!」


 偽魔王は、すぐに再生する。

 だが、その隙にピエロの剣が腹を裂く。

 偽魔王が後ろへ飛ぶ。


「ならば……!」


 今度は、剣を捨てた。

 両手を打ち合わせようとする。

 時間停止。

 あれをやられたら終わる。

 だが。

 ピエロの剣が、先に動いた。


 勘。


 本当に、ただの勘で。


 偽魔王の手首を、両方まとめて切り飛ばした。


「えっ」


 偽魔王が素のリアクション。


「なぜ分かった!?」


「アタシ、勘だけはいいのヨォ。」


 ピエロが、にやりと笑う。

 床に落ちた手首が、ぱくぱくと再生を始める。


 よし、今のうちだ。


「魔王……いや、ピエロさん!! 聞いて下さい!!」


 俺は、ステータス画面を開く。

 偽魔王にかかっている、常時発動型の嘘能力。

 全部、今、ここで伝える。


「そいつの“嘘“一覧行きます! 〈俺の嘘はデメリットが無い〉〈俺の嘘は女神の能力影響範囲を超える〉〈俺の嘘は期限を決めない限り永遠に続く〉〈俺の嘘に射程範囲は無い〉〈俺の嘘は空間・時間・常識に囚われない〉〈俺の嘘は他のスキル・魔法に無効化されない〉〈俺は拘束または呼吸不可の時でも喋ることが出来る〉〈俺にかかる"沈黙状態"は相手に跳ね返る〉〈俺は呼吸が出来なくても死なず苦痛を感じない〉〈俺は飲食をしなくても死なず苦痛を感じない〉〈俺は睡眠をしなくても死なず苦痛を感じない〉〈俺は環境が不安定で生命体が生存できない場所でも活動できる〉〈俺は身体に害がある気体・液体・個体・光線を自動遮断する〉〈俺は身体に害を与える五感を自動遮断する〉〈俺は身体に有益な物質でも致死量の前で自動取得停止する〉〈俺が死亡・消滅した場合は因果の順番を逆にして過去に”嘘”をつくことが出来る〉〈俺はクローン体に常時全ての記憶をバックアップしている〉〈俺が完全に復活出来ない事態に陥った時に今の体を捨て、クローンに魂を移動する〉……あ、これは解決しました。〈俺は顔が整っている〉〈俺は細い筋肉質の体つきをしている〉〈俺は身長が180センチある〉〈俺は体臭が無くほのかに良い香りがする〉〈俺の髪は伸びず健康を維持している〉〈俺の体毛は必要な部分以外に無い〉〈俺は新陳代謝が無く常に新しい細胞のままでいる〉〈俺は排泄を無効化することが出来る〉〈俺は全魔法の属性に耐性がある〉〈俺は状態異常に耐性がある〉〈俺に対する物理的な障害は魔法障壁で遮られる〉〈俺のHPとMPは9999ある上に使用しても瞬時に回復する〉〈俺の体は傷がついても装備品ごと瞬時に修復される〉〈俺は精神操作・記憶の改竄に耐性がある〉〈俺はこの世の全魔法を使える〉〈俺は空中・液体中にいるときに念じることでその方向へ進むことが出来る〉〈俺は手を叩くことで時を止めることが出来る〉〈俺は生物・物体に手をかざす事で相手の思考を読むことが出来る〉〈俺は生物・物体に指をさし鑑定と唱えることで全ステータスを閲覧することが出来る〉〈俺は魔王だ〉です!!」


「なるほどネ」


 偽魔王と激闘を続けながら、俺の長々とした早口言葉も瞬時に理解するピエロ。


「つまり、“そういう嘘”を前提に戦えばいいのネ」


「そうです! 新しい嘘を言わせないで下さい!」


「任せなサイ♡」


 それから。

 戦いは、続いた。


 一時間。

 もう、一時間だ。


 王の間は、ほとんど跡形もない。

 柱は折れ。

 壁は崩れ。

 床は何度も斬り裂かれている。


 それでも。

 まだ、二人は斬り合っていた。


 偽魔王は、傷を負ってもすぐ治る。

 疲れない。

 息も切れない。

 まるで、永遠に戦える化け物だった。


「フゥ……フゥ……」


 対して、ピエロは少し息が荒い。

 たいした傷は負ってないが、どう見ても不利だ。

 このまま続けば、先に限界が来るのはピエロの方だ。


 なのに。


 ピエロは、まだ笑っていた。

 不敵に。

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