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四天王の全力

 瓦礫を蹴散らしながら、四天王・ジオウが闘技場に着地する。


 黒い甲冑が闘技場に降り立つ。

 サラサラの金髪が砂漠の風に揺れる。

 黄色い瞳が偽魔王を睨みつける。


「オラァ!!」


 考えるより先に暴れていた。


 大剣。

 蹴り。

 頭突き。


 闘技場の床が、一撃ごとに陥没する。

 偽魔王ですら、まともに受けられない。


「……ちっ!」


 初めて、偽魔王が後ろへ下がった。


「ジオウさん!!」


「遅くなって悪かったな。」


 ジオウが大剣を担ぎ上げて笑う。


「お前、魔王様じゃねえんだろ!?

まだ半信半疑だけどよォ! だったら余計に戦いてえ!! 本物でも偽物でも関係ねえ!! 強ぇ奴なら殴る!!」


「貴様……!」


「ずっと思ってたんだよ! 魔王様と全力でやったらどっちが勝つかなってなァ!!」


大剣を構えたジオウが地面を蹴った。



ドォォォォン!!



 踏み込みだけで砂漠の砂が吹き上がる。

 偽魔王が即座に剣で応戦する。



ガイィィィン!!



 火花が散る。

 偽魔王の体が数センチ後退した。


「……力だけは本物だな。」


「褒め言葉として受け取っとくぜ!」



ガキィィン! ガキィィン! ドォォン!!



 ジオウの連撃が偽魔王を押していく。

 剣、肘、膝、肩。

 体全体を武器にした怒涛の攻撃だ。

 偽魔王は受け流すので精一杯になっている。


「ほう……」


 偽魔王の目に光が宿った。

 嘘を言う準備をしている。


「〈お前はもう……〉」


「うるさい!!」



ドゴォォォン!!



 偽魔王の言葉が終わる前に、ジオウの拳が顔面に直撃する。

 偽魔王が吹き飛ぶ。


「妙な真似させねぇよ。」


 ジオウが追いかける。

 追いついた瞬間に膝を入れる。

 さらに大剣を振り下ろす。

 偽魔王が辛うじて防ぐ。


「がむしゃらなように見えて、喋る隙を与えていない。理にかなっているでござるな。」


 四天王・カゲヌイが俺の横で呟いた。

 さすが忍者。いつの間にか傍にいる。


「ジオウさん、奴の能力について知ってるんですか?」


「伝えたでござるよ。ただ……」


 カゲヌイが少し間を置いた。


「ジオウ殿は戦いながら覚えるタイプでござるから。」


「それで十分理解してるんだから怖いですよね。」


 しかし偽魔王も黙ってはいない。

 ジオウの連撃の隙間を縫って、じわじわと距離を作っていく。

 一歩引く。また一歩引く。

 そして僅かな間隙に言葉を滑り込ませた。


「〈お前はもう死んでいる〉」


 静かに。

 しかし確実に。


「……あ?」


 ジオウが止まった。


 次の瞬間、ジオウの体から力が抜けていく。

 膝が折れる。

 大剣が手から離れる。

 体が傾く。


「ジオウさん!!」


 そして。


 ジオウは、その場で崩れ落ち――


「グォォォォォォ!!」


 落ちなかった。


「……は?」


 死んでいる。


 どう見ても死んでいる。


 でも、動いていた。


 腕が振るわれる。

 脚が蹴る。

 首が変な方向に曲がったまま、なお前へ進む。


「なぜ立てる。なぜまだ動く。貴様は今、死んだはずだろうが!」


 俺も聞きたい。

 たぶん本人も分かってない。

 でも、筋肉の収縮だけで戦っている。


 いや意味が分からない。

 なんで死後硬直の前にコンボを入力出来るんだよ。


 偽魔王も、さすがに理解できなかったらしい。

 一瞬、動きが止まる。

 その隙に。

 ジオウの拳が、偽魔王の頬をかすめた。


 血が飛ぶ。

 ほんの少し。

 でも、確かに傷をつけた。


「……貴様ァ!」


 偽魔王が怒鳴る。

 その直後。

 ようやくジオウの身体が、前のめりに倒れた。


 動かない。

 今度こそ、本当に終わった。


 だが。


「――今でござる。」


 いつの間にか。

 闘技場の周囲に、無数の札が貼られていた。


 柱。

 床。

 天井。

 壊れた壁。


 ジオウが暴れている間に、全部仕込んでいたのだ。


 黒装束の爬虫類系魔族。

 影みたいに静かな男。

 四天王、カゲヌイ。


「拙者、派手なのは苦手でござる故。」


 印を結ぶ。

 札が、一斉に光る。


「六・元・封・印!」


 空間そのものが、止まった。

 六つの巨大な術式が、偽魔王を取り囲む。

 上下左右、前後。

 逃げ場がない。


 魔石の封印陣より、さらに巨大で、さらに精密。

 存在そのものを、現世から引き剥がすみたいな術だった。


「命と引き換えの、最終奥義にござる。」


 カゲヌイの口から、血が流れる。

 代償が重すぎる。

 これだけで死ぬつもりなのだ。


「これにて……終幕。」


「がっ……グガッ……!」


 六つの魔法陣が偽魔王に近づく。

 偽魔王から魂のような物が浮き出る。


「〈俺……は……〉〈封印され……〉」


 まずい。

 魂の状態になっても喋れる可能性がある。

 何か対策を考えていたその時。

 カゲヌイが、最後の一枚の呪符を投げた。


 偽魔王の口を、魂を塞ぐための符。


 だが。



キイィィィン!!



 呪符は跳ね返される。


「しまった!!」


 次の瞬間。


 くるりと向きを変えた。


「な――」


 呪符は、そのままカゲヌイ自身の口を塞いだ。


「む、ぐ……!」


 印が乱れる。


 六元封印が、崩れる。


 あと少しだった。

 あと一秒。

 本当に、それだけだったのに。

 偽魔王の〈俺にかかる"沈黙状態"は相手に跳ね返る〉の嘘が発動してしまうとは。


「……無念、でござる」


 カゲヌイが倒れる。

 封印陣も、消えた。


 偽魔王は、大きく息を吐く。


「まさか、ここまで追い込まれるとはな。」


 俺は、歯を食いしばった。

 もっと情報を伝えるべきだった。


 ジオウもカゲヌイも、偽魔王の能力は知っていたようだ。

 しかし用心深いその性格による、数々の備えについては話していなかった。


 もっと細かく。

 もっとちゃんと。

 伝えていれば。


「悔恨は、後にせよ。」


 静かな声。

 振り向く。


 山吹色に光る巨大な人型の竜が、闘技場の上空に浮かんでいた。

 十枚の羽根が静かに広がっている。

 そこに居たのは、四天王最後の一人。

 [竜神 マグレッド=エンド]だった。


「敵性存在の解析は完了した。」


「え」


「言語化された虚偽を、現実へ強制変換する術式。ならば、言語化させねばよい」


 竜神は、偽魔王の前に降り立つ。

 この世界で最高レベルの存在が、静かに対峙する。


「ほう」


 偽魔王が笑う。


「最後は貴様か。竜風情が。」


「矮小」


「なに?」


「貴様は、魔王の模造品に過ぎぬ。」


 空気が凍る。

 偽魔王の顔が引きつる。


「……殺す。」


「やってみよ。」


 次の瞬間、二人がぶつかった。

 竜神の拳。

 偽魔王の蹴り。

 地面が吹き飛ぶ。

 闘技場の残骸が、まとめて宙へ舞う。


 だが、竜神は押されない。

 むしろ、一方的に攻めていた。


「〈俺は――〉」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 竜神が、いきなり叫ぶ。

 鼓膜が破れそうな大声。

 というか、たぶん普通の人なら破れてる。

 偽魔王が、耳を押さえる。


「ぐっ……!」


「続けよ。」


「〈俺は、貴様の――〉」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


「やめろォ!!」


 偽魔王が、キレた。

 竜神は、偽魔王が喋ろうとするたびに、全力で叫ぶ。

 なんだその作戦。

 でも、理にはかなっている。


 嘘を言わせなければ、能力は使えない。

 それを叶えるのは、竜神の異様な肺活量。

 偽魔王は、防戦一方になる。


 いける。

 このままなら。

 そう思った、一瞬。


 偽魔王の口元が、歪んだ。


「――っ」


 手を叩く。


 パン、と。


 たった、それだけ。

 その瞬間。


 世界が止まった。


 いや。

 止まったように見えた。

 次の瞬間には、もう終わっていた。


 竜神の身体が。

 肩から腰まで、斜めに裂けていた。

 真っ二つ。

 血が、遅れて噴き出す。


「……時間停止。」


 龍神が、小さく呟く。


「概念干渉系、であったか。」


 そのまま。

 倒れた。


 偽魔王の奥の手。

 〈俺は手を叩くことで時を止めることが出来る〉。

 もうあいつを止めることは出来ないのか。

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